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九大、熱を使った効率的な純スピン流生成に成功

2014-09-25

熱を使った効率的な純スピン流生成に成功
〜電荷レスでワイヤレスなスピンデバイスの実現に一歩前進〜


【ポイント】
 >電流を流すことなく、熱を利用して極めて効率的に純スピン流の生成に成功した。
 >従来の材料に比べ2桁以上の大きなスピン信号を検出した。
 >排熱利用スピンデバイス、ワイヤレスで動作するスピンデバイス、エナジーハーベスティング技術などの、さまざまな応用が期待される。


 JST戦略的創造研究推進事業において、九州大学大学院理学研究院の木村崇主幹教授らは、スピン(注1)を使った次世代の電子素子(デバイス)での応用が期待される「純スピン流(注2)」を、熱を使って効率的に生成することに成功しました。
 電子が持つスピン(磁気)の性質を利用するスピンデバイスは、次世代の省エネルギーデバイスとして注目されています。もしスピンのみの流れ(純スピン流)を使うことができれば、電荷の流れによるジュール熱が発生しないので、エネルギー利用効率の良いスピン情報伝達が可能で、スピンデバイスのさらなる高性能化に貢献すると期待されています。しかし、これまでの手法では、純スピン流を作るために電流を流す必要があり、ジュール損失(注3)などの問題がありました。
 研究グループは、強磁性金属であるCoFeAl合金(注4)を加熱することで、電流を流すことなく極めて効率的に純スピン流を生成できることを見いだしました。さらに、同手法をデバイスに組み込むことで、2桁以上大きなスピン信号の取り出しに成功しました。
 本技術は、現在は捨てられている電子回路上の排熱を効率的に利用して動作する新しい省エネデバイスへの応用が期待されます。また、マイクロ波照射による強磁性体の発熱現象を用いることで、無駄な電気配線を減らしワイヤレスで動作するスピンデバイスも可能となります。加えて、環境中から微小な熱エネルギーを取り出し電気エネルギーに変換して利用する新しいエナジーハーベスティング技術(注5)への応用などが期待できます。
 本研究成果は、ネイチャーパブリッシンググループ(NPG)「NPGasiamaterials」のオンライン速報版で2014年9月19日(英国時間)に掲載されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)
   研究領域:「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」
         (研究総括:渡辺久恒 株式会社EUVL基盤開発センター 相談役)
   研究課題名:「電荷レス・スピン流の三次元注入技術を用いた超高速スピンデバイスの開発」
   研究代表者:木村 崇(九州大学大学院 理学研究院 主幹教授)
   研究期間:平成21年10月〜平成27年3月
 JSTはこの領域で、微細化パラダイムのみでは実現できない機能・性能を持つ、革新的かつ実用化可能なエレクトロニクスデバイスを創製するための材料・構造の開発およびプロセス開発を行っています。
 上記研究課題では、電荷レス・スピン流の3次元注入技術、スピン方向高速変調技術、およびホイスラー合金によるスピン流の超効率生成技術を開発し、優れた熱擾乱耐性を有する超高速・極低消費電力駆動スピンデバイスを試作実証します。


<研究の背景と経緯>
 次世代の省エネルギー・ナノエレクトロニクスデバイスとして、電子が持つ電荷の自由度に加えてスピン(磁気)の自由度も積極的に利用する新しい電子技術「スピントロニクス」が注目を集めています。スピントロニクス素子は、すでにハードディスクや磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)などに応用されています。これらのスピントロニクス機能の多くは、電流のスピン版である「スピン流」によって駆動されます。
 「スピン流」を作り出す方法としては、スピン偏極した電流を流すことがまず挙げられます。しかしこの方法では、スピン流が流れる領域に電流も流れてしまうため、ジュール熱による無駄なエネルギー損失が発生してしまいます。この問題を回避するため、本研究グループでは、電流を伴わないスピンの流れである「純スピン流(電荷レス・スピン流)」に着目し、それらを効率的に制御するさまざまな技術を開発してきました。純スピン流を利用することで、前述の電流による不要なエネルギー損失を排除できるため、よりエネルギー効率の良いスピンデバイスの動作が可能になると期待されています。
 しかし、これまでの方法では、(1)純スピン流生成のために電流を用いることによって生成端子におけるジュール損失が発生する、(2)純スピン流生成用の端子を別途設ける必要があり、集積化したときの配線が複雑になるなどの問題がありました(図1)。


<研究の内容>
 従来、スピントロニクス素子では、「強磁性体では上向きスピンの電子と下向きスピンの電子の電気伝導率が異なる」という性質を利用してスピン流を生成するのが一般的で、この場合、強磁性体に電位差(電圧)を与えることで電流とともにスピン流が生成されます(図2(a))。一方で、ごく最近の研究から、強磁性体では、熱電効果にかかわるゼーベック係数(注6)もスピンの向きに依存することが判明し、電位差の代わりに温度差を与えることでもスピン流が生成できることが分かってきました(図2(c))。しかし、通常良く用いられる強磁性体であるニッケル鉄(NiFe)合金やコバルト(Co)などでは、スピン上向きと下向きのゼーベック係数の差は極めて小さく、これまで熱によって生成されたスピン流をわずかに検出できたとの報告がある程度でした。
 研究グループは、ゼーベック係数が負の値も取り得ることに着目しました。電気伝導率は常に正の値となり負になることはありませんが、ある特殊な合金ではゼーベック係数が正の値だけではなく負の値も取り得ます。たとえば、上向きスピンの電子のゼーベック係数が正、下向きスピンのゼーベック係数が負の合金を考えると、その合金に温度差を与えた場合、電子はスピンの向きに応じて互いに逆方向に流れることになり、スピン流が効率的に生成されると期待できます(図2(d))。
 今回、研究グループは、期待したとおりCoFeAl合金が上記のような特性を持つことを実験的に明らかにしました。図3(a)に示すような横型スピンバルブ素子(注7)を作製し、片方のCoFeAl合金を加熱して純スピン流を生成し、もう1つのCoFeAl合金で純スピン流の強度を検出したところ、室温で約870ナノボルトのスピン信号を得ることができました(図3(b))。同様の実験を、NiFe合金を用いて行ったところ、スピン信号の大きさは、7ナノボルトとなり、CoFeAl合金を用いることで、2桁以上大きなスピン信号を取り出せることが分かりました。


<今後の展開>
 今回の結果は、CoFeAl合金では、熱を電気に変換する性質(ゼーベック効果)に比べ、熱をスピン流に変換する性質(スピン依存ゼーベック効果)の方が大きいことを示すものです。この特殊な性質を応用することで、(1)電流を流すことなく、加熱するだけで純スピン流を効率良く生成できるようになり、発熱している電子回路上に設置することで排熱を有効利用してスピン流を生成できる、(2)マイクロ波照射によって任意の場所の強磁性体を加熱できることを利用してワイヤレスにスピン流を生成できるなど、電流を用いない新しいスピンデバイスの開発が期待できます。
 この手法で効率的にスピン流を生成するには、強磁性体と非磁性体の界面の温度勾配をいかに大きくするかがポイントです。今後は、電気的な性質だけでなく、熱の空間分布なども考慮したデバイス設計が重要になります。また、上向きスピンと下向きスピンのゼーベック係数の差がCoFeAl合金より大きな値を持つ物質は他にも多く存在すると考えられ、量子式学的なシミュレーションなどに基づく物質設計指針の確立が、高性能な物質探索に極めて重要になると考えられます。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1〜3
  ・用語解説
  ・論文タイトル



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