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農研機構と理研と岡山大、ヒトとマウスの甘味受容体の機能の違いを解明

2014-07-24

ヒトとマウスの甘味受容体の機能の違いを解明
−ヒトの客観的な味覚評価法の構築に向けて−


<ポイント>
 ・甘味は、舌の細胞表面にある甘味受容体というタンパク質が感知しますが、甘味受容体が細胞膜に移動する仕組みがヒトとマウスでは異なることを明らかにしました。
 ・この成果は、味覚受容が動物種によって異なるということを示すもので、今後、ヒトの味覚受容体を使った、より客観的な味の評価技術に活用していく予定です。

■概要
 味は、食品の嗜好性を左右する因子の1つであることから、食品開発では味を実際の感覚に即して適切に評価することが重要です。専門家が行う官能評価は客観的に味を評価できますが、作業が煩雑であるなどの問題がありました。そのため、簡便で客観的な味覚評価技術の開発が求められています。
 味を受け取る基本的な仕組みは、味の感受性の個体差が少ないマウスを利用することで解明されてきており、甘味や苦味は舌の細胞にあるセンサーが感知していること、センサーはそれぞれの味に対応した受容体と呼ばれる膜タンパク質であることが明らかになってきました。近年、味の感受性は動物ごとに異なるとの報告もなされるようになってきたところです。
 細胞は、細胞内で合成した受容体の細胞膜への移動を調節することにより、細胞内への情報伝達を制御しています。また、マウスは味の評価にもしばしば使われていることから、ヒトとマウスの甘味受容体の違いを明らかにするために、甘味受容体がどのように細胞膜に移動するかに着目して研究を実施しました。
 今回、農研機構、理化学研究所岡山大学は、細胞膜上の甘味受容体を検知する方法を開発して、ヒトとマウスでは甘味受容体が細胞内で合成されてから細胞膜へ移動する仕組みが全く異なることを発見しました。この結果は、ヒトならではの甘味を受け取る仕組みがあることを示唆しています。今後は、ヒトの味覚受容体を使って簡便で客観的な味覚評価技術を開発し、食品の味の評価に活用する予定です。

 予算:農林水産技術会議「アグリバイオ実用化・産業化研究」(H16−H20)、文科省「ターゲットタンパク研究プログラム」(H19−H23)、「科学研究費」(H25−)
 研究成果論文の公開:米国の総合科学誌「PLOS ONE」オンライン版 米国東部時間2014年7月16日午後5時(日本時間17日午前6時)


<詳細情報>

■背景・経緯
 味は食嗜好に関わる重要な因子の1つであることから、食品開発では味を実際の感覚に即して適切に評価することが必要です。複数の専門家が行う官能評価は客観的に味を評価できますが、作業が煩雑であるといった問題があります。そのため、簡便で客観的な味覚評価技術の開発が求められています。
 色々な種類の味のうち、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味を基本味と呼びます。基本味の基となる味物質は、舌の味蕾にある味細胞表面の味覚受容体というタンパク質と結合し(図1)、その際に発生したシグナルが神経を経て脳に伝わることによって、味として認識されます。また、それぞれの基本味は別々の味覚受容体(甘味受容体、苦味受容体など)が受容します。
 動物が味を受け取る基本的な仕組みは、マウスなどのモデル動物により解明されてきており、味覚受容体の多くについてもマウスを利用した研究により同定されています。しかし、実際の味の感受性は動物ごとに異なるとの報告があり、例えば、アスパルテームなどの合成甘味料の一部は、霊長類以上の高等動物だけが甘みとして感じることが知られています。マウスは味覚の基礎研究のみならず食品の味の評価にもしばしば使われていることから、ヒトとマウスの甘味受容体の機能の違いを明らかにする研究に取り組みました。
 受容体は細胞膜に存在して、細胞外の情報を細胞内へ伝達する役割を持っています。細胞は、細胞内で合成した受容体の細胞膜への移動を調節することにより、細胞内への情報伝達を制御しています。そこで、ヒトとマウスの甘味受容体がどのように細胞膜に移動するかに着目し、甘味受容体を培養細胞に導入してその違いを比較しました。

■内容・意義
 ヒトとマウスの甘味受容体は、T1r2とT1r3と呼ばれる二種類のタンパク質分子が結合し、T1r2/T1r3という一つの集合体として細胞膜において機能します。T1r2とT1r3に各々異なる目印を付けてから培養細胞に導入し、細胞膜に移動したT1r2とT1r3を顕微鏡で観察できるようにしました(図2)。この技術を利用して、T1r2とT1r3がどのようにして細胞膜に移動して甘味を受け取れるようになるのかを観察しました。
 その結果、マウスとヒトでは甘味受容体が細胞膜へ移動する仕組みが全く異なることが分かりました。ヒトのT1r3は単独では細胞膜に移動することができず、ヒトT1r2が共存してはじめて細胞膜に移動できることを観察しました(図3、4)。一方、マウスのT1r3はマウスT1r2が存在しなくても単独で細胞膜に移動することが分かりました(図3、5)。また、マウスとヒトのT1r3を部分的に組み合わせた変異体を作製して細胞膜への移動を観察したところ、ヒトT1r3のうち細胞外に突き出た領域の中に、ヒトT1r3が単独で細胞膜へ移動することを阻害する部位がある可能性が示されました。
 動物種が異なる場合においても、同じ機能を持つ受容体であれば、細胞膜へ移動する仕組みは同じであることが一般的です。T1r2とT1r3は、ヒトやマウスなど動物に広く分布しているGタンパク質共役型受容体(GPCR)1)のうち、細胞膜の外側に大きく突き出た領域を持つタイプ(クラスC型GPCR)に分類されます。クラスC型GPCRの細胞外の領域に細胞膜への移動を制御する部位が含まれる例は今回が初めてです。そのため、ヒト甘味受容体の細胞外の領域に、今までに知られていない細胞膜への移動のシステムが存在していると考えられます。

 ※図1〜5は添付の関連資料を参照

■今後の予定・期待
 今回、ヒトとマウスでは甘味を受け取る仕組みが異なることを明らかにしました。この結果は、官能評価よりも簡便で、マウスを使った評価よりも客観的な味覚評価技術を構築するためには、ヒトが味を受け取る仕組みを反映させる必要があることを示唆しています。そこで、今後は、ヒトの味覚受容体を導入した細胞を用いて味覚評価技術を開発し、甘味を代替する物質や甘味を増強する物質などの探索に活用する予定です。これによって、従来よりも嗜好性や機能性が高い食品素材の開発が容易になる可能性があります。

■発表論文
 Distinct human and mouse membrane trafficking systems for sweet taste receptors T1r2 and T1r3,PL0S ONE

 研究成果論文の公開:米国の総合科学誌「PLOS ONE」オンライン版 米国東部時間2014年7月16日午後5時(日本時間17日午前6時)

■用語の解説
 1)Gタンパク質共役型受容体
   細胞外の情報を細胞内に伝える機能を有する「受容体」の一種で、Gタンパク質と呼ばれるタンパク質を介して情報を伝達します。Gタンパク質共役型受容体が細胞外の味物質などと結合すると、細胞膜のすぐ内側にあるGタンパク質の構造変化を引き起こすことによって、細胞外の情報が細胞内に伝わります。ヒトではGタンパク質共役型受容体と分類されるものが約800種類あることがわかっています。感覚受容では、味覚のみならず、視覚、嗅覚にも関与しているほか、Gタンパク質共役型受容体の機能の異常は多くの疾患(精神疾患、高血圧、アレルギーなど)を引き起こすことが知られています。実際、臨床で用いられている薬物の約半分がGタンパク質共役型受容体を標的にしていると言われています。



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