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生理学研究所など、コンピュータを介した脊髄の迂回路で自分の意思で下肢の歩行運動パターンを制御することに成功

2014-08-20

歩行中枢と腕の筋肉とをコンピュータを介して繋いで
下肢の歩行運動パターンを随意的に制御することに成功


 脳からの信号を四肢に伝える経路である脊髄を損傷すると、損傷領域以外の脳や下肢に問題が無くても歩行障害が生じます。この歩行障害の改善には損傷した脊髄を繋ぎなおす必要がありますが、これまで実現できませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の西村 幸男 准教授を中心とした、笹田 周作 研究員(現所属:相模女子大学)、福島県立医科大学の宇川 義一 教授、および千葉大学の小宮山 伴与志 教授らの研究グループは脳から上肢の筋肉へ伝えられる信号をコンピュータで読み取り、その信号に合わせて腰髄を非侵襲的に磁気刺激することにより、脊髄の一部を迂回して人工的に脳と腰髄にある歩行中枢をつなぐことで下肢の歩行運動パターンを随意的に制御することに世界で初めて成功しました。本研究結果は、「The Journal of Neuroscience誌」(2014年8月13日号オンライン)に掲載されます。


<研究の内容>
 ヒトが歩くときの脚の運動リズムや左右肢の交代的な運動パターンは片方の脚の複数の筋肉が複雑に協調して、さらにそれが左右脚で連携して活動することによってでき上がっています。この複雑な筋活動は腰髄に存在する下肢歩行中枢によって生み出されており、私たちが歩くときは脳から下肢歩行中枢への指令によって歩行運動パターンが制御されていると考えられています。研究グループは、脊髄損傷による歩行障害の多くは脳と下肢歩行中枢との繋がりが切れたことが問題であって、脳も腰髄にある下肢歩行中枢もその機能を失っているわけではないということに着目しました。そこで、脳活動の情報が内在している生体信号をコンピュータで読み取り、下肢歩行中枢へ伝えることで、脳と下肢歩行中枢を人工的に接続することができれば、脊髄の一部を迂回して下肢の歩行運動パターンを随意的に制御できると考えました(図1)。
 研究グループは神経や四肢に障害のない健常人を対象に、脳活動の情報が内在している電気的信号を手や腕の筋肉から記録しました。それをコンピュータで読み取り、その信号に合わせた刺激パルスをリアルタイムで下肢歩行中枢の存在する腰髄へ、非侵襲的に磁気刺激することによって、コンピュータによる脊髄迂回路を形成し、脳と下肢歩行中枢を人工的に神経接続しました(図2)。
 神経や四肢に障害のない健常人にコンピュータによる脊髄迂回路を適用したところ、被験者が下肢をリラックスしている状態であっても、コンピュータによる脊髄迂回路によって下肢の歩行運動パターンを意図的に誘発し、止めることが可能でした(図3)。さらに、その歩行サイクルを速くしたりゆっくりしたりと、随意的に歩行の運動パターンを制御可能であることがわかりました。この結果は脳から上肢筋へ伝えられる信号が脊髄の一部を迂回して腰髄にある歩行中枢へ伝えられたことを意味します。
 西村准教授は「この技術により、脊髄損傷の患者自身の損傷されずに残った機能を利用して、手術なしで随意的な歩行を再建できる可能性を示すことができたと考えています。しかしながら、現段階では脚が障害物にぶつかった際の回避運動や立位姿勢の保持は制御できないのが大きな課題です。今後は、慎重に安全性を確認しながら、臨床応用に向けて研究開発を進めて行きます。」と話しています。

 本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「脳情報の解読と制御」研究領域(研究総括:川人 光男 (株)国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所長)における研究課題「人工神経接続によるブレインコンピューターインターフェイス」(研究者:西村 幸男)および文部科学省 科学研究費補助金の一環として行われました。


<今回の発見>
 1.健常被験者にて、コンピュータを介した脊髄の迂回路によって、自分の意思で下肢の歩行運動パターンを制御することに成功した。
 2.脊髄損傷患者への随意歩行再建の可能性を示した。


<この研究の社会的意義>
 電極を埋め込まない方法で、脊髄損傷患者の随意歩行を再建できる可能性を示した。


 ※以下の資料は添付の関連資料を参照
  ・図1 コンピュータによる脊髄迂回路の概念図
  ・図2 コンピュータによる脊髄迂回路の内容
  ・図3 コンピュータを介した脊髄迂回路による下肢歩行運動パターンの制御


<論文情報>
 "Volitional walking via upper limb muscle−controlled stimulation of the lumbar locomotor center in man."
 S.SASADA,K.KATO,S.KADOWAKI,S.GROISS,Y.UGAWA,T.KOMIYAMA and Y.NISHIMURA.
 The Journal of Neuroscience.2014年8月13日オンライン掲載



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