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東レ、薬品に対する耐久性を大幅に向上させた「高耐久性逆浸透(RO)膜」を開発

2011-02-24

高耐久性逆浸透膜の開発に成功
−独自の分子設計・界面重合技術により、サブナノメートルの細孔構造の安定化を実現−



 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、独自のナノテクノロジーを駆使し、膜の基本性能である除去性能および透水性能を高いレベルで保持しつつ、膜洗浄で用いられる酸、アルカリ、塩素などの薬品に対する耐久性を大幅に向上させた「高耐久性逆浸透(RO)膜(1)」の開発に成功しました。本開発品は、膜汚れ時の繰り返し洗浄に対しても高い性能を維持できることから、原水の水質悪化のため特に膜の洗浄頻度が高いかん水淡水化用途や下廃水再利用用途への適用が期待されます。今後、市場が急速に拡大しつつある欧米、中国をはじめとするアジア、インドなどに向け、積極的に展開を図ってまいります。

 RO膜は、世界の水問題を解決しうる技術として世界の水処理プラントで採用が進んでおり、高品質の水を得るための除去性能、および省エネルギーを実現するための透水性能の向上が望まれています。また、近年はRO膜の用途拡大により様々な水質の原水を処理する必要が生じており、長期間にわたって高品質な水を安定的に供給するには、膜性能の安定性、特に薬品洗浄による膜性能の変化を抑制したいという要望が高まってきました。

 これに対して東レでは、これまで培ってきたサブナノメートルオングストローム=100億分の1m)(2)の精度での細孔径の制御技術をベースに、周囲の環境変化の影響を受けにくい細孔構造の安定化に取り組みました。この結果、高い除去性能と透水性能を保持しながら、薬品洗浄で要求される幅広いpH範囲、微量塩素などの酸化剤に対する耐久性を大幅に向上する高耐久性RO膜の開発に成功しました。

 今回開発した「高耐久性逆浸透膜」の技術ポイントは下記の2点です。

1.一次構造安定化 −分子設計−
 RO膜の核となる分離機能層は、細孔構造を持つ架橋ポリアミドからなりますが、東レはこれまで、陽電子消滅寿命測定法(3)や分子動力学シミュレーション(4)を駆使し、孔径を中心とした細孔構造を解析し、細孔径制御による高ホウ素除去RO膜などを開発してきました。今回、分子動力学シミュレーションをさらに深化させ、細孔構造を多元的(孔径、容積、数)に解析することに成功しました。本解析技術によって周囲の環境が変化した際の細孔構造の変化を予測し、環境変化においても細孔構造が変化しにくい分子設計による架橋ポリアミドの一次構造(5)安定化を実現しました。

2.高次構造安定化 −精密界面重合−
 東レは分離機能層を構成する架橋ポリアミドの高次構造(6)の安定性を、温度変調示差走査熱量測定(7)によって定量的にとらえることに成功しました。本測定で得られた情報をもとに、分離機能層の架橋ポリアミド高次構造を安定に制御しうる精密界面重合技術を創出し、酸、アルカリ、微量塩素に対する耐久性に優れる分離機能層の形成を実現しました。

 東レは、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーを融合することで、これまで高ホウ素除去RO膜や低ファウリングRO膜などの高機能膜の開発、製品化を達成しており、独自の先端材料として世界で高く評価されてきました。今回の高耐久性RO膜の開発によって、より幅広い用途に向けた提案を加速し、地球規模での水問題解決に貢献してまいります。


以上



(語句の説明)
 1)逆浸透(RO)膜
  濃厚水溶液と希薄水溶液とを半透膜で隔てて接触させると、濃度差で生じる浸透圧によって希薄水溶液側から濃厚水溶液側に水が移動します。ここで浸透圧より大きな圧力を濃厚水溶液側にかけると、水が半透膜を透過して希薄水溶液側に移動します。この現象を利用した膜分離法を逆浸透法と呼び、逆浸透法に用いる膜を逆浸透(RO)膜と言います。RO膜は、ナトリウムやカルシウムなどの金属イオン、塩素イオンや硫酸イオンなどの陰イオン、あるいは農薬などの低分子の有機化合物を除去対象としています。

 2)サブナノメートル
  1ナノメートルは10億分の1メートルであり、サブナノメートルとはその1/10、すなわち10億〜100億分の1メートルという極微細領域の世界です。

 3)陽電子消滅寿命測定法
  電子と同じ質量で反対の電荷を持つ「陽電子」と呼ばれる素粒子は、電子と衝突するとγ線を放出しながら消滅する性質があります。これを利用して、物質中に陽電子を入射させ、その寿命を測定することで物質中の空孔の大きさを測定する方法です。物質中の空孔が小さいほど、空孔以外の場所に存在する電子と衝突する確率が高いため、寿命が短くなります。この方法により、0.1〜10ナノメートル程度の空孔を測定することができます。

 4)分子動力学シミュレーション
  ポリマーのような巨大分子の運動を、コンピューターを用いて計算する方法です。ニュートンの運動方程式を用いて、分子中の各原子の位置を時間に対して追跡するシミュレーション手法で、RO膜を構成するポリマー分子やRO膜中に存在する水・溶質などの運動、存在位置に関するデータを得ることができます。

 5)一次構造
  ポリアミドの一次構造とは、アミドを形成する繰り返し単位および末端分子構造を意味しています。

 6)高次構造
  ポリマーの一次構造が分子構造であるのに対し、高次構造とは、ポリマーが取りうる立体的な構造を意味し、架橋、配向、液晶、結晶、非晶、剛直非晶、分子間相互作用などで形成される安定構造などがあります。

 7)温度変調示差走査熱量測定(TMDSC)
  従来の示差走査熱量測定(DSC)は、主に、融点、ガラス転移温度などの転移温度を測定する手法でしたが、近年、高分子の熱力学的に可逆あるいは不可逆成分を導出し、高次構造を求める手法として、温度変調示差走査熱量測定(TMDSC)が開発されて用いられてきました。今回、架橋高分子の高次構造を定量的にとらえる手法としてTMDSCを適用しました。


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