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東大、固体内酸素を利用した新原理電池を開発

2014-07-22

固体内酸素を利用した新原理電池の開発
―現行リチウムイオン電池の限界を超える革新的二次電池―


1.発表者:
 水野 哲孝(東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻 教授)


2.発表のポイント:
 ◆酸化物イオンと過酸化物イオンの間の酸化還元反応を正極で利用した新原理の電池システムの動作を実証した。

 ◆本原理の電池システムは、現行のリチウムイオン電池の性能の限界を超える高エネルギー密度、高容量を実現することが可能で、低価格化、安全性も期待できる。

 ◆性能向上を図ることで、電気自動車用や定置用の高性能要求を満たす次世代二次電池としての実用化が期待できる。


3.発表概要:
 電気エネルギーを貯蔵可能な二次電池(注1)はモバイル機器向けの小型用途だけでなく電気自動車用や定置用の大型用途の需要が高まり、エネルギー密度(注2)、容量(注3)に加えて、安全性、寿命、コストの面でも高性能化が要求されている。そのため、現行のリチウムイオン電池(注4)の性能を大きく超える革新的二次電池の創出が強く望まれている。
 東京大学大学院工学系研究科の水野哲孝教授らの研究グループは、株式会社日本触媒との共同研究により、現行のリチウムイオン電池の7倍もの高エネルギー密度を可能とする、酸化物イオンと過酸化物イオンの間の酸化還元反応を利用した新原理の二次電池システムの開発に成功した。酸化リチウムの結晶構造内にコバルトを添加した物質を正極に用いることによって、充放電反応により過酸化物が生成、消失することを明らかにし、新原理の電池システムを実証した。
 本電池システムは従来のリチウムイオン電池の理論的限界を超える高エネルギー密度、高容量を実現可能で、電気自動車用や定置用への実用が期待できる次世代二次電池として有望なものである。
 本研究は、日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラムの助成を受けて実施された。


4.発表内容:
<研究の背景・先行研究における問題点>
 充放電可能な二次電池は携帯電話やノートパソコンなどのモバイル機器の電源として生活に必要不可欠であり、さらには電気自動車用の大型二次電池の需要が高まっている。また、電力供給安定化や再生可能エネルギーの有効活用のために、定置用大型二次電池の開発が求められている。このような情勢の中、今後の二次電池には、用途に応じて高エネルギー密度、高容量だけでなく低コスト、長寿命、高安全性などのさまざまな特性が要求される。これらの高い要求を満たす二次電池を実現するためには、従来の二次電池の高性能化にとどまらず、従来の性能を大きく超える新原理に基づく二次電池の創出が強く望まれている。
 現在広く用いられている二次電池のリチウムイオン電池は、正極としてコバルト酸リチウムなどのリチウムイオンが出入りする遷移金属酸化物が使われている。原子量の大きな遷移金属が酸化還元を担うため重量当たりのエネルギー密度、容量には理論的な限界がある。またコバルトなどの高価な金属を主成分とするため、その使用量の低減によるコストの低下が求められている。一方で、次世代二次電池として研究が進められているリチウム空気電池(注5)は正極で気体状酸素分子の酸化還元反応を利用しており、理論上最大のエネルギー密度を有するとされる。しかし、放電反応で生じる過酸化リチウムなどによる正極の閉塞、開放構造に起因する大気中の水分や二酸化炭素の混入による電極や電解液の劣化、反応中に生じる活性な酸素種に対する有機電解液の不安定性が問題となる。


<研究内容>
 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の水野哲孝教授らの研究グループは、株式会社日本触媒との共同研究により、現行の電池の性能の限界を超えうる、固体内の酸化物イオンと過酸化物イオンの間の酸化還元反応を利用した新原理の二次電池システムの開発に成功した。正極反応として酸化リチウムと過酸化リチウムの間の酸化還元反応を、負極反応として金属リチウムの酸化還元反応を用いた場合、両電極活物質重量あたりの理論容量は897mAh/g、電圧は2.87V、理論エネルギー密度は2570Wh/kgとなる(図1)。このときのエネルギー密度は、コバルト酸リチウム正極と黒鉛負極を用いた現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度(両電極活物質重量あたり370Wh/kg)の約7倍にも達する。この新方式の電池は、リチウム空気電池の理論エネルギー密度(3460Wh/kg)には及ばないが、従来のリチウムイオン電池と同様の密閉型構造(注6)となるため、信頼性、安全性に優れる。
 今回、研究グループは遊星ボールミル装置(注7)を用いて酸化リチウムの結晶構造内にコバルトを添加した物質を正極活物質として用いることによって、酸化物と過酸化物の間の酸化還元反応が可逆的に進行する電池システムを実証した(図2)。充電反応時に正極中に過酸化物が生成すること、放電反応で正極中の過酸化物が消失すること、その反応が繰り返されることを過酸化物の定量的な分析により明らかにした。可逆な充放電が可能な範囲では酸素発生や二酸化炭素発生の副反応が進行していないことも確認した。実証試験に用いたこの正極は、容量200mAh/gの繰り返し充放電が可能で、大電流による高速な充放電にも対応できることが確認された。今回用いた正極は現行のリチウムイオン電池で用いられているコバルト酸リチウムと比べてコバルトの重量比が小さく、原料費の低下が期待できる。


<社会的意義・今後の予定>
 本研究グループは酸化物イオンと過酸化物イオンの間の酸化還元反応を正極反応とする電池システムの作動原理を実証した。この原理の電池は従来のリチウムイオン電池の性能の限界を超える高エネルギー密度、大容量を実現可能なものであり、密閉型構造のため高い安全性やコバルト使用量の低減による低価格化も期待される。これらの特長を有する本電池は、電気自動車用の移動型二次電池、電力供給安定化のための定置型二次電池としての実現が期待でき、拡大する二次電池市場の主役となりうるものである。
 現段階では新原理の電池の作動原理の実証が完了し、容量、エネルギー密度の点では現行のリチウムイオン電池と同程度の性能に到達している。今後は電極中の過酸化物の状態、コバルトの役割を明らかにし、電極活物質の最適化を進めることで、理論容量に近づけることを目指す。さらには電池の安全性、寿命などの総合的評価を進め、革新的二次電池としての実用化に取り組む。
 本研究は、日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラム「高性能蓄電デバイス創製に向けた革新的基盤研究」(中心研究者:水野 哲孝 東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻 教授)の助成を受けて実施された。


5.発表雑誌:
 雑誌名:英国科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版:2014年7月14日)
 論文タイトル:A New Sealed Lithium−Peroxide Battery with a Co−Doped Li2O Cathode in a Superconcentrated Lithium Bis(fluorosulfonyl)amide Electrolyte
 著者:Shin−ichi Okuoka,Yoshiyuki Ogasawara,Yosuke Suga,Mitsuhiro Hibino,Tetsuichi Kudo,Hironobu Ono,Koji Yonehara,Yasutaka Sumida,Yuki Yamada,Atsuo Yamada,Masaharu Oshima,Eita Tochigi,Naoya Shibata,Yuichi Ikuhara,Noritaka Mizuno(*)
 (奥岡晋一,小笠原義之,須賀陽介,日比野光宏,工藤徹一,小野博信,米原宏司,住田康隆,山田裕貴,山田淳夫,尾嶋正治,栃木栄太,柴田直哉,幾原雄一,水野哲孝(*))
 DOI番号:10.1038/srep05684
 アブストラクトURL:http://www.nature.com/srep/2014/140714/srep05684/full/srep05684.html


■用語解説:
(注1)二次電池
 放電した後に充電することで繰り返し使用することができる電池。電位の高い方が正極、電位の低い方が負極である。放電反応では正極で還元反応が起こり、負極で酸化反応が起こる。充電反応では正極で酸化反応が起こり、負極で還元反応が起こる。電極で酸化・還元反応を行う物質を活物質という。電池の性能の指標として、作動電圧、容量、エネルギー密度などが用いられる。

(注2)エネルギー密度
 電池から取り出せる単位体積または単位重量当たりの電力エネルギー。電池の作動電圧と容量密度の積から求められる。単位はWh/L(ワット時毎リットル)またはWh/kg(ワット時毎キログラム)などが用いられる。

(注3)容量
 電池から取り出せる電気量で単位はAh(アンペア時)。活物質の評価の際には、単位体積または単位重量当たりで表されることが多く、単位はAh/L(アンペア時毎リットル)またはmAh/g(ミリアンペア時毎グラム)などが用いられる。

(注4)リチウムイオン電池
 二次電池の一種で、リチウムイオンが電池内部の電荷の移動を担う電池。正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)やマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)などのリチウム含有遷移金属酸化物が、負極として黒鉛、ケイ素、チタン酸リチウムなどが主に用いられている。ほかの二次電池と比較して高い作動電圧(3.3〜4.0V程度)で高いエネルギー密度であるため、モバイル機器の電源として広く普及している。

(注5)リチウム空気電池
 負極に金属リチウム、正極に空気中の分子状酸素を利用し、リチウムと酸素の反応を利用した電池。正極は気体の酸素を取り込むため開放構造となっている。放電反応時には正極で酸素を還元して過酸化リチウムまたは酸化リチウムを生成する。過酸化リチウムが生成する場合、その理論容量は1170mAh/g、起電力2.96Vとなり、理論エネルギー密度3460Wh/kgとなる。

(注6)密閉型構造
 電池内部の物質の漏出や、外気の進入がないように容器の隙間を密封した構造。

(注7)遊星ボールミル装置
 容器に試料と粉砕用のボールを入れて、高速で回転させることにより試料を粉砕、混合するための装置。


■添付資料:

 ※添付の関連資料を参照




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