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花王、自律神経の乱れと唾液成分との関連性に関する研究成果を発表
自律神経の乱れと唾液成分との関連性に関する研究
花王株式会社(社長・澤田道隆)のパーソナルヘルスケア研究所・生物科学研究所・解析科学研究所は、オーラルケアに関して、口内環境を健康に保つ唾液機能の重要性について研究しています。
更年期やストレスなどを原因として自律神経機能の乱れが起こり、のぼせ・ほてり・疲労感・イライラなどの“不定愁訴”と呼ばれるさまざまな身体的な不調が現れることが知られています。また花王はこれまでに“不定愁訴”と口腔の不調が関連することを明らかにしてきました。
(参照:ニュースリリース2010年10月20日(http://www.kao.com/jp/corp_news/2010/20101020_001.html))
この二つの知見より、唾液腺もほかの臓器と同様に自律神経の支配下にあることから、自律神経機能の乱れにより量や成分などの唾液性状が変化し、口内環境が変化する可能性が考えられます。
しかし唾液性状、特に成分と、自律神経機能や“不定愁訴”との関連性についてはほとんど調べられていません。そこで今回、自律神経機能の乱れが比較的多いと考えられる更年期女性(45〜55歳)50名を対象に、調査研究を行ないました。
検討の結果、自律神経機能の乱れにともない、唾液中のタンパク質1479種中で、下記3種のタンパク質が特異的に減少していることがわかりました。また、これら3種のタンパク質は、おもに抗菌や解毒作用など健康維持に関わるはたらきが知られているものでした。
さらに、これら3種の唾液中のタンパク質が少ない更年期女性は、無気力で疲れやすい・肩がこる・眼が疲れるなどの“不定愁訴”と呼ばれる身体の不調を自覚している傾向が認められました。
以上の結果は、自律神経機能の乱れが、“不定愁訴”と呼ばれる身体の不調のみならず、唾液機能の低下を介して口内環境にもさまざまな影響を与えることを示唆しています。また、ストレスの多い現代社会においては、より健康な口内環境に整えるオーラルケアを検討することが必要と考えられました。
この研究結果は、日本老年歯科医学会第25回学術大会(2014年6月13〜14日)において発表しました。
◇参考資料は添付の関連資料を参照
<研究内容の詳細>
【研究の背景】
身体の状態は年齢とともに変化します。特に女性の場合、30歳ぐらいをピークに、卵巣のはたらきがゆるやかに衰え始めます。卵巣のはたらきが衰えると、卵巣から出る卵胞ホルモン(エストロジェン)の分泌が徐々に少なくなります。そして、その機能が完全にストップしてしまうと、やがて「閉経」を迎えます。閉経の平均年齢は、約50歳といわれています。更年期とは、閉経前後5年くらいのことで、年齢的には45〜55歳くらいの時期をいいます。ただし、個人差が大きく、人によってかなり違います。つまり、「更年期」とは、閉経前後の数年間の「卵巣機能が終わっていく過程」のことで、女性の身体にとっては、思春期と同じ自然な変化です。しかしながら、更年期になると、はたらきの悪くなった卵巣をなんとかはたらかせようと、卵巣をコントロールしている脳の下垂体から、性腺刺激ホルモンが大量に分泌されるようになります。こうして脳が興奮状態になると、自律神経をも刺激して失調をきたします。このようなホルモンのいちじるしい変動にともなって、イライラ・ほてり・異常な発汗などのさまざまな身体の不調、いわゆる「更年期症状」があらわれます。
口内環境とは、歯や歯ぐき、舌などの組織を取り巻く口腔全体の状態を指しますが、その口内環境を司るものの一つに唾液があります。唾液には、食物の消化作用や口内を中性に保つ緩衝作用、むし歯の再石灰化作用、口内の浄化・殺菌作用のほかに、口腔粘膜を保護する作用などもあり、これらのはたらきによって口内環境は健康な状態に保たれています。また、唾液の分泌は自律神経の支配を受けており、交感神経はおもに唾液中のタンパク質成分の分泌に、副交感神経は唾液中のおもに水分の分泌を調整していることが知られています。
これまでに、身体の不調と口腔の不調に関する自覚症状との関連について検討を行なってきており、口のネバつき・口臭・口の乾きなどの口腔の不調は身体的・精神的ストレス症状を自覚しやすい人ほど感じやすいことを明かにしてきました。
(参照:ニュースリリース2010年10月20日(http://www.kao.com/jp/corp_news/2010/20101020_001.html))
しかしながら、これらの不調がどのような変化によって発生するかについてはわかっていません。
そこで今回、身体の不調と口内環境との関連性を調べる目的で、更年期女性(45〜55歳)50名を対象に、口内環境の健康に重要な役割を果たしている唾液中のタンパク質成分と自律神経機能、および更年期に見られる身体の不調との関係を調べ、以下がわかりました。
なお自律神経は、身体や精神が緊張した時に活発となる交感神経と身体がゆったりとしている時にはたらく副交感神経の二つに支配され、自律神経失調症などで身体不調を感じる女性は、交感神経の活動度が高い傾向が知られています。そこで自律神経機能は、交感神経活動度(LF/HF)を測定して評価しました。
【研究結果】
更年期女性(45−55歳)50名を対象に、身体的自覚症状および自律神経機能と唾液成分の変化に関する調査を行ない、次の結果が得られました。
1)自律神経機能によって特定の唾液タンパク質が変動する(資料1)
検出された1479種の唾液タンパク質成分量と交感神経活動度(LF/HF)との相関分析を行ないました。その結果、唾液量に関係なくLF/HFと負の相関(交感神経活動の亢進により減少)する唾液タンパク質成分は3成分でした。これらの成分は、おもに抗菌や解毒作用などの健康維持に関わるはたらきが知られている成分でした(補足資料1)。
※1)自律神経機能によって特定の唾液タンパク質が変動する(資料1)
検出された1479種の唾液タンパク質成分量と交感神経活動度(LF/HF)との相関分析を行ないました。その結果、唾液量に関係なくLF/HFと負の相関(交感神経活動の亢進により減少)する唾液タンパク質成分は3成分でした。これらの成分は、おもに抗菌や解毒作用などの健康維持に関わるはたらきが知られている成分でした(補足資料1)。
◇資料1は添付の関連資料を参照
2)更年期に見られる自覚症状の有無は特定の唾液タンパク質濃度に影響する(資料2)
そこで交感神経活動度(LF/HF)と相関した唾液タンパク質成分3種と更年期に見られる自覚症状との関連性を解析した結果、「無気力で疲れやすい」「肩がこる」「眼が疲れる」などの自覚症状がある者は、唾液量に関係なく、これらの成分が低いことがわかりました。
◇資料2は添付の関連資料を参照
【研究方法】
■試験期間:
2012年10月〜11月
■対象者:
更年期(45〜55歳)女性50名
■試験項目:
唾液採取(10分間の安静時唾液)、心電図測定(仰臥位5分間、15回/分の統制呼吸)、更年期症状評価(自己記入式アンケート)
■分析方法:
1)唾液成分の解析(唾液プロテオーム)
唾液の遠心上清をフィルター滅菌し、還元・アルキル化・トリプシン消化後、Q−TOF MSによるペプチド情報取得。ペプチド情報からSwissProtデータベースに対する検索を行ない、タンパク質成分を照合・同定。各タンパク質の定量値は、クロマトから得られたemPAI(*1)値を用いた。
*1 emPAI:Exponentially Modified Protein Abundance Index
2)自律神経機能の評価(補足資料2)
15回/分の統制呼吸下、仰臥位状態で携帯型心電計を用いて心電図を記録した。
心電図のRR間隔から心拍変動解析(高速フーリエ変換法)を行ない、時間領域解析およびスペクトル解析から自律神経機能を評価した。
平均RR間隔の算出→周波数領域心拍変動解析(高速フーリエ変換法)
LF:0.04−0.15Hz、HF:0.15−0.5Hz、副交感神経活動指標、LF/HF:交感神経活動指標
◇補足資料2は添付の関連資料を参照
3)更年期症状の評価
日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会で作成された、更年期症状評価表(症状21項目)(*2)を用いた。下記に示す症状に対し、3段階(強・弱・無)で評価し、強弱を症状有と判定。
*2 日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会.日本人女性の更年期症状評価表.日産婦誌2001;53:13−14.
<日本人女性の更年期症状評価>
1.顔や上半身がほてる(熱くなる)
2.汗をかきやすい
3.夜なかなか寝付かれない
4.夜眠っても目をさましやすい
5.興奮しやすく、イライラすることが多い
6.いつも不安感がある
7.ささいなことが気になる
8.くよくよし、ゆううつなことが多い
9.無気力で,疲れやすい
10.眼が疲れる
11.ものごとが覚えにくかったり、物忘れが多い
12.めまいがある
13.胸がどきどきする
14.胸がしめつけられる
15.頭が重かったり、頭痛がよくする
16.肩や首がこる
17.背中や腰が痛む
18.手足の節々(関節)の痛みがある
19.腰や手足が冷える
20.手足(指)がしびれる
21.最近音に敏感である