イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

九大と東大など、光の任意の偏光状態を磁性体に書き込み・読み出すことに成功

2014-11-22

光の任意の偏光状態を磁性体に書き込み・読み出すことに成功


<概要>
 九州大学 大学院理学研究院の佐藤 琢哉 准教授と東京大学 生産技術研究所の志村 努 教授、飯田 隆吾 博士(研究当時大学院生)は、フリードリッヒ・アレクサンダー大学エアランゲン・ニュルンベルグ(ドイツ)の樋口 卓也 博士、チューリッヒ工科大学(スイス)のマンフレッド・フィービッヒ 教授と共同で、光パルス(※1)の任意の偏光状態(※2)を磁性体の磁化振動モード(※3)として転写し、それらを情報媒体として書き込むことに成功しました。また、時間的に遅れて照射された別の光パルスを用いて磁化振動モードを読み取り、元の偏光状態の情報を失うことなく読み出すことに成功しました(図1)。この成果は、光が持つ偏光自由度を用いた多重度・偏光メモリーの研究開発につながることが期待されます。
 本研究成果は、2014年11月17日16時(英国時間)に、英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に掲載されます。


■背景
 磁性体は不揮発性を持つことからS/N極を記録媒体として広く利用されてきましたが、他にも多様でかつ特異な性質を持ちます。例えば、反強磁性体(※4)は磁場を加えなくても数テラヘルツ(※5)の共鳴周波数を有するため、超高速に動作する素子としての可能性を秘めています。
 光を磁性体に照射したときに、磁化(※3)の向きなどの性質が変わる効果を光磁気効果と呼びますが、実際、照射する光の偏光状態によってその効果が変わる磁性体が存在します。これまでに円偏光の光を照射すると磁化の向きが高速に回転することが示されていますが、まだ基礎的な研究レベルに留まっています。他方、直線偏光の光による光磁気効果は光磁気(MO)ディスクやミニディスク(MD)として商品化されていますが、磁性体の性質が変わる理由は光の吸収による加熱効果であり、偏光の自由度を活かしたものではありません。このように光が持つ偏光自由度を最大限に活用して非熱的・超高速に磁気情報の制御を行う研究や開発は、ほとんど例がありませんでした。


■内容
 本研究ではまず、3回対称性(※6)を持つ反強磁性体(図2)に注目しました。この性質を持つ六方晶YMnO3(Y:イットリウム、Mn:マンガン、O:酸素)は、3つの直交する独立な磁化振動モードを示します。ここに偏光ストークスパラメータS1,S2,S3(◇)(※2、図1左)の光パルスを照射すると、それぞれXモード、Yモード、Zモードの磁化振動モード(図1中、図3)が誘起されます。これは光の3つの偏光自由度すべてを独立に磁化振動モードという形で転写できたことを意味します。さらに光パルスに対して時間的に遅れて照射された別の光パルスを用いて、この3つの磁化振動モードを独立に読み出すことに成功しました(図1右)。また、偏光がねじれたダブル光パルスを用いて、約1テラヘルツで回転運動する磁化振動モードを単結晶系で引き起こすことにも初めて成功しました。この結果は、振動モードのそれぞれに「重ね合わせの原理(※7)」が成り立ち、ポアンカレ球(※2)上の任意の点で示される偏光を持つ光パルスの偏光情報を、磁性体に書き込み、またそれを別の光パルスで読み出せることを意味しています。

 ◇「S1,S2,S3」の正式表記は添付の関連資料を参照


■効果・今後の展開
 従来の偏光メモリーは、偏光ストークスパラメータS1,S2,S3のうちのどれか1つのパラメータの符号(±)を「0」と「1」のビット情報として記録していました。本研究の成果により、3つのパラメータをすべて用いて光の任意の偏光を保存する多重度・偏光メモリーの研究・開発が可能になるものと期待されます。
 また、本研究で得られた回転運動する磁化振動モードは円偏光のテラヘルツ電磁場パルスを放出すると予想しています。これによりテラヘルツ周波数帯での円二色性や光学活性を調べることが可能になり、セキュリティチェック、医療診断、分子構造解析、建物の非破壊検査など、幅広い分野での応用が期待されます。


■発表雑誌
 雑誌名:Nature Photonics 2015年1月号
 論文タイトル:Writing and reading of an arbitrary optical polarization state in an antiferromagnet
 著者:Takuya Satoh,Ryugo Iida,Takuya Higuchi,Manfred Fiebig,Tsutomu Shimura
 DOI番号:10.1038/NPHOTON.2014.273


 ※本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
  研究領域:「光の利用と物質材料・生命機能」
  研究総括:増原 宏 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科 特任教授
             台湾国立交通大学 講座教授
  研究課題:「フェムト秒光波制御による超高速コヒーレントスピン操作」
  研究者:佐藤 琢哉 九州大学大学院理学研究院 准教授
             (平成26年3月まで東京大学生産技術研究所 助教)
  研究期間:平成22年10月〜平成26年3月


 *用語解説・図1〜3は添付の関連資料を参照



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版