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北陸先端大、グラフェン膜を使った電子機械スイッチの動作原理検証に成功

2014-08-12

わずか炭素2原子層厚のグラフェン膜を使った電子機械スイッチの動作原理検証に成功
−究極の低消費電力エレクトロニクス応用に期待−


<ポイント>
 ●2層グラフェン膜で作製した両持ち梁を、繰り返し機械的に上下させて動作するナノ電子機械システム(NEMS)を世界で初めて開発
 ●スイッチング電圧〜1.8Vの低電圧・安定動作を実現。従来の半導体技術を用いたNEMSスイッチに比べて1桁以上の低電圧化を達成
 ●スイッチオフ状態での漏れ電流を原理的にゼロにすることが可能。現在のエレクトロニクスで深刻な問題となっている集積回路の待機時消費電力の飛躍的低減と、オートノマス(自立化)ITシステム実現に向けた革新的パワーマネジメント技術として期待


 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST、学長:浅野哲夫、石川県能美市)マテリアルサイエンス研究科 水田博教授とJian Sun博士研究員らは、2層グラフェン(原子2層厚の炭素原子シート)膜で作製した両持ち梁を機械的に上下させて動作する電子機械スイッチの原理検証に世界で初めて成功しました。

 現在のIT技術は、シリコン集積回路の基本素子であるMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)の堅調な微細化に支えられ発展を遂げてきました。最新のマイクロプロセッサでは、10億個を超える膨大な数の高速MOSFETをチップに集積することで、大量のデータを瞬時に計算・処理しています。しかし、この半導体微細化の追求に伴って、MOSFETのオフリーク電流(トランジスタをスイッチオフした状態での漏れ電流)の増大が深刻な問題となっています。オフリーク電流によりシステム待機時の消費電力(スタンバイパワー)は急増し、現代の集積回路システムにおいてはシステム稼動時の消費電力(アクティブパワー)と同等の電力消費となっています。スタンバイパワーを低減するために、現在、デバイス・回路・システム全てのレベルにおいてさまざまな対策が検討されています。デバイスレベルでは、トンネルトランジスタやインパクトイオン化MOSFETなどいくつかの新原理のスイッチングトランジスタが提案され、研究開発が進められていますが、未だ従来のMOSFETを凌駕するオフリーク電流特性を実現するには至っていません。

 これに対して、水田らの研究チームは、2004年に発見された新材料グラフェンをベースとしたナノメータスケールでの電子機械システム(Nano Electro−Mechanical Systems:NEMS)技術による新原理のスイッチングデバイスを提案しています。今回、その第一段階として、2層グラフェンで形成した両持ち梁を機械的に上下させる2端子型のグラフェンNEMSスイッチ(図1参照)を作製し、低電圧で繰り返しスイッチング動作させることに成功しました。グラフェン両持ち梁の下部に設けた制御電極に電圧を印加すると、両持ち梁は静電的な引力で機械的に下方に引き寄せられ、制御電極表面に接触した瞬間、スイッチがオンします。スイッチング電圧は約1.8Vと従来のシリコンを用いたNEMS素子と比較すると1桁以上低電圧であり、また、複数回のスイッチング動作を繰り返しても、スイッチング電圧の値は安定していました。スイッチオフ時において、グラフェン梁は下部電極から物理的に切り離されることから、従来のMOSFETで問題となるオフリーク電流をシャットアウトすることが可能です。一方、スイッチオン時においては、グラフェンの高いキャリア移動度によって非常に高いオン電流が実現されることから、超高速・低消費電力システムの新たな基本素子として大いに期待されます。

 本成果は、米国物理学協会発行の「Applied Physics Letters」(インパクトファクター 3.794)誌に7月21日にオンライン版で公開されました。


 論文タイトル:Low pull−in voltage graphene electromechanical switch fabricated with a polymer sacrificial spacer
 著者:Jian Sun,Wenzhen Wang,Manoharan Muruganathan,and Hiroshi Mizuta


 本研究成果は、以下の研究助成によって得られました。
 事業名:科学研究費・基盤研究(S)
 研究課題名:「集積グラフェン NEMS 複合機能素子によるオートノマス・超高感度センサーの開発」
 研究代表者:水田 博(北陸先端科学技術大学院大学 教授)
 研究開発期間:平成25〜29年度


〈開発の背景と経緯〉
 新材料グラフェンは、室温で〜15,000cm2/V・secと非常に高いキャリア移動度を有することから、シリコンに代わる新電子材料として期待を集めていますが、さらに、>1TPaとシリコンより1桁以上高いヤング率と、引っ張り応力に対して約20%の格子変形にも耐える優れた機械的特性を有していることから、微小電子機械システム応用への期待も高まっています。水田らのグループは、これまで極薄シリコンを用いたNEMS複合機能素子の分野で多くの成果を生み出してきましたが、2009年からは、これと並行してグラフェンを用いたナノデバイスの研究に着手。2013年からは、科学研究費助成事業・基盤研究(S)において、グラフェンNEMSを用いて、超高感度・環境センサーとパワーマネジメント素子を融合したオートノマス・複合機能センサーの開発に取り組んでいます。今回のグラフェンNEMSスイッチの動作成功は、グループがこれまでに構築してきたNEMS機能素子とグラフェンナノデバイスに関する世界的リーディング技術を融合させて初めて実現できた成果です。


〈今回の成果〉
 2層グラフェン両持ち梁の下部に金の制御電極を有する2端子型NEMSスイッチ(図1参照)を作製するため、図2に示すような新しい作製プロセスを開発しました。この新プロセスは、すでに確立されている従来の半導体プロセス技術のみで構築されています。下部制御電極に電圧を印加すると、グラフェン両持ち梁は徐々に下方に引き寄せられ、約1.8Vで制御金電極に接触(プル・イン動作)し、スイッチがオン状態になります(図3参照)。その後、電圧を降下させると、グラフェン両持ち梁は電極から離れ(プル・アウト動作)、スイッチはオフ状態となります。制御電極に印加する電圧を増減させ、複数回のスイッチング動作を繰り返しても、スイッチング電圧の値は約1.8Vで安定しており、ほとんど変化が見られませんでした。このように、厚さわずか炭素原子2層の梁を、低電圧で安定して機械的にスイッチオン・オフさせるのに成功したのは世界で初めてであり、究極の低消費電力素子、およびパワーマネジメント技術としての応用が期待されます。


〈今後の展開〉
 今回開発したグラフェンNEMSスイッチは2端子型であり、集積回路素子としての応用を進めるため、図4に示すように、対面する片持ちグラフェン梁NEMSのペアでチャネルを構成した3端子型NEMSトランジスタへと発展させていきます。また、これと並行して、下部制御電極もグラフェンを用いて形成し、チャネルを形成するグラフェン梁が、同じ性質の表面を持つ下部グラフェン電極上にプル・インする動作とすることで、NEMSスイッチのオン・オフ動作繰り返しに対する信頼性向上を図ります。さらに、同じプロジェクト内で開発を進めているグラフェンNEMSによる超高感度化学分子センサー回路に本グラフェンNEMSスイッチをスリープトランジスタとして集積化することにより、センサーシステムの待機時消費電力をシャットアウトし、バッテリーの寿命を飛躍的に延ばすことを試みます。


〈用語説明〉
 1)グラフェン:2004年に発見された炭素原子が蜂の巣状の六角形結晶格子構造に配列した単原子シート。
 2)NEMS(ナノ電子機械システム):半導体集積回路作製技術によって形成されたナノメータスケールの機械的可動構造を有するデバイス。
 3)待機時消費電力(スタンバイ・パワー):電源に接続された集積回路・システムが、電源の切れている状態でも消費する電力。


 ※参考図は添付の関連資料を参照





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