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東大など、DNA損傷下における細胞周期の新たな制御因子Rad54Bを発見

2014-11-18

がん発生の基盤となる仕組みを探る
―DNA損傷下における細胞周期の新たな制御因子―


1.発表者:
 安原 崇哲(東京大学大学院医学系研究科 博士課程4年)
 鈴木 崇彦(帝京大学 医療技術学部 診療放射線学科 教授)
 桂 真理(東京大学アイソトープ総合センター 特任助教)
 宮川 清(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター 放射線分子医学部門 教授)

2.発表のポイント:
 ◆DNAが損傷した状況では本来、細胞周期(注1)を停止させる仕組みが存在するが、その仕組みを無効にする新たな遺伝子Rad54Bを発見した。
 ◆Rad54BがDNA損傷下で細胞周期を進行させ、遺伝情報の異常を伴った細胞の生存を促進することは、がん発生の第一歩となりうる。
 ◆Rad54Bの発現量は、がんにおいて増加していることを確認し、Rad54Bタンパク質は新たながん治療の標的となることが期待される。

3.発表概要:
 がんとは、細胞周期を制御する仕組みが働かなくなることで、本来起こるべきではない細胞分裂が繰り返されている状態であり、私たちの染色体に記録された遺伝情報(注2)に異常が蓄積することによって引き起こされます。細胞周期を制御する仕組みを支えているのは、細胞内のがん抑制遺伝子群(注3)であり、実際に多くのがんでそれらの遺伝子の機能に異常が発見されています。私たちの体内で頻繁に起こっているDNA損傷(注4)がそのような異常の蓄積の引き金となることは判明していますが、その後どのような過程を経てがんが発生するのか、その大部分は明らかになっていません。
 今回、東京大学大学院医学系研究科の安原崇哲大学院生と宮川清教授らの研究グループは、DNA損傷後の細胞の生死を決定する仕組みが、がんの発生過程に与える影響の大きさに注目し、その仕組みを制御する新たな遺伝子Rad54Bを発見しました(図1)。Rad54BがDNA損傷下で過剰に働いた場合には、本来停止させるべき細胞周期が進行し、遺伝情報に異常をもった細胞の生存を促進することがわかりました。このような細胞の生存は、がん発生過程の第一歩となりうることから、将来的にはRad54Bタンパク質を標的としたがん治療によって、がんの進展を抑えるのみならず、がんの発生を未然に防ぐことが可能になると期待されます。
 本研究成果は、2014年11月11日に英国科学雑誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。

4.発表内容:
【研究の背景】
 細胞は、適切なタイミングで細胞分裂を行い、適切なタイミングで細胞周期を停止することで、その恒常性(注5)を保っています。しかしながら、がんにおいては細胞周期を制御する仕組みが異常を来たしており、本来起こるべきではないタイミングで細胞分裂が繰り返されてしまいます。正常な細胞では、染色体上に記録されている遺伝情報は厳重なシステムの元で守られていますが、がんにおいては遺伝情報が乱れており、その乱れによって細胞分裂が止まらなくなると考えられています。細胞は、日々外的、内的ストレスにさらされることでDNAに損傷が起こりますが、それらは精巧な仕組みによって修復され、修復ができないものは細胞死を誘導することで、遺伝情報が乱れた細胞が生存しない仕組みが備わっています。その仕組みが破綻することは、がんの発生や、がんのさらなる進展、悪性化につながると考えられていますが、それらの仕組みが細胞内でどのように制御されているのかについては、未だ多くのことはわかっていません。

【研究内容】
 そこで安原崇哲大学院生と宮川清教授らの研究グループは、がん発生過程の基盤となる仕組みを解明するため、DNA損傷が起こった後の細胞周期の制御に注目しました。正常な細胞では、DNA損傷が起こった場合、まず細胞周期を停止させ、DNA損傷を修復して生存を続けるか、細胞死を誘導するかを判断する時間的な猶予を作ります。その際に中心的な働きをするのが、p53というタンパク質で、p53が機能することで、細胞周期の進行が適切に抑制されます。しかしながら、今回研究グループが発見した遺伝子Rad54Bはp53の働きを抑制し、細胞周期を停止させる仕組みを無効化することで、DNA損傷の修復が完了しない状態のまま細胞分裂を促進することがわかり、そのような分裂の結果、染色体の欠失や重複などが培養細胞において観察されました。染色体異常を伴った細胞の生存を促進することは、がんの悪性化に寄与するのみならず、がんの発生過程における最初の一歩となることが想定されます。実際、さまざまな種類のヒトのがん組織において、正常組織と比べるとRad54Bの発現量が増えており、また、脳腫瘍発症後の生存率はRad54Bの発現が増加している群で低いこともわかりました。さらに、ヒトのがん細胞を移植したマウスを用いて、既存の薬剤治療と同時にRad54Bタンパク質を阻害した場合としなかった場合の治療効果を比較したところ、Rad54Bを阻害した方がより強くがんの増殖を抑えられることが判明しました。

【今後の展望】
 以上のように遺伝子Rad54Bは、がん発生の基盤となる仕組みを制御している因子の一つであることが判明しました。従って、Rad54Bタンパク質をがん治療の標的とすることで、1)既存の薬剤の治療効果を高めること、2)がんの悪性化を抑えること、さらには、3)がんの発生を未然に防ぐことが可能になると想定されます。今後、実際の臨床サンプルにおけるRad54Bタンパク質の役割をより詳細に解析し、Rad54Bタンパク質を標的とした薬剤の探索を進めることで、新たながん治療の開発につながっていくと期待されます。

5.発表雑誌:
 雑誌名:Nature Communications
 論文タイトル:Rad54B serves as a scaffold in the DNA damage response that limits checkpoint strength
 著者:Takaaki Yasuhara,Takahiko Suzuki,Mari Katsura,Kiyoshi Miyagawa
 DOI番号:10.1038/ncomms6426
 アブストラクトURL:http://www.nature.com/ncomms/2014/141111/ncomms6426/abs/ncomms6426.html


 ※用語解説などは添付の関連資料を参照



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