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生理学研究所、他者の真似に気づくための脳部位活動はASD者で減少など解明

2014-07-16

自分の動作が真似をされたことを気づくために重要な脳部位の活動は、自閉症スペクトラム障害者で減少していることを解明


【内容】
 自閉症スペクトラム障害(ASD)者は、自分の動作が真似をされたことに気づくのが苦手と言われています。しかし脳のどのような働きが原因で、真似をされたことに気づくのが苦手であるのかはよく分かっていません。今回、生理学研究所の定藤規弘教授、福井大学小坂浩隆特命准教授、金沢大学棟居俊夫特任教授らの研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、自分の動作が相手に真似をされたときの脳活動を測定しました。その結果、他者の真似に気づくことに関わる脳部位の活動が、健常者に対しASD者で減少していることが分かりました。この脳部位の活動低下は、「なぜASD者は真似をされたことに気づきにくいのか」という謎を明らかにする一助になります。

<研究の背景>
 自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)は発達障害の一つで、その障害者は対人コミュニケーションを苦手とします。この障害を改善する方法として、他者の真似をし、真似されたことを理解する訓練が知られています。これまでの多くの研究は、「他者の真似をする」ときの脳の働きがASD者と健常者(定型発達者)でどのように異なるのかについて明らかにしてきました。しかしその一方で、「自分の真似をされている」ときの脳の働きが自閉症スペクトラム障害でどのように変容しているのかについては分かっていませんでした。本研究では機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、他者から真似をされたときの脳の働きをASD群と健常群で比較しました。

<研究の内容>
 目で見た情報を専ら処理する脳部位を視覚野と呼びます。視覚野の中には、観察した身体の部位に対して強く反応する領域があります。この領域はExtrastriate Body Area (EBA、イービーエー)と呼ばれています。近年の研究でEBAは真似をされているときに活動が高まることが知られています。
 知的障害を有さないASD群19名(平均年齢25歳)と、年齢と知能指数を一致させた健常群22名が、本研究に参加しました。参加者は自分で動作(図1)を行ったあと、他者の動作を観察しました。他者の動作は自分の動作と同じ場合と異なる場合があります。つまり他者の動作と自分の動作が同じ場合は「真似をされて」おり、異なる場合は「真似をされていない」ことになります。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて健常群の脳活動を調べてみると、真似をされたときのほうが真似をされていないときに比べて、EBAの活動が高くなりました(図2左図の青色部分)。これとは対照的にASD群のEBAではこのような活動は観察されず、健常群とASD群の間に活動差があることが分かりました(図2左図の緑色部分)。この結果はASD群のEBAが真似をされたときにうまく働いていないことを示しています。

 本研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」並びに、文部科学省科学研究費補助金の一環として行われました。

 ※参考資料は添付の関連資料を参照

<用語>

自閉症スペクトラム障害(ASD)
 「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM)の第5版において、ASDは、下記の2つの特徴で定義されます。自閉症スペクトラム障害は、注意欠陥多動性障害などとともに「発達障害」として分類されます。

 (1)「社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用の障害」
  視線が合わない、独り遊びが多い、友人関係が作れない、
  他者の表情や気持ちが理解できない、他者への共感が乏しい、
  言葉の発達に遅れがある、会話が続かない、冗談や嫌味が通じない、など。
 (2)「限定した興味と反復行動ならびに感覚異常」
  興味範囲が狭い、特殊な才能をもつことがある、
  意味のない習慣に執着、環境変化に順応できない、
  常同的で反復的な言語の使用、常同的で反復的な奇異な運動、
  感覚刺激への過敏または鈍麻、限定された感覚への探究心、など。

・機能的磁気共鳴法(fMRI)
 ある脳部位の神経細胞の活動に伴い、近傍の血管において酸素を持つヘモグロビン(赤血球のタンパク質)と酸素を持たないヘモグロビンの相対量が変化します。fMRIは核磁気共鳴現象を用いてこの変化を信号(BOLD信号)値として測定する手法です。


【今回の発見】
 1.真似をされていること対して反応する脳部位(EBA)の活動は、健常者に比べて自閉症スペクトラム障害(ASD)者で減少していることを明らかにしました。
 2.EBAの活動がASDによって減少することは、なぜASD者が真似をされていることに気づくのが苦手であるのかを説明する手がかりになります。

 ※図1、2は添付の関連資料を参照


【この研究の社会的意義】
「ASDの病態解明と介入の効果判定に使えるバイオマーカーの確立につながる研究」
 本研究は世界で初めて、真似をされた際の脳活動がASDで減少することが示唆されました。近年、ASDの障害を軽減させるための行動的介入の研究が進められており、真似を活用した訓練が有用であることが示されています。本研究は、ASDの病態解明に重要な知見を与えただけでなく、行動的介入の効果を判定するのに活用できると考えられます。


【論文情報】
 Attenuation of the contingency detection effect in the extrastriate body area in Autism Spectrum Disorder
 Yuko Okamoto;Ryo Kitada;Hiroki C Tanabe;Masamichi J Hayashi;Takanori Kochiyama;Toshio Munesue;Makoto Ishitobi;Daisuke N Saito;Hisakazu T Yanaka;Masao Omori;Yuji Wada;Hidehiko Okazawa;Akihiro T Sasaki;Tomoyo Morita;Shoji Itakura;Hirotaka Kosaka;Norihiro Sadato



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