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東北大、がん原遺伝子BRAFの発生期の役割を解明

2014-07-28

がん原遺伝子BRAFの発生期の役割を解明
―先天性疾患CFC症候群の病態解明と治療法開発へ―


【研究概要】
 東北大学大学院医学系研究科遺伝病学分野の井上晋一助教、青木洋子准教授、松原洋一名誉教授(現国立成育医療研究センター研究所長)、加齢医学研究所神経機能情報研究分野小椋利彦教授、東京女子医科大循環器小児科、総合研究所心血管発生分化制御研究部門富田幸子(旧姓:宮川)助教らの研究グループは、先天性心疾患や骨格異常などを伴うcardio−facio−cutaneous(CFC,シーエフシー)症候群モデルマウスを世界で初めて作製することに成功し、マウスの発生期にがん原遺伝子であるBRAF(ビーラフ)変異を発現させると心臓の弁肥厚、リンパ管形成異常、骨格の異常などをきたすことを報告しました。さらにBRAF異常により活性化されるRAS/MAPK(ラスマップケー)シグナル伝達経路の阻害薬のみならず、エピゲノム修飾に変化を与える薬剤がモデルマウスの治療に効果を示す可能性を初めて示しました。
 この発見によって、がん原遺伝子に変異を持つ先天性疾患の病態の解明と新しい治療法の開発が期待されます。
 本研究成果はHuman Molecular Genetics誌オンライン版で2014年7月17日付けに掲載されました。


【研究内容】
 ヌーナン症候群、コステロ症候群、cardio−facio−cutaneous(CFC,シーエフシー)症候群(注1)は低身長・心疾患・骨格の異常・がん感受性を伴う先天性疾患で互いに症状が類似することで知られています。青木准教授らは2005年と2006年にコステロ症候群とCFC症候群の原因遺伝子HRAS、KRAS、BRAFを、2013年にはヌーナン症候群の原因遺伝子RIT1を世界に先駆けて同定しました(【参考文献】参照)。これらの症候群の原因遺伝子は、細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPK(ラスマップケー)シグナル伝達経路に認められることから「RAS/MAPK症候群」(注2)または「RASopathies」と呼ばれるようになりました(図1)。東北大学では、これまで700例以上のRAS/MAPK症候群に対して遺伝子診断を提供してきましたが、がん原遺伝子の異常で先天異常が起こるメカニズム解明や、治療法開発の研究は進んでいませんでした。

 体細胞におけるBRAF遺伝子変異は肺がん、大腸がん、悪性黒色腫などで同定されてきました。発生期からBRAF遺伝子異常をもつCFC症候群では、肺動脈狭窄や肥大型心筋症、骨格の違いや発達の遅れが発生しますが、これまでの報告では腫瘍の合併はまれです。
 井上助教、青木准教授らはCFC症候群で同定されたBRAF遺伝子変異をもつマウスを作製し、胎仔期から心疾患(肺動脈弁肥厚・肥大型心筋症・心室中隔欠損)(図2)、骨格異常、後頸部浮腫を呈することを明らかにしました。BRAF異常はシグナル伝達経路であるRAS/MAPK伝達経路を活性化します。そこで、BRAFの下流因子であるMEKの阻害剤を投与したところ部分的に効果を示しました。

 また最近、エピゲノム修飾(注3)の変化が先天性疾患の発症に影響をあたえることが明らかになってきました。そこで井上助教らは、エピゲノム修飾に変化を与える薬剤であるヒストン脱メチル化酵素(注4)阻害薬とMEK阻害剤を併用投与したところ、モデルマウスの心臓異常、骨格異常、浮腫病変に改善がみられました。本研究成果はヒトのCFC症候群に相当するモデルマウスを用い、治療法開発に道筋を拓いた初めての報告であり、今後その病態の解明と治療法開発への応用が期待されます。

 なお本研究は内閣府最先端・次世代研究開発支援プログラム「RAS/MAPKシグナル伝達異常症の原因・病態の解明とその治療戦略(代表・青木洋子)」、厚生労働省次世代遺伝子解析装置を用いた難病の原因究明、治療法開発プロジェクト「次世代シークエンサーを駆使した希少遺伝性難病の原因解明と治療法開発の研究(代表・松原洋一)」、科学研究費補助金基盤研究(B)「RAS/MAPK症候群の原因・病態の解明とその治療戦略(代表・青木洋子)」によって行われました。


【用語説明】
 注1.ヌーナン症候群、コステロ症候群、cardio−facio−cutaneous(CFC、シーエフシー)症候群:
  特異的顔貌・心奇形・肥大型心筋症・骨格の異常・易発がん性を含む先天性疾患。お互いに類似しており、臨床症状だけでは鑑別が難しい場合がある。

 注2.RAS/MAPK症候群:
  ヌーナン症候群、コステロ症候群、CFC症候群などの総称。細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPKシグナル伝達経路を制御する複数の遺伝子が先天性疾患の原因になることが明らかになった。2008年に青木らがこれらの症候群を総称した新しい疾患概念として提唱した(Aoki et al.Hum Mutat 2008)。RASopathiesとも呼ばれる。

 注3.エピゲノム修飾:
  遺伝子配列によらずに遺伝子の働きを制御する仕組み。
  ある細胞内に起こっているDNAメチル化、ヒストン修飾などを指す。

 注4.ヒストン脱メチル化酵素:
  ヒストンのリジン残基はメチル化修飾を受けるが、そのメチル化修飾を取る酵素


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1 RAS/MAPK症候群の遺伝子と疾患
  ・図2 CFC症候群モデルマウスに見られた様々な心疾患
  ・論文題目
  ・参考文献



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