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東大、新しいプレートは大地震を起こしやすいことを発見

2014-11-10

新しいプレートは大地震を起こしやすい
−プレート浮力が地震サイズ分布を決める−


<発表者>
 西川友章(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 修士課程2年)
 井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授)


<発表のポイント>
 ◆全世界の沈み込み帯(注1)における地震サイズ分布(地震の大きさ・頻度の分布)の違いを調査し、沈み込むプレートの年代(注2)が新しい地域(チリ海溝など)ほど大地震が発生しやすいことを示した。
 ◆沈み込むプレートの重さの違いに起因する、プレート境界にかかる圧縮の力の大きさの違いが、その原因であることを解明した。
 ◆地震サイズ分布を決定する物理メカニズムの解明は、全世界の地震リスクの評価に役立つ。


<発表概要>
 世界の地震活動は、地域ごとに大きく異なる特徴をもつ。地震活動の重要な指標の一つに地震サイズ分布(地震の大きさ・頻度の分布)の傾き「グーテンベルグ・リヒター則(注3)のb値」がある。b値は、大きな地震と小さな地震の発生数の比を表しており、b値が小さいことは相対的に大地震が多いことを意味する。世界には大地震が多い(b値が小さい)沈み込み帯と大地震が少ない(b値が大きい)沈み込み帯があることは知られていたが、そのようなb値の違いを生む原因は明らかではなかった。

 東京大学大学院理学系研究科の井出哲 教授、西川友章 修士課程大学院生らの研究グループは全世界の沈み込み帯145領域においてb値の計算を行った。その結果、新しいプレートが沈み込む地域ではb値が小さく(大地震が多い)、古いプレートが沈み込む地域ではb値が大きい(大地震が少ない)ことを示した。さらに同研究グループは、沈み込み帯の力学モデルに基づき、沈み込み帯ごとのb値の違いを、沈み込むプレートの重さの違いに起因する、プレート境界にかかる圧縮の力の大きさの違いによって説明できることを示した。

 本研究によって、世界の沈み込み帯における地震サイズ分布を決定する基本的な物理メカニズムが初めて明らかとなった。この物理メカニズムに基づいて、全世界の地震リスクをより定量的に評価することが可能である。


<発表内容>
1)研究の背景
 巨大地震のほとんどは沈み込み帯のプレート境界で発生するが、沈み込み帯ごとの地震活動には大きな地域差が存在する。例えば、チリ海溝ではマグニチュード8を超える巨大地震が多数発生する一方、伊豆・小笠原海溝ではそのような巨大地震はまれである。このような地震活動の地域差を生む物理メカニズムの解明は、世界的な地震リスク評価にとって重要である。地震観測網の発達により、近年、全世界的な地震活動の比較研究や、地震活動を支配する物理メカニズムの研究の環境が整いつつある。

 地震サイズ分布(地震の大きさ・頻度の分布)の傾きを「b値」という。b値は、大きな地震と小さな地震の発生数の比を表している。b値が小さいことは相対的に大地震が多いこと、b値が大きいことは相対的に大地震が少ないことを意味する。b値は、確率的な地震活動の予測や地震リスクの評価にとって最も基礎的な情報である。世界の沈み込み帯には、b値の地域差が存在することが知られていたが、その原因は明らかではなかった。

2)研究内容・結果
 b値の重要な性質の一つに応力(注4)との相関がある。岩石を破壊する実験により、岩石中の応力が高ければ高いほどb値が小さくなる負の相関があることが示されている。高応力下の岩石中には大きな破壊(地震)が起きやすい。つまりb値が小さい。この関係から、b値の地域差は地球内部の応力の地域差を反映していると推測される。この仮説を検証するため、東京大学大学院理学系研究科の井出哲 教授、西川友章 修士課程大学院生らの研究グループは、全世界の沈み込み帯を約500km × 200kmの大きさの145領域に分割し、それぞれの領域において過去約30年の地震活動記録(Advanced National Seismic Systemカタログ)からb値を計算した。そして、沈み込み帯の力学モデルにおいてプレート境界での応力を決定すると考えられている沈み込み帯の物理的性質(沈み込むプレートの年代、プレート運動速度)と計算されたb値の比較を行った。その結果、沈み込むプレートの年代が古ければ古いほどb値は大きくなる正の相関を示すことが分かった(図1)。これは、新しいプレートが沈み込む地域(チリ海溝など)では相対的に大地震が多く(b値が小さい)、古いプレートが沈み込む地域(伊豆・小笠原海溝など)では相対的に大地震が少ない(b値が大きい)ことを意味する。

 以上の結果は、沈み込み帯ごとの地震サイズ分布の違いは沈み込むプレートのもつ浮力の大きさの違いに起因することを示している(図2)。新しいプレートは温度が高く、軽い。そのため新しいプレートが沈む込む地域ではプレートが沈みにくく、プレート境界にかかる応力が大きい。そのような大きな応力下の沈み込み帯では、大地震が発生しやすい(b値が小さい)。逆に、古いプレートは冷却されており重い。そのため、古いプレートが沈み込む地域ではプレートが沈み込みやすく、プレート境界にかかる応力が小さい。そのような小さな応力下の沈み込み帯では大地震は少なくなる(b値が大きい)。

 また、近年、マグニチュード9クラスの超巨大地震が発生したスマトラ、東北地方では、b値が沈み込むプレートの年代から期待される値と比べ小さくなっていることが分かった。これらは超巨大地震直前の高応力状態を反映しているかもしれない。

 ※図1・2は添付の関連資料を参照

3)研究の意義と今後の展開
 本研究は、世界の沈み込み帯における地震サイズ分布(地震の大きさ・頻度の分布)が沈み込むプレートのもつ浮力の大きさによって決定されるという仮説に対し、これまでにない強力な証拠を提示するものである。このような地震活動を支配する物理メカニズムの解明は世界的な地震リスクの評価に役立つことが期待される。今後、全世界の沈み込み帯のb値を監視することによって、プレート境界にかかる応力の蓄積を検知できる可能性がある。観測されたb値が、それぞれの沈み込み帯におけるプレートの浮力から期待される値よりも著しく小さい場合、それはプレート境界が異常な高応力状態にあることを示唆する。実際、スマトラ地震や東北沖地震等の巨大地震の前にb値の低下が報告されており(Nanjo et al.2012)、このような高応力状態は近い将来の巨大地震の準備過程を反映したものである可能性が高い。

 ●この研究は以下の資金により行われた。
  科学研究費補助金(日本学術振興会)基盤研究(A) 23244090
  科学研究費補助金(文部科学省)新学術領域研究 21107007


<発表雑誌>
 雑誌名
  「Nature Geoscience」(オンライン版:11月2日)

 論文タイトル
  Earthquake size distribution in subduction zones linked to slab buoyancy

 著者
  Tomoaki Nishikawa and Satoshi Ide

 DOI番号
  10.1038/ngeo2279

 アブストラクトURL
  http://dx.doi.org/10.1038/ngeo2279


<用語解説>
 注1 沈み込み帯
  地球の表面を覆うプレートが他のプレートの下に沈み込む場所。南海トラフや日本海溝なども沈み込み帯である。沈み込み帯では大小さまざまな地震が発生する。

 注2 プレート年代
  プレートは海嶺で生まれ(東太平洋海嶺など)、沈み込み帯で沈み込む。海嶺で生まれたときを0年とする。生まれたばかりの新しいプレートは温度が高く、軽い。一方、伊豆・小笠原海溝などでは約1億4千万年前に生まれた非常に古く、重いプレートが沈み込みこんでいる。

 注3 グーテンベルグ・リヒター則
  地震の発生頻度と大きさに関する法則。地震の発生頻度は、地震のマグニチュードが大きくなると指数関数的に減少する。例えば、b値が1のとき、マグニチュードが1つ大きくなると、地震の発生頻度は10分の1になる。

 注4 応力
  物体内部の圧縮、引張などの力。ここでは、圧縮の力が大きいことを「応力が大きい、高い」と表現している。



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