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北海道大学、ARE−mRNAの安定化による細胞がん化を証明

2011-02-28

ARE−mRNAの安定化による細胞がん化を証明



<研究成果のポイント>
 ・AU−rich element(ARE)を持つmRNAが安定化されることにより,細胞ががん化することを証明。
 ・この細胞がん化機構は以前から知られているものとは異なる新しいメカニズムである。


<研究成果の概要>
 がんは遺伝子の病気であり,遺伝子に何らかの変化(突然変異,増幅,メチル化,ウイルス・細菌などの感染に起因する変化,etc.)が起こり,その変化が蓄積することにより,細胞ががん化するというのが一般的に受け入れられている発がん機構です。我々は,ある特定のmRNAが安定化されることにより,遺伝子に変化が起こらなくても細胞をがん化できることを見出し,従来とは異なる発がん機構を証明しました。
 本研究は,北海道大学大学院歯学研究科の東野史裕准教授が中心となり実施され,研究成果は,Oncogeneのadvance online publicationで2月14日(英国時間)に公表されました。


<論文発表の概要>
 研究論文名:Viral−mediated stabilization of AU−rich element containing mRNA contributes to cell transformation(ウイルスによるARE−mRNAの安定化を介した細胞のがん化)
 著者:氏名(所属)黒嶋雄志,青柳麻里子,安田元昭,北村哲也,鄭パトリック朱蒙,石川誠,北川善政,戸塚靖則,進藤正信,東野史裕(北海道大学大学院歯学研究科)
 公表雑誌:Oncogene(http://www.nature.com/onc/index.html
 公表日:日本時間(現地時間)2011年2月15日(英国時間2011年2月14日)
      advance online publicationに公表


<研究成果の概要>
 (背景)
  細胞の増殖に関わる遺伝子のmRNAには,AU−rich element(ARE)(注1)と呼ばれる領域が存在することが多く,AREはそのmRNAの分解や安定化に関わります。安定化されるときはAREにHuRというRNA結合タンパクが結合し,ARE−mRNAはHuRと結合しながら核外輸送され安定化されます(図参照)。これまで調べられたほとんど全てのがんではARE−mRNAが安定化されており,細胞がん化との関連が指摘されていました。しかし,安定化されたARE−mRNAが実際に細胞をがん化する能力があるかどうかは証明されていませんでした。これは,ARE−mRNAを熱ショックなどの刺激により一時的に安定化することはできますが,恒常的にこれを安定化する実験システムがなかったことに起因しています。
  我々はアデノウイルスのがん遺伝子産物E4orf6が発現する細胞では,ARE−mRNAが恒常的に安定化されていることを発見したのをきっかけに(Higashino et al.,J.Cell Biol.,2005),E4orf6とARE−mRNAの両方を細胞に導入することにより,恒常的に安定化されたARE−mRNAが細胞をがん化できるのではないかと考えました。

  ※参考図は添付の関連資料を参照

 (研究成果)
  E4orf6とc−fosやc−mycなどのARE−mRNAを齧歯(げっし)類の正常細胞に導入すると,それらの細胞は形質転換を起こしたコロニーを形成することが明らかになり,また,同様の細胞のHuRをノックダウン(注2)してARE−mRNAの安定化が抑制されると,コロニー形成能が減弱することも見出し,ARE−mRNAの安定化により細胞ががん化し得ることが証明できました。(図参照)

 (今後への期待)
  本研究は,がん細胞のARE−mRNAの安定化を阻害することにより,がんを治療する新たな手法が開発できる可能性を示しました。



(注1)AU−rich element(ARE)
 mRNAの主に3’非翻訳領域に存在する,アデニン(A)とウラシル(U)に富んだ領域で,それを持つmRNAの分解に関わる配列。ARE−mRNAは普段は合成されてすぐに分解されるが,熱ショックなどの刺激が細胞に加わるとHuRタンパクがAREに結合し一時的にそのmRNAは安定化される(図参照)。がん遺伝子やサイトカインなど,細胞の増殖に関わる遺伝子から転写されるmRNAに多く存在する。

(注2)ノックダウン
 特定の遺伝子から転写されるmRNA量を減少させる操作。siRNAやmicroRNAなど,標的のmRNAと相補的な塩基配列を持つRNAを細胞に導入して,そのmRNAを分解する手法。


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アデノウイルス 北海道大学 ウイルス 大学院 RNA 朱蒙

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