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産総研、貴金属と酸化物が接合したナノ粒子の生成法を開発

2014-11-15

貴金属と酸化物が接合したナノ粒子の生成法を開発
−ナノ粒子の機能高度化に期待−


<ポイント>
 ・貴金属と酸化物が接合したナノ粒子を気相中でクリーンに連続生成
 ・卑金属と貴金属の合金のナノ粒子を急激に酸化させるだけのシンプルな方法
 ・異種ナノ粒子の接合による新機能発現に期待

<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門(https://unit.aist.go.jp/nri/index_j.html)【研究部門長 山口 智彦】フィジカルナノプロセスグループ 古賀 健司 主任研究員、先進製造プロセス研究部門(https://unit.aist.go.jp/amri/)【研究部門長 淡野 正信】加工基礎研究グループ 平澤 誠一 主任研究員は、貴金属と酸化物が接合したナノ粒子の生成技術を開発した。

 貴金属と卑金属で構成される合金のナノ粒子を酸化させると、卑金属成分のみが酸化されることによって、貴金属と酸化物の分離が起こる。この際、一方向に酸化物の成長を促すことによって、酸化物ナノ粒子の一部に貴金属が接合した粒子が生成されることを、貴金属と酸化ニッケル(NiO)をモデルとして実証した。今回開発した技術によって、ナノスケールの貴金属と酸化物の接合が、複雑な化学プロセスを使用することなく可能になる。異種のナノ粒子で接合を作ることによる新しい機能の発現が期待される。

 なお、この研究成果は、英国物理学出版局(IOP Publishing)の学術誌Materials Research Expressに2014年11月11日(日本時間)にオンライン掲載される。

 ※参考画像は添付の関連資料を参照

<開発の社会的背景>
 近年、異種のナノ粒子を接合させる試みが世界中で行われている。一つのナノ粒子に、それぞれの粒子が持つ性質を共存させるためだけではなく、接合部分に起因する触媒活性などの新しい特性発現や、接合界面を介した電子的な相互作用などによって起こるシナジー効果が期待できるためである。しかし、異種のナノ粒子の間で接合を作ることは必ずしも容易ではない。一般的に接合の形成は、液相中での複雑な化学反応工程によって行われているが、金属カルボニルなどの危険な原料を使用する問題もあった。また、電子デバイスやガスセンサーなどの用途では、粒子表面の清浄性が要求されるため、表面汚染が避けられるような、クリーンな条件下でのナノ粒子の接合法の開発が望まれていた。

<研究の経緯>
 産総研では、これまでに、金(Au)やケイ素(Si)のナノ粒子のサイズや温度に対する構造変化の解明などを通じて、気相中でのナノ粒子の生成技術や透過型電子顕微鏡(TEM)による構造解析技術の蓄積を行ってきた。今回、これらの技術を駆使して、卑金属と貴金属からなる合金のナノ粒子の気相中での酸化プロセスの解明を目指した。合金ナノ粒子中のAuや白金(Pt)などの貴金属は酸化されにくいため、卑金属成分だけが酸化されることで、貴金属と酸化物が接合したナノ粒子が生成されると予想できる。しかし、これまで、合金ナノ粒子の酸化条件と、生成されるナノサイズの形態に関して、系統的な研究はほとんど存在しなかった。

 なお、本研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C)(平成22年度〜24年度)と、科学研究費基金 基盤研究(C)(平成26年度〜28年度)よる支援を受けて行った。

<研究の内容>
 今回、典型的な卑金属であるニッケル(Ni)とAuまたはPtとの合金のナノ粒子について研究を行った。レーザーアブレーション法によって、ヘリウム(He)ガス中にNi−Au合金やNi−Pt合金のナノ粒子を生成させ、酸化させると、どのような形態のナノ粒子ができるのかを、TEMを用いて詳細に調べた。合金ナノ粒子は、管状炉で加熱された石英管の中をHeガスとともに流動させることで加熱され、途中で混合させた酸素(O2)ガスによって酸化させた。ここで、図1に示す2通りの酸化方法を選んだ。図1(a)は、粒子を加熱する前にO2ガスをHeガスに混合させてから、所定温度まで加熱して酸化させるプロセスである。図1(b)は、Heガスと流動している粒子とO2ガスをそれぞれ所定温度まで加熱してから、両者を急激に混合させるプロセスであり、図1(a)よりも激しい酸化が期待される。ここで、図1(a)を緩慢酸化、図1(b)を急激酸化と呼ぶ。

 ※図1は添付の関連資料を参照

 図2(a)、(b)は、管状炉の温度を600℃に設定し、Ni−Au合金ナノ粒子(Auの原子濃度20at.%)を緩慢酸化(a)および急激酸化(b)させて得られた粒子のTEM写真である。緩慢酸化の場合、AuがNiOに囲まれるコアシェル型の形態の粒子となった。これは、合金ナノ粒子の表面が一様に酸化される、従来から報告されてきたプロセスで生成されたからである。一方、急激酸化の場合では、NiOが角棒状の形態(ナノロッド)になり、その端にAuナノ粒子が接合している「マッチ棒」のような形態となった。このようなAuナノ粒子とNiOナノロッドの接合体(Au−NiO接合ナノロッド)では、接合面がナノ粒子の表面にまで達しているため、ガスセンサーや触媒活性などの機能の発現にとって有効であると考えられる。

 ※図2は添付の関連資料を参照

 酸素分圧をコントロールした実験からAu−NiO接合ナノロッドが全く新しい酸化機構によって生成されていることがわかった(図3)。合金ナノ粒子の酸化のごく初期の段階では、ナノ粒子の表面上に小さなNiOの島が一つ生成する。急激酸化の場合は、その島が隆起するように一方向に成長してNiOのナノロッドが合金ナノ粒子の上に形成される。このとき合金からNiが酸化物として引き抜かれるためAuが濃縮され、最後にAuだけとなってナノロッドの端部に残留する。なお、急激酸化条件においても、400℃以下では接合ナノロッドは生成せず、コアシェル型粒子となった。

 ※図3は添付の関連資料を参照

 図4(a)−(d)は、さまざまな組成のNi−Au合金ナノ粒子を急激酸化して得られたAu−NiO接合ナノロッドのTEM写真である。また、(e)、(f)は、2種類の異なる組成のNi−Pt合金ナノ粒子を急激酸化して得られたPt−NiO接合ナノロッドのTEM写真である。このように、合金の種類や組成を変化させることによって、貴金属とNiOのサイズの相対比を簡単に制御できる。

 ※図4は添付の関連資料を参照

 以上のように、急激酸化によって酸化物の一方向の成長が引き起こされることで、ナノスケールの酸化物と貴金属が接合した粒子がクリーンな状態で連続的に生成できた。また、他の種々の酸化物(酸化銅、酸化スズ、酸化アルミ、酸化コバルト)に貴金属が接合したナノ粒子の生成も行ったが、生成したナノ粒子の形態は生成条件や酸化物の結晶構造などによって異なることも見いだしている。

<今後の予定>
 今後は、より多くの種類の酸化物と貴金属が接合したナノ粒子の生成を行い、酸化現象のより深い理解を目指す。また、半導体酸化物と貴金属が接合したナノ粒子については、ガスセンサーや触媒特性などの評価も行う予定である。

<用語の説明>
 ◆貴金属
 金や白金など、空気中で酸化されず、酸やアルカリにも腐食されにくい金属の総称。

 ◆卑金属
 銅や鉄など、空気中で容易に酸化される金属の総称。

 ◆シナジー効果
 一般には、1+1が2を超える効果を発揮する状況を表す言葉。ここでは、二つ以上の物質が接合することによって、個々の物質の特性が大きく変化したり、個々の物質単独では持ち得ない新しい特性が発現したりする効果を指す。例えば、金ナノ粒子は酸化物表面へ接合することによって顕著な触媒活性を示す。

 ◆金属カルボニル
 一酸化炭素と金属原子が結合してできる化合物。Fe(CO)5、Ni(CO)4などがあり、高い揮発性と毒性を持つ。

 ◆透過型電子顕微鏡(TEM)
 薄く加工した試料に電子を照射し、透過してきた電子を観察することで、物体の形状を原子レベルで観察する装置。ナノ粒子を観測する場合は、粒子を炭素膜上に付着させた試料を用いる。

 ◆レーザーアブレーション法
 高エネルギーのレーザー光を固体表面に照射することによって、一瞬にして表面層を蒸発させる方法。ヘリウムなどの不活性ガス中で行うことで、気相中にナノ粒子が生成される。

 ◆原子濃度
 複数の種類の元素の混合状態において、ある元素の原子数の割合を%で表した数値で、at.%(atomic%)で表す。

 ◆コアシェル型
 ある物質の粒子の周りを別の物質が取り囲んでいる形態。コアは芯(core)を、シェルは殻(shell)を意味する。

 ◆島
 金属表面が酸化する最初期に出現する、ナノサイズの小さな酸化物。



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