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東大、蛾の性フェロモン生合成を司るペプチドの結合に重要な受容体の部位を特定

2014-07-22

蛾の性フェロモン生合成を司るペプチドの結合に重要な受容体の部位を特定


<発表のポイント>
 ◆蛾の性フェロモンの生合成を司る神経ペプチド(PBAN)と結合するPBAN受容体の機能に重要なアミノ酸残基を特定し、PBANとPBAN受容体が結合した状態のモデルを構築しました。
 ◆PBAN受容体で特定した重要なアミノ酸残基の多くは、アミノ酸配列がPBAN受容体に類似しているヒトのニューロメジンU受容体でも存在していました。
 ◆人為的に蛾の性フェロモンを生合成して害虫を抑制する技術の開発だけでなく、ヒトのストレスや食欲等の制御に関わるニューロメジンUの作用機構の理解にも役立つと期待されます。

<発表概要>
 蛾の雌が交配のため性フェロモンを利用して、雄を誘き寄せていることは広く知られています。雌の蛾の体内では、頭部にある神経細胞からフェロモン生合成活性化神経ペプチド(pheromone biosynthesis−activating neuropeptide,PBAN)と呼ばれる33個のアミノ酸らなる神経ペプチド(注1)が分泌され、腹部末端のフェロモン腺にあるPBAN受容体にPBANが結合することで、初めて性フェロモンが作られます。しかし、PBAN とPBAN受容体の結合様式やPBAN受容体の機能に重要なアミノ酸残基(注2)は未解明のままでした。
 東京大学大学院農学生命科学研究科の田之倉優教授、永田宏次准教授らの研究グループは、PBAN受容体の(1)細胞膜への移行、(2)PBANへの結合、(3)PBANとの結合を細胞内に伝える情報伝達、という3つの機能に重要なアミノ酸残基をPBAN受容体の点変異体解析(注3)により明らかにしました(図1)。また、コンピュータシュミレーションによって上記の解析データをうまく説明できるPBANとPBAN受容体が結合した複合体の立体構造モデルを構築しました(図2)。同時に、PBANと活性部位のアミノ酸配列が類似しているヒトの神経ペプチド、ニューロメジンU(NMU)とその受容体の複合体の立体構造モデルも構築し、PBANとNMUの活性部位が類似の様式で各受容体に結合することを提唱しました。
 本研究により同定されたPBAN受容体の機能に重要なアミノ酸残基の位置は、既に結晶構造が明らかになっている低分子化合物を認識するGタンパク質共役受容体(GPCR、アデノシン受容体やβアドレナリン受容体、注4)の重要アミノ酸残基の位置とよく対応していましたが、一方でPBAN受容体とNMU受容体に特徴的な重要残基も見出されました。この成果は、PBANとPBAN受容体の結合を阻害する害虫防除剤の開発に役立つだけでなく、ヒトの摂食抑制作用、ストレス反応の調節、痛みの制御などに関わっているNMUの受容体認識機構についても新たな情報を提供するものです。

 ※図1・2は添付の関連資料を参照

<発表内容>
 雌の蛾は、成虫になった後、頭部の神経節から性フェロモン生合成を活性化する33残基の神経ペプチド(PBAN)を体液中に分泌し、PBANが尾部末端の性フェロモン産生器官であるフェロモン腺のPBAN受容体(PBANR)に結合することで初めて性フェロモンが生合成されます。PBANはC末端部にFX1PRX2(※1)−NH2モチーフ(X1、X2(※2)は任意のアミノ酸残基、NH2はC末端カルボキシル基がアミド化されていることを示す、注5)を有し、このC末端5残基と末端アミド基(FSPRL−NH2)が活性に必須であること、またPBANRはロドプシンGタンパク質共役受容体(GPCR)の一種であることが示されていました。しかし、PBANとPBANRの結合様式やPBANRの機能に重要なアミノ酸残基は未解明のままでした。

 ※1・2:「FX1PRX2」「X1、X2」の正式表記は添付の関連資料を参照

 東京大学大学院農学生命科学研究科の田之倉優教授、永田宏次准教授らの研究グループは、PBANRのPBAN認識に関与する可能性のあるアミノ酸残基27個を1個ずつアラニン残基に置換した点変異体27種について、C末端側に緑色蛍光タンパク(EGFP)を付加したPBANR変異体−EGFP融合タンパク質を昆虫細胞に発現させ、この融合タンパク質の(1)発現量および膜への移行能、(2)PBANへの結合能、(3)PBANとの結合を細胞内に伝える情報伝達能、の3つの機能をそれぞれ調べました。(1)ではEGFP緑色蛍光の強度からPBANR変異体−EGFPの発現量およびその局在を観察して、(2)では蛍光色素Rhodamine Redで標識したPBAN C末端10残基を細胞外に添加し、洗浄後細胞上のEGFPとRhodamine Redの蛍光強度を計測し、蛍光強度比から各PBANR変異体のPBANへの結合能を求めました(図1)。(3)ではPBANとの結合によりPBANRが活性化されると細胞内カルシウム濃度が上昇することが知られているため、カルシウムの濃度変化に蛍光を発生する試薬を用いてPBANR変異体−EGFP発現細胞にPBAN C末端10残基を加えた際の細胞質内カルシウムイオン濃度の変動を調べました。こうして特定した重要残基のうち、細胞膜への移行に重要な4アミノ酸残基は細胞膜貫通へリックス5,6(図2(c)のTM5,6)上に位置していました。一方、PBANとの結合に重要なアミノ酸残基と情報伝達に重要なアミノ酸残基は大部分一致しており、それらは細胞膜貫通へリックス2,3,6,7(図2(c)のTM2,3,6,7)上に位置していました。このことから、PBANRにおけるPBANとの結合と細胞内への情報伝達との連携が実験的に確かめられました。他方で、PBANRのホモロジーモデリング(注6)およびPBANとのドッキングシミュレーション(注7)から、上記変異体解析の結果を良く説明できるPBANとPBANRのドッキングモデルを構築することに成功しました(図2)。同時並行で、PBANとPBANRのオルソログ(注8)であるヒトのニューロメジンU(NMU)とニューロメジンU受容体(NMUR)についてもドッキングモデルを構築し、PBANとNMUの活性に重要な共通モチーフ(FX1PRX2−NH2モチーフ。PBANではFSPRL−NH2、NMUではFRPRN−NH2)が各々の受容体に似た様式で結合することを提唱しました。特にPBANとNMUの活性に最も重要なC末端のアミノ酸残基と末端アミドの認識に、膜貫通へリックスIIとIII上に位置する2個のグルタミン酸残基が関与することをドッキングモデルに基づいて提唱しました。この2個のグルタミン酸残基はPBANRとNMURに特徴的で、他のGPCRでは保存されていません。X線結晶構造によってすでに構造が明らかになっているA2aアデノシン受容体(A2aAR)やβ2アドレナリン受容体(β2AR)との構造比較から、PBANRやNMURがPBANやNMUのC末端活性部位を認識すると推定される残基はA2aARやβ2ARのアゴニスト(注9)認識残基とほぼ対応する位置に分布していることが示されました。

 近年、ロドプシン様GPCRのX線結晶構造解析が盛んに行われ、その立体構造やリガンドとの結合様式が、徐々に明らかになりつつあります。しかし、アゴニストとして作用する生理活性ペプチドがGPCRに結合した結晶構造は、まだニューロテンシン(NTS)とニューロテンシン受容体複合体の1例しか報告されておらず、NTS結合部位は今回提唱した推定PBAN結合部位とは位置が異なっています。このように神経ペプチドやペプチドホルモンとその受容体であるGPCRとの相互作用様式やGPCRの活性化機構については未解明な事柄が多く残されています。特にPBANのオルソログであるNMUはヒトの摂食抑制作用、ストレス反応の調節、痛みの制御などに関わっているため、本研究成果は、蛾の性フェロモン生合成の人為的制御による害虫防除を目的とした農薬の開発のみならず、医薬品開発の基盤情報となることが期待されます。


 ※以下、リリース詳細は添付の関連資料を参照



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