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理研と東大、中性の水から電子を取り出す「人工マンガン触媒」を開発

2014-07-04

中性の水から電子を取り出す「人工マンガン触媒」を開発
−水を電子源とした燃料製造に前進−


<ポイント>
 ・水分解反応における電子とプロトンの輸送タイミングを解析
 ・プロトン受容能力が大きい塩基を利用し、電子とプロトンの輸送タイミングを最適化
 ・安価なマンガン酸化物を用いて中性の水から電子を獲得することに成功

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)と東京大学(濱田純一総長)は、植物などの光合成/水分解の仕組みを利用することで、中性の水を分解して電子を取り出す「人工マンガン触媒[1]」の開発に成功しました。これは、理研環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダーと、山口晃大学院生リサーチ・アソシエイト、東京大学大学院工学系研究科の橋本和仁教授らの共同研究グループによる成果です。

 水分子は自然界に最も豊富に存在する電子源[2]の1つであり、水素または有機燃料の製造を担う重要な化学資源です。自然界では植物などの光合成生物がマンガンを含む酵素(生体マンガン酵素[3])を利用して水から電子を獲得し、その電子を用いて二酸化炭素から炭水化物を作り出しています。この植物の水を分解する酵素の構造を模倣し、水から効率よく電子を引き抜く人工マンガン触媒の開発が行われてきました。人工マンガン触媒は、強酸や強アルカリ環境では効率よく水から電子を引き抜けますが、中性環境では活性が大きく低下します。人工マンガン触媒が中性環境で駆動しない理由や、生体マンガン酵素と人工マンガン触媒の活性の違いの起源については不明のままでした。

 共同研究グループは、中性環境における生体マンガン酵素と人工マンガン触媒の活性の違いとして電子/プロトン輸送の機構の違いに着目し、人工マンガン触媒の電子/プロトン輸送の経路を調べました。その結果、水分解過程(2H2O→O2 + 4e−(※1) + 4H+(※2))において、生体マンガン酵素では電子とプロトンが同時に移動するのに対し、人工マンガン触媒では、電子とプロトンが個別のタイミングで移動することを突き止めました。この結果に基づき、共同研究グループは、人工マンガン触媒にプロトン受容能力が大きい塩基を添加し、電子とプロトンの移動タイミングを調整しました。その結果、中性環境における水分解活性は15倍増大し、強アルカリ環境で得られる値の60%にまで到達しました。

 ※1・2:「4e−」「4H+」の正式表記は添付の関連資料を参照

 今回の研究成果は、豊富に存在する中性の水を電子源とした低環境負荷の燃料製造につながると期待されます。本研究成果は英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(6月30日付:日本時間6月30日)に掲載されます。

<背景>
 水分子は“クリーン”で“豊富に存在”する電子源です。そのため、水素または有機燃料の製造を担う重要な化学資源です。自然界では、光合成生物が金属元素であるマンガンを用いて、雨水や水道水、そして海水から電子を獲得し、その電子を用いて二酸化炭素からブドウ糖や脂肪酸等の炭水化物を作り出します。マンガンからなる水を分解する酵素「生体マンガン酵素」の構造は、シアノバクテリアから藻類、種子、シダ植物とほぼ全ての光合成生物において保存されていると考えられています。しかし、人工的に合成したマンガン触媒「人工マンガン触媒」は、強酸や強アルカリ環境においては効率よく水から電子を引き抜きますが、中性環境においては活性が大きく低下します。人工マンガン触媒は温和な中性環境で駆動しない理由はいまだにわかっていません。水の究極的な利活用の観点からは、光合成生物と同様に、クリーンで豊富な中性の水から電子を獲得できる触媒の開発が必要となります。

<研究手法と成果>
 共同研究グループは、生体マンガン酵素と人工マンガン触媒の活性の違いとして、電子/プロトン輸送の機構の違いに着目しました。人工触媒として、マンガン鉱物(図1)の主成分であるトンネル構造を持つ酸化マンガン(α−MnO2)を使いました。この触媒について、電気化学的な水分解過程(2H2O→O2 + 4e− +4H+)における電子とプロトンの輸送経路をさまざまな水素イオン指数(pH)環境下で調べました。その結果、生体マンガン酵素では電子とプロトンが同時に移動するのに対し、中性環境の人工マンガン触媒では、電子がプロトンに先行して移動することを突き止めました(図2)。

 共同研究グループは、生体マンガン酵素におけるアミノ酸を介した電子/プロトン輸送制御機構[4]から着想を得て、反応容器内にプロトンを受容可能な塩基物質を添加し、水分解反応活性への効果を検討しました。ここで、塩基としては、電子とプロトンが同時に移動可能な酸−塩基特性を満たすピリジンやその誘導体を用いました。中性環境(pH=7.5)で人工マンガン触媒にさまざまな塩基を添加し、電気化学的に水分解反応を行った際の電流−電位曲線を調べました。その結果、添加した塩基のプロトン引き抜き能力が高くなるに伴い、電流の値が大きく増加し、電流がより低い電位から流れることが分かりました(図3)。これは、中性の水を分解し電子を取り出せることを示しています。また、最も高いプロトン受容能力を有する塩基(g−コリジン)の存在下では塩基が存在しない場合と比較して水分解活性は最大15倍増大し、強アルカリで得られる値の60%にまで到達しました(図4)。

 水を重水(D2O(※3))に変えた条件で水分解反応を行ったところ、添加する塩基のプロトン受容能力が大きいほど、より大きな速度論的同位体効果[5]が観測されました。このことは、塩基が添加された人工マンガン触媒では電子が移動する時間内でプロトンも移動しているということを示しています。

 ※3:「D2O」の正式表記は添付の関連資料を参照

 以上から、生体マンガン酵素が行っているように、人工マンガン触媒にプロトン受容能力が大きい塩基を添加することで、中性環境の水分解過程における電子とプロトンを同時に移動させ、中性の水を分解して電子を取り出すことに成功し、従来よりも水分解反応活性が向上しました。

<今後の期待>
 本研究成果により、電子とプロトンの移動タイミングを調整することで、酸化マンガンを使って中性の水を分解して電子を取り出せることが明らかになりました。これによりクリーンで豊富な中性の水を電子源とした水素製造ならびに低環境負荷の有機燃料製造につながることが期待できます。


 ※以下、リリース詳細は添付の関連資料を参照






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