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東北大など、大きな誘電率と磁気−誘電効果を示すナノグラニュラー材料の開発に成功

2014-07-28

大きな誘電率と磁気−誘電効果を示すナノグラニュラー材料の開発に成功
―新しい多機能性(マルチ・ファンクショナル)材料の発明―


 公益財団法人電磁材料研究所(理事長:増本健)の小林伸聖主席研究員、国立大学法人東北大学(総長:里見進)学際科学フロンティア研究所の増本博教授、同金属材料研究所の高橋三郎助教および独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長:松浦祥次郎)先端基礎研究センターの前川禎通センター長の研究グループは、全く新しい発想による多機能性材料の開発に成功しました。開発した材料は、ナノグラニュラー材料(1、2)と呼ばれるナノ磁性粒子を誘電相中に分散させた金属と絶縁体の2相からなる薄膜誘電体材料であり、室温で大きな誘電率(3)と磁気−誘電効果(4)を示すことを見いだしました。

 これまでの誘電体材料の研究は主として結晶性セラミックスでしたが、最近はマルチフェロイックス(5)と言われる多機能性の材料が注目され、磁界による誘電率の応答特性の研究が盛んに行われています。しかしながら、その応答特性はマイナス170℃程度の極低温でなければ発現せず、実用デバイスに使用することは不可能でした。今回、本研究グループにより開発された材料は、誘電体中にナノメーターサイズの磁性粒子を均一分散させることで、室温で大きな磁化を有すると共にナノ量子効果による新しい誘電特性を期待できます。さらに、この現象が発現する機構を明らかにするため、理論的考察を行った結果、新しいナノ量子効果であるスピン依存電荷分極(6)に基づく現象であることを解明しました。

 この新しい材料は、必要な周波数に対応して材料特性を磁場により自己調整できることから、今後開発が進めば、従来別々の受信機が必要であった低周波帯域(VHF)のアナログ放送と高周波帯域(UHF)のデジタル放送の両方を一つの機器で受信が可能となります。すなわち、自己調整機能(7)を持つ新しい電子部品への応用が期待されます。従来にない新しい特性を持つ機能材料であることから、今後新たな有用な用途が開発されると考えています。
 なお、本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」(7月22日付)に掲載されます。


<補足説明>

【背景と経緯】
 近年、単体物質において複数の機能性を併せ持つ多機能性(マルチ・ファンクショナル)材料(8)が注目され、その基礎物性と応用に関して、世界的に多くの研究がなされています。代表的な例として、誘電体セラミックス材料における強誘電特性と強磁性特性を併せ持つ「マルチフェロ材料」、また極微細に加工された「量子ドット」(9)等の報告があります。

 多機能性材料を用いれば、複数の単機能を一つに集約できることから、電子機器の小型化や省エネルギーに大きく貢献すると期待されています。しかし、これまでに報告されている研究では、材料の多機能性は極低温(−170℃以下)の環境下でしか確認されていません。もし、室温で動作する材料が見出されれば、次世代の電子機器などへの使用が期待できます。
 本研究グループでは、1995年以来、磁性金属と絶縁体から成る多機能性材料であるナノグラニュラー材料薄膜を開発し、優れた軟磁性やトンネル型磁気抵抗効果などを見出し、その発現機構を明らかにすると共に、その機能性を利用した新しい電子デバイスGIGS(R)という超小型高性能磁気センサーを開発しました。
 ナノグラニュラー材料は、絶縁体セラミックス中にナノメーターサイズの微細な金属粒子が均一に分散した特殊な構造を有します(図1)。物性が異なる二つの相がナノ状態で混在するため、金属と絶縁体の含有比率によって物性が大きく変化します。金属が多い組成では金属特有な物性が、絶縁体が多い組成では誘電特性が期待されます。さらに、中間領域では両相の機能が複合した多機能性が期待できます。また、このナノグラニュラー薄膜は通常用いられるスパッタ法で容易に作製でき、再現性や耐熱性に優れているので、実用性の高い材料であると言えます。


【研究の内容】
 今回の研究では、磁性金属として鉄(Fe)−コバルト(Co)合金、絶縁体としてフッ化マグネシウム(MgF2)(10)をターゲットとしたスパッタ法によりナノグラニュラー材料を作製しました。Fe−Co粒子は最大の磁化を有する相であり、MgF2相は安定な化合物であるため、膜中では両者が完全に分離して存在します。この全く物性の異なる物質をナノスケールで混在させることにより、ナノ量子効果による新しい機能を生成させることを期待しました。その結果、膜の誘電率が約500と極めて大きな値を発現することを見出しました(図2)。さらに、磁界中で誘電率を計測した結果、常温で約3%(現在は8%が得られている)という誘電率の変化を示しました(図3)。この現象は、以前から世界的に求められていた室温での磁性−誘電の多機能性を実現したことになります。そしてこの特性が、多機能性の新しいメカニズムである量子効果(スピン依存電荷分極)に基づくことを本研究の理論的解析によって明らかにしました。
 本研究は、新しい多機能材料として「ナノグラニュラー薄膜」が有用であり、今後特性の一層の向上によって、次世代の電子機器、センサー素子などへの応用として有効利用されることを期しています。


【本研究のインパクト】
 これまでマルチフェロ材料の研究が世界において広く行われ、常温で発現する多機能性が求められてきました。本研究では、スパッタ法により金属と絶縁相をナノスケールで混在させたナノグラニュラー膜を作製することで、室温で大きな誘電率と大きな磁気−誘電効果を示す多機能性材料を見出すことに成功しました。これは、多機能性材料の実用化に大きな道を拓く成果であると言えます。この材料は自己調整機能を持つことから、例えば、アナログ(VHF)からデジタル(UHF)までの広い周波数帯に対応したチューナブルデバイス(11)の実現のための有力な候補材料となるものと期待されます。


 本研究の実験は、公益財団法人電磁材料研究の電磁気材料グループリーダーの小林伸聖主席研究員と同グループのスタッフによって行われたものであり、実験結果の解析は、小林伸聖主席研究員と国立大学法人東北大学増本博教授により行われました。また理論的解析は、同大学高橋三郎助教と独立行政法人日本原子力研究開発機構前川禎通センター長により行われました。


 ※参考図・用語解説などは添付の関連資料を参照




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