東邦大、東京湾周辺でみられるヤミヨキセワタが２つの別の種であることを発見

ヤミヨキセワタが新種記載される
〜東京湾　湾奥部と湾口部で別種だった〜


　Dr．Angel　Valdes（＊）（California　State　Polytechnic　University）、平野弥生　博士（東邦大学理学部東京湾生態系研究センター／千葉県立中央博物館分館　海の博物館）らの研究グループは、東京湾周辺でもみられるヤミヨキセワタと呼ばれる生物が形態や遺伝子の解析から、２つの別の種であることを明らかにし、動物系統分類学系の国際学術誌Zoologica　Scriptaにそれぞれ新種として報告（７月号に掲載）しました。

　＊印の文字の正式表記・参考画像は、添付の関連資料を参照


　ヤミヨキセワタ〔軟体動物門　腹足綱　カノコキセワタ科　Melanochlamys属：巻貝の仲間〕は、全長２０mm程度のウミウシ型の生物で、環境省の第４次レッドリストには「情報不足」として掲載されています。この生物は、北海道から本州にかけての砂泥質干潟または低潮帯泥底に分布し、東京湾周辺では湾口部の三浦半島周辺・小櫃川河口、さらに三番瀬やお台場などの湾奥部で出現の記録があります。しかし、Melanochlamys属の諸種は、外部形態の差異に乏しいため世界的に分類が遅れており、種名が確定できず、在来の希少種であるか外来種であるか、そして単一の種なのか複数種を含んでいるのかも不明でした。

　平野博士らは、サンフランシスコ湾で１０年余り前に見つかったMelanochlamys属の種を明らかにするため、この属の特徴をもつ“黒色のウミウシ型”の生物を北太平洋各地から集めてDNA解析を行っていました。その過程で、今まで東京湾で便宜的に「ヤミヨキセワタ」とされていた生物（当時は種が特定されていなかった）に、実は“２種が存在”していることが判明しました。東京湾で記録された「ヤミヨキセワタ」のうち、湾奥部のものは体表の斑点の色やその密集度合いが、湾口付近および日本のその他の地域のものと異なっていることなどから、両者は別種である可能性が指摘されていました。本研究で行われたMelanochlamys属についての詳細な形態や遺伝子の解析の結果、上記の２種はいずれも未記載種であることが明らかとなり、それぞれ新種として報告されました。
　なお、サンフランシスコ湾で見つかった謎の種は、日本で記載された種（エゾキセワタ）であることも本研究で明らかになりました。


【記載された種についての詳細】
◆東京湾湾口部を含むその他の場所の種〔タイプ産地（※）：小櫃川河口（盤洲）干潟〕　※基準となった標本が採集された場所
　学名：Melanochlamys　fukudai　Cooke，Hanson，Hirano，Ornelas−Gatdula，Gosliner，Chernyshev＆Valdes，２０１４
　和名：ヤミヨキセワタ（これまで一般的に「ヤミヨキセワタ」と呼ばれていた種です）

　体は黒紫色の細かい斑点で均一かつ密に覆われ、体表に青い光沢を帯びます。東京湾周辺では小櫃川河口や三浦半島周辺で見られます。北海道から本州にかけて分布しており、北日本と南日本の集団の間に遺伝的な分化がみられるため、在来種の可能性が高いとされます。


◆東京湾湾奥部の種〔タイプ産地※：韓国〕
　学名：Melanochlamys　kohi　Cooke，Hanson，Hirano，Ornelas−Gatdula，Gosliner，Chernyshev＆Valdes，２０１４
　和名：なし（現在のところ、提唱されていません）

　体の紫斑点は色が淡く赤味を帯び、密度がややまばらです。韓国以外の記録では市川塩浜から標本が得られているほか、三番瀬やお台場のものも同種と考えられます。日本での記録は東京湾湾奥部のみであるため、外来種の可能性があります。


　〈タイトル〉Cryptic　diversity　of　Melanochlamys　sea　slugs（Gastropoda，Aglajidae）in　the　North　Pacific
　〈著者〉Samantha　Cooke，Dieta　Hanson，Yayoi　Hirano，Elysse　Ornelas−Gatdula，Terrence　M．Gosliner，Alexey　V．Chernyshev＆Angel　Valdes
　〈掲載誌〉Zoologica　Scripta（July２０１４：Volume４３，Issue４Pages３５１−３６９）