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早大、異性の存在が性ホルモンの分泌を変える仕組みを解明

2014-07-24

一目惚れの分子メカニズム
異性の存在が性ホルモンの分泌を変える仕組みを解明


 この度、早稲田大学教育・総合科学学術院/先端生命医科学センター(TWIns)筒井和義教授および戸張靖子研究助手らのグループは、異性の存在が性ホルモンの分泌を変化させる新しい神経機構を明らかにしました。これまで社会環境の違いが、脳にどのような変化をもたらして人間や動物の行動や生理状態を変化させるのかは不明でしたが、ウズラを用いた本研究により雄が雌を見ると脳内で注意や覚醒に重要な神経伝達物質であるノルエピネフリンの分泌が急性的に高まり、GnIHの分泌を増やすことにより、男性ホルモンの血中濃度を下げることが分かりました。ノルエピネフリンとGnIHは人間や多くの動物に共通して存在することから、私たちヒトを含めた哺乳類でも同じ仕組みが存在することが考えられ、私たちが一目ぼれするときの神経機構に繋がる発見となりました。

 詳しい研究成果は下記の通りです。
 社会環境の変化によって動物の行動や生殖腺からの性ホルモン(精巣が作る男性ホルモンと卵巣が作る女性ホルモンの総称名)の分泌が変化することはこれまでに知られていました。社会環境の変化というのは、動物が一匹でいる状態からつがいになる、群れで生活していたのにはぐれてしまって一匹になるといった個体をとりまく環境の変化です。このような社会環境の変化は動物の行動や生理状態を急性的に変化させます。人間も社会的な情報によって行動や生理状態は瞬時に変化します。例えば、異性と同性の前では態度や行動が変わってしまうことや、素敵な異性を前にすると性ホルモンの分泌が変化することは知られています。しかしながら、社会環境の違いが、脳にどのような変化をもたらして人間や動物の行動や生理状態を変化させるのかは不明でした。

 生殖腺からの性ホルモンの分泌は、脳により制御されています。脳の深部にある視床下部から生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin−releasing hormone;GnRH;ギルマンとシャリーが発見;ノーベル生理学医学賞受賞1977年)が分泌され、下垂体に作用して生殖腺刺激ホルモンが放出されます。そして、生殖腺刺激ホルモンが生殖腺に作用し、性ホルモンが分泌されます。一方で、2000年に、筒井教授が生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(gonadotropin−inhibitory hormone;GnIH)をウズラの脳から発見し、視床下部から分泌されるGnIHが下垂体に働き、生殖腺刺激ホルモンの放出を抑制することが人間や多くの動物で明らかになりました(図1)。

 ※図1は添付の関連資料を参照


 つまり、GnRHがアクセルとなり、GnIHがブレーキとなって生殖腺からの性ホルモンの分泌を調節していることが明らかになりました(図1)。

 本研究では、社会的な環境の変化が瞬時に動物の性ホルモン分泌を変える仕組みを明らかにするために、鳥類である日本ウズラを解析モデルにして一連の実験を行いました。日本ウズラは、雄が雌を視覚的に認知すると数秒後には交尾するという瞬時の行動変化を示します。

 実験では、ひとりぼっちの雄、透明なプラスチックの壁越しに雄、または雌とお見合いした雄の脳で、GnRHとGnIHの変化を調べたところ、雌をみた雄の脳でGnIHだけが増えていることがわかりました(図2)。さらに雌とお見合いをした雄の血中の生殖線刺激ホルモン濃度が下がっていることがわかりました(図2)。

 次に、どのような脳内の仕組みでGnIHが変化したのかを調べました。まず、雌がいるという情報をGnIHへ伝える役目をしている脳の物質を調べました。雄の脳では、雌を見てからとても短い時間でGnIHが変化するので、素早い反応を引き起こす神経伝達物質を調べました。雄ウズラが雌を見ると、GnIHをつくる神経細胞(GnIHニューロン)が存在する脳の場所で、一過的に神経伝達物質であるノルエピネフリンの放出が増えることがわかりました(図2)。最近の研究で、ノルエピネフリンは、注意や覚醒に重要な神経伝達物質であることがわかってきています。

 次に、ノルエピネフリンを雄ウズラの脳に投与して、GnIHの放出が増えること、血中の生殖腺刺激ホルモン濃度が下がることを明らかにしました(図2)。さらに、ノルエピネフリンを作るニューロンがGnIHニューロンに投射していること、GnIHニューロンにノルエピネフリン受容体を存在していることを明らかにしました(図2)。

 本研究により、雄が雌をみると、脳内でノルエピネフリンの分泌が急性的に高まり、ノルエピネフリンがGnIHニューロンに作用して、GnIHの分泌を増やし、生殖腺刺激ホルモンの分泌を抑えて、男性ホルモン(テストステロン)の血中濃度を下げることが明らかになりました(図2)。従って、社会的な情報がノルエピネフリンやGnIHという脳物質に変換されて、動物の生理状態を瞬時に変化させていることがわかりました。本研究により、異性の存在が、ノルエピネフリンやGnIHを介して、性ホルモンの分泌を瞬時に変化させる新しい神経機構が解明されました。本研究成果は、雌の存在を認知する際に視覚に大きく依存する動物モデルとして、鳥類のウズラから得られたものですが、ノルエピネフリンとGnIHは人間や多くの動物に共通して存在することから、私たちヒトを含めた哺乳類でも同じ仕組みが存在することが考えられます。本研究成果は、一目ぼれするときの神経機構や分子メカニズムの解明に貢献するものです。

 ※図2は添付の関連資料を参照




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