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東大、関節リウマチの進行を抑えるシグナルを発見

2014-11-10

関節リウマチの進行を抑えるシグナルの発見


<発表者>
 壷阪 義記(東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程4年;当時)
 中村 達朗(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 特任助教)
 村田 幸久(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 准教授)


<発表のポイント>
 ◆関節リウマチを発症させたマウスを用いて、関節における炎症を抑えて病気の進行を抑える受容体を発見しました。
 ◆この受容体を刺激すると関節の炎症を慢性化させるマクロファージの活性を抑えることが分かりました。
 ◆関節リウマチは患者が多く、私達にとって非常に身近な病気でありながら現在のところよい治療法がないため、本発見は新しい治療薬の開発に繋がる可能性があります。


<発表概要>
 関節リウマチ(関節炎)は日本で約70−80万人が患う慢性炎症をともなう疾患です。非常に身近な疾患でありながら、発症原因の解明や治療方法の開発が遅れている疾患の1つです。これまでの研究から、炎症を起こした関節に浸潤(注1)してくるマクロファージ(注2)と呼ばれる免疫細胞が炎症の悪化や持続に強く関与することが示唆されていました。しかし、それを効率よく抑えて関節の炎症を鎮める方法がありませんでした。
 東京大学大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授と同博士課程の壷阪義記大学院生(当時)らの研究グループは、(1)プロスタグランジンD2(注3)と呼ばれる生理活性物質が結合する受容体CRTH2が欠損したマウスでは関節へのマクロファージの浸潤が増加して関節リウマチの症状が劇的に悪化することや、(2)CRTH2の刺激がマクロファージの活性を抑えて炎症を抑える作用をもつことを発見しました。
 本成果は関節リウマチに対する新しい治療方法の開発に繋がる可能性があります。


<発表内容>

【研究の背景】
 関節リウマチ(関節炎)は関節内への炎症細胞の浸潤、滑膜細胞(注4)の増殖、骨軟骨(注5)の破壊を示す原因不明の自己免疫疾患で、現在日本に70−80万人の患者がいると推定されています。関節リウマチ患者の滑膜組織内では、好中球やマクロファージ、肥満細胞、T細胞といった炎症細胞の浸潤が確認されます。中でもマクロファージは関節リウマチ患者の関節内にもっとも多く存在する細胞の1つであり、症状の進行と持続に重要な働きをもつ細胞として注目されています。

 関節リウマチの発症と進行にはプロスタグランジン(PG)の産生と活性が深く関わることも報告されています。これまでプロスタグランジンの産生を阻害するシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬が関節リウマチ治療に有効であることや、主要なプロスタグランジンであるPGI2やPGE2がマウスの関節炎を増悪させることが報告されており、プロスタグランジンはリウマチの増悪因子として認識されてきました。

 中でもプロスタグランジンD2(PGD2)はCOXとPGD2合成酵素の活性により産生されるプロスタグランジンの1つです。関節リウマチを発症させたマウス(関節リウマチのモデルマウス)を用いた先行研究により、血清中のPGD2量が正常なマウスと比べて非常に高いことが報告されていますが、PGD2が関節リウマチに対して与える影響についてはわかっていませんでした。そこで、村田幸久准教授らは、PGD2と結合する受容体の1つであるCRTH2受容体シグナルが関節炎に与える影響を調べました。


【研究内容】
 正常なマウスの(WT)足関節周囲にアジュバント(注6)を皮下注射すると、肢組織中のPGD2含有量の増加や肢の腫大、足関節への炎症細胞の浸潤、関節軟骨の破壊が観察されました。CRTH2の遺伝子を欠損させたマウス(CRTH2-/-)では、正常なマウスと比べて肢の腫れや足関節への炎症細胞の浸潤、関節軟骨の破壊といった症状が悪化しました(図1)。

 正常なマウスの骨髄をCRTH2の遺伝子を欠損させたマウスへ移植したところ、関節炎の症状が緩和し、逆に遺伝子欠損マウスの骨髄を正常なマウスへ移植することで関節炎の症状が悪化することが分かりました。つまり、骨髄から分化する免疫細胞のCRHT2刺激が関節の炎症を抑制することを示すものです。

 さらにCRTH2の欠損は炎症を起こした関節に浸潤するマクロファージの数を増加させることが分かりました(図2)。マクロファージの活性化を抑制したり、マクロファージを除去する薬を処置するとCRTH2の遺伝子を欠損させたマウスで見られた関節炎の症状が改善することが分かりました。さらに、CRTH2を欠損させたマクロファージを追加移入すると、正常なマウスでみられる関節炎の症状が悪化しました。

 加えて、CRTH2を欠損したマクロファージはアジュバントの刺激に対して、マクロファージ自身の分化に関わるgranulocyte−macrophage colony−stimulating factor(GM−CSF)やその遊走に関わるCXCR−2といった遺伝子の発現量が正常なマウスのマクロファージに比べて高いことが分かりました。

 ※図1・図2は添付の関連資料を参照


【考察・社会的意義】
 本研究はマウスの関節リウマチモデルを用いて、CRTH2受容体の刺激がマクロファージの活性や浸潤を抑えることで炎症症状を抑制することを初めて示した報告です。本成果は、CRTH2受容体を標的とした治療への応用が期待されます。今後は、CRTH2受容体がどのように細胞内へ情報を伝達し、炎症を抑制するのか、その機序のさらなる解析を進める予定です。


<発表雑誌>
 雑誌名 Journal of Immunology「オンライン版」
 論文タイトル A Deficiency in the Prostaglandin D2 Receptor CRTH2 Exacerbates Adjuvant−induced Joint Inflammation
 著者 #Yoshiki Tsubosaka,Tatsuro Nakamura, Hiroyuki Hirai,Masatoshi Hori,Masataka Nakamura,Hiroshi Ozaki, *Takahisa Murata.
     #:first author *:corresponding author
 DOI番号 doi:10.4049/jimmunol.1303478
 論文URL http://www.jimmunol.org/content/early/2014/10/31/jimmunol.1303478.abstract


<用語解説>
 注1 浸潤
  本来その組織固有のものでない細胞が、組織の中に出現すること。
 注2 マクロファージ
  免疫細胞の一種で、生体内に侵入した細菌などの異物を捕らえて細胞内で消化するとともに、サイトカインを大量に産生して炎症反応を引き起こし、免疫情報をリンパ球に伝える働きを持つ。
 注3 プロスタグランジン(PG)
  細胞膜の脂質から産生される生理活性物質。炎症反応の主体をなす。主なものとしてPGE2,PGI2,PGF2,PGJ2,PGD2などがある。
 注4 滑膜細胞
  関節を包む膜を構成する細胞。
 注6 アジュバント
  免疫応答を増強する物質。





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