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阪大など、多発性硬化症で神経が傷つけられる仕組みを解明

2014-11-20

多発性硬化症で神経が傷つけられる仕組みを解明
〜神経疾患に対する新たな治療法開発に期待〜

<ポイント>
 ◇多発性硬化症の神経傷害機構は十分に解明されていなかった。
 ◇神経傷害に関わる主要な細胞と分子を特定し、そのメカニズムを突き止めた。
 ◇多発性硬化症神経症状を改善する新規治療法開発につながることに期待。


 JST戦略的創造研究推進事業において、大阪大学 大学院医学系研究科の山下 俊英教授らは、多発性硬化症 注1)で中枢神経が傷つけられるメカニズムを発見しました。
 多発性硬化症は免疫系の異常によって中枢神経に炎症が生じ、神経が傷つけられる難病で、手足の麻痺や感覚異常、視覚障害など重篤な症状が現れます。免疫系細胞が中枢神経に侵入して炎症を起こすことが神経傷害の原因であることはわかっていましたが、なぜ炎症によって神経が傷つけられるのかという仕組みは不明でした。
 本研究グループは、多発性硬化症に類似する脳脊髄炎 注2)を発症するモデルマウスを用いて、炎症による神経傷害には「RGMa 注3)」と呼ばれるたんぱく質が関与すること、さらにある特定の免疫細胞がRGMaを介して神経傷害を引き起こすことを明らかにしました。RGMaの働きを抑制する中和抗体の投与によって、脳脊髄炎による神経傷害を改善させることに、マウスの実験で成功しました。
 今回の研究成果により、多発性硬化症をはじめとした炎症を伴う中枢神経疾患に対する新規治療薬の開発につながることが期待されます。
 本研究成果は、2014年11月13日(米国東部時間)に米国科学誌「CellReports」のオンライン速報版で公開されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

  戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
   研究領域:「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」
         (研究総括:小澤 瀞司 高崎健康福祉大学 健康福祉学部 教授)
   研究課題名:「中枢神経障害後の神経回路再編成と機能回復のメカニズムの解明」
   研究代表者:山下 俊英(大阪大学 大学院医学系研究科 教授)
   研究期間:平成22年10月〜平成28年3月

 JSTはこの領域で、脳神経回路の発生・発達・再生の分子・細胞メカニズムを解明し、さらに個々の脳領域で多様な構成要素により組み立てられた神経回路がどのように動作してそれぞれに特有な機能を発現するのか、それらの局所神経回路の活動の統合により、脳が極めて全体性の高いシステムをどのようにして実現するのかを追求します。またこれらの研究を基盤として、脳神経回路の形成過程と動作を制御する技術の創出を目指します。
 上記研究課題では、脳の障害後に代償性神経回路が形成される分子メカニズムを解明するとともに、神経回路の再編成を促進することによって、失われた神経機能の回復を図る分子標的治療法の開発を行います。


<研究の背景>
 多発性硬化症の病変は脳、視神経、脊髄などに広範に分布し、さまざまな神経症状を呈します。また、この症状は再発と寛解 注4)を繰り返すという特徴もあります。この病気では再発を繰り返すうちに、徐々に神経機能障害からの回復が困難な状態になります。これまで多発性硬化症脱髄疾患と呼ばれ、神経細胞の軸索を取り巻く髄鞘 注5)が傷つけられると考えられてきましたが、最近の研究によって、発症初期から神経細胞が傷つけられていることがわかってきました。中枢神経はひとたび損傷を受けると再生は困難なため、神経傷害を抑えることが治療を考えるうえで非常に重要になります。しかし、炎症部で生じる神経傷害のメカニズムは十分に解明されていませんでした。
 RGMaたんぱく質は、発生期の神経回路の形成に関わることが知られている一方、免疫反応にも関与していることが近年の研究で明らかになっています。本研究グループは、免疫システムの司令塔であるヘルパーT細胞 注6)の1種がRGMaを強く発現していることを突き止め、ヘルパーT細胞が発現するRGMaの役割を明らかにすることを目的に本研究を開始しました。


<研究の内容>
 ヘルパーT細胞は、その特性によっていくつかの種類に分かれています。マウスの脾臓から採取した未分化なヘルパーT細胞をそれぞれの種類のT細胞に分化させて、RGMaの発現量を調べたところ、Th17細胞 注7)と呼ばれるT細胞がRGMaを強く発現していることを見いだしました(図1)。
 Th17細胞は多発性硬化症の発症に重要な細胞であることが知られています。そこで、Th17細胞に発現しているRGMaが、多発性硬化症においてどのような役割をもっているかを明らかにするため、次のような実験を行いました。
 まず、中枢神経で活性化するTh17細胞を、マウスから取り出して培養し、別のマウスに移植して多発性硬化症に類似した脳脊髄炎を誘導します。次に、Th17細胞を移植されて脳脊髄炎を起こしたマウスに対して、RGMaの機能を阻害することができる抗体 注8)を投与し、病状がどのように変化するのかを検討しました。その結果、RGMa中和抗体を投与されたマウスでは、四肢の麻痺などの症状が改善しました(図2)。さらに、このマウスの脊髄を観察したところ、RGMa中和抗体の投与を受けたマウスでは、炎症部における神経細胞の傷害が少なくなっていました(図3)。この実験結果は、Th17細胞が発現するRGMaが脳脊髄炎による神経細胞傷害を悪化させていることを示唆しています。
 脳脊髄炎の炎症部では、Th17細胞が直接神経と接触していることがわかっています。また、RGMaは細胞膜上に存在するたんぱく質です。Th17細胞がRGMaを介して直接的に神経細胞を傷つけているのかを検討するため、Th17細胞と神経細胞の培養実験を行いました。Th17細胞と一緒に培養した神経細胞は死んでいく様子が多く観察されたのに対し、RGMa中和抗体とともに培養すると、Th17細胞による神経細胞死が抑制されました(図4)。また、Th17細胞の培養液のみでは神経細胞死が観察されませんでした。この実験結果により、Th17細胞はRGMaを介した直接的な接触により神経細胞を傷つけていることが示されました。
 本研究はTh17細胞が神経を傷つけるメカニズムを明らかにしたものであり、RGMaを阻害することが、多発性硬化症の神経傷害に対して有効な治療法となりうることを示したものです(図5)。


<今後の展開>
 近年、Th17細胞は多発性硬化症のみでなく、視神経脊髄炎 注9)やアルツハイマー病 注10)など、さまざまな脳神経疾患の病態に関わっていることが報告されています。今後、これらの脳神経疾患におけるTh17細胞の役割がより詳細に明らかになることで、有効な治療法が開発されることが期待されます。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・参考図 図1〜5
  ・用語解説
  ・論文タイトル



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