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東大、神経細胞の形づくりを調節する分子としてStripタンパク質を発見

2014-10-18

神経の形づくりを支える細胞内物流システム
−細胞内輸送に関わる新しい分子Stripの発見−


1.発表者:
 千原 崇裕(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 准教授)
 佐久間 知佐子(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 特任研究員)


2.発表のポイント:
 ◆神経細胞の形づくりを調節する分子としてStripタンパク質を見出しました。
 ◆Stripタンパク質が細胞内輸送に関わる分子群と複合体をつくり細胞内輸送を制御していることを明らかにしました。
 ◆Stripタンパク質はヒトにも存在するため、神経の形づくりに関わる基本的な仕組や、神経関連の遺伝病、神経変性疾患などの発症機序の理解に繋がることが期待できます。


3.発表概要:
 細胞内に存在する無数のタンパク質が独自の能力を発揮するためには、各々のタンパク質が、細胞内の適切な場所へ、適切な量、適切なタイミングで運ばれる必要があります。このような細胞内でのタンパク質輸送システムは、細胞の生存や増殖にも関係しており、これまでにも多くの研究が行われてきました。しかし、複雑な細胞突起を持つ神経細胞における細胞内輸送、特に生体内(脳内)における細胞内輸送の研究はあまり進んでいませんでした。
 東京大学大学院薬学系研究科の千原崇裕准教授、佐久間知佐子特任研究員らは、慶応大学の川内健史特任講師ら、米スタンフォード大学Liqun Luo教授、米ノースウェスタン大学Vladmir I.Gelfand教授と共同で、神経細胞の細胞内輸送を調節する分子としてStripタンパク質を見出し、その解析により適切な細胞内輸送が神経の形づくりに重要であることを突き止めました。まず、ショウジョウバエを用いた遺伝学的解析により、Stripタンパク質をつくることができない神経細胞の突起が異常に短いことを示しました。さらに解析を進め、Stripタンパク質が細胞内輸送に関わる分子群と複合体をつくり、神経細胞の突起内の物質輸送を調節することで突起の形づくりを制御していることを明らかにしました。Stripタンパク質は、進化的に保存されており、酵母、マウス、ヒトにも存在します。今後、Stripタンパク質の機能を詳細に解析することにより、神経回路形成の仕組み、さらには神経変性疾患の発症機序の理解にも繋がることが期待できます。


4.発表内容:
 細胞内のタンパク質は、膜に包まれた状態で、適切な場所に、適切な量、適切なタイミングで振り分けられます。これは細胞内輸送とよばれ、さまざまな生理現象の根幹となっています。2013年のノーベル医学生理学賞ではこの基本的な機序解明の功績が賞されました。ノーベル賞を受賞した研究がなされて以降、細胞内輸送に関わる分子群は多数同定され、その機序の理解が進んできました。しかし、それら研究の多くは細胞を生体内から取り出した培養系で行われており、生体内、特に実際の脳内の神経細胞における細胞内輸送に関する研究はあまり進んでいませんでした。

 東京大学大学院薬学系研究科の千原崇裕准教授、佐久間知佐子特任研究員らは遺伝学手法の発達したショウジョウバエをモデル動物として用い、神経細胞の突起、軸索が短くなる変異体ドジ(dogi)を単離しました。dogi変異体を詳細に調べると、Stripタンパク質の量が減少していることが明らかになりました。Stripタンパク質は、酵母、マウス、ヒトにも存在することから重要な役割を持っていると考えられていましたが、その機能はほとんど解析されていません。さらに遺伝学的、生化学的手法を駆使することで、Stripタンパク質が、細胞内輸送に関わるGluedおよびSprintと複合体を形成することを明らかにしました。

 GluedとSprintは、細胞内輸送の一つの様式であるエンドサイトーシス経路(図1)に関わるタンパク質です。神経細胞の生存や伸長に必要な因子として、神経栄養因子とその受容体によるシグナルがあります。これら細胞表面にあるタンパク質の量や活性を局所的に調節する機構としてエンドサイトーシス経路は重要です。エンドサイトーシス経路は、細胞表面にあるタンパク質を膜(小胞)で包み込むことで細胞内に取り込み、さらに細胞内に取り込まれた小胞は、小胞同士で融合することによって成熟し、取り込んだタンパク質を分解するか、膜表面へリサイクルするかという仕分け作業を行っています(図1)。GluedもSprintも取り込まれた小胞が成熟する過程に寄与しており、Gluedは小胞が微小管上を輸送される過程、Sprintは小胞同士が融合する過程をサポートしています。

 今回、GluedとSprintの両者と複合体を形成するStripタンパク質を見つけたことにより、小胞の輸送と融合は密接な関係にあることが示唆されました。実際に、Glued、Sprintがつくれないようにした「Glued、Sprintの2重ノックダウン」ではStripノックダウンと同様の軸索伸長異常が観察されました。また、Stripをノックダウンした神経細胞では小胞の局在に異常があることも確認できました。すなわちStripは「小胞輸送に関わるGlued」と「小胞融合に関わるSprint」の複合体形成の足場となることで小胞成熟に関与し、軸索伸長を制御していることが明らかとなりました(図2)。以上の結果から、軸索が伸長する際のエンドサイトーシス経路の生理的意義が明らかになりました。

 本研究より、古典的なエンドサイトーシス経路に新たなメンバーStripが関与していることを示し、今後、細胞輸送に新たな洞察を与えることが期待されます。また、細胞内輸送は神経細胞の形づくりのみならず、神経系の恒常性維持にも重要であるため、恒常性の破綻した神経変性疾患の理解にも繋がると予想されます。


5.発表雑誌:
 雑誌名:「Nature Communications」
 論文タイトル:Drosophila Strip serves as a platform for early endosome organization during axon elongation
 著者:Chisako Sakuma,Takeshi Kawauchi,Shuka Haraguchi,Mima Shikanai,Yoshifumi Yamaguchi,Vladimir I.Gelfand,Liqun Luo,Masayuki Miura and Takahiro Chihara(*)(*:責任著者)
 DOI番号:DOI:10.1038/ncomms6180


 ※添付資料は添付の関連資料を参照



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