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産総研、NWSと共同で水道管の漏水箇所を高い精度で絞り込む技術を開発

2014-07-01

水道管の漏水を学習型異音解析技術で検知
−熟練工による漏水検査の手間を5分の1に削減−


<ポイント>
 ・漏水が疑われる箇所を学習型異音解析により高い精度で絞り込む技術
 ・熟練工による検査箇所を約5分の1に減らせることを実地試験で確認
 ・地方自治体や漏水率が30%を超えている東南アジア諸国での技術貢献を目指す

<概要>
 独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)情報技術研究部門(http://itri.aist-go.jp/)【研究部門長 工藤 知宏】スマートシステム研究グループと株式会社日本ウォーターソリューション【代表取締役 深澤 純一】(以下「NWS」という)は共同で、熟練工の判断事例を機械に学習させる異音解析技術により、漏水箇所を高い精度であらかじめ絞り込む技術を開発した。

 二都市で実地試験を行い、熟練工による漏水検査箇所を、従来に比べ約5分の1に絞り込める見込みを得た。検査箇所の絞り込みは大幅な検査コストの削減につながるため、人口減などにより水道料収入が減少して維持管理費の低減が求められる地方自治体の支援につながる。また、現在も漏水率が30%を超えている東南アジア諸国に、社会インフラの維持管理技術の一つとして提供することにより、低コストで安全な飲料水の供給に貢献することも期待される。

 ※参考資料は添付の関連資料を参照

<開発の社会的背景>
 わが国の水道管敷設総延長は約61万kmに達する。そのうち高度成長期時代に建設された大量の管路が、今後一斉に法定耐用年数(40年)をこえ更新時期を迎える。一方、水道料収入は毎年約3兆円で横ばいであるため、耐用年数を過ぎた老朽管すべてを更新していくことはコスト的に困難である。しかし、漏水事故が発生すると、断水などの一次被害だけでなく、道路陥没による交通事故などの二次被害の可能性もあり、漏水対策は不可欠である。従って、漏水検知を基本とする日々のメンテナンスによって水道管の安全性を確認し、長く維持していくことが必要とされている。

 また、東南アジア諸国では水道整備が急速に進んでいるが、漏水率が非常に高く(30%以上)、さらなる経済発展の障害となっている。漏水率の高さは水道料金の高騰や、水道公社の経営の圧迫につながるだけでなく、水漏れ箇所から汚染物質が水道水に流入するリスクも発生するため、安全な水の供給という観点からも漏水対策は重要である。

 ところが、現状の漏水検知作業では、熟練工の作業割合が非常に大きい。わが国の熟練工の数は限られており、今後高齢化による減少が懸念されている。また、東南アジア諸国ではこれから人材を育成する段階にある。このため、熟練工の技能を一部IT化によって代替し、熟練工による漏水検査箇所を絞り込むことが求められている。


<研究の経緯>
 産総研ではこれまで道路や橋梁の劣化を検知する技術など、社会インフラの老朽化に対応した技術を開発している。その一つに学習型の異音解析技術があり、コンクリート構造物の欠陥を非破壊で調べる打音検査などに適用してきた。このような機械学習の技術は、さまざまなデータを活用するために必須の技術の一つであり、産総研ではこれを実現する適応学習型汎用認識システムを1980年代から提案している。これまでに画像や動画を対象とした異常検知技術などに取り組んできたが、現在は音響データや時系列のセンサーデータにも対象を広げている。

 2012年より、産総研は「アジア戦略・水プロジェクト」により、国際的な水問題の解決に貢献するとともに、政府・民間・研究機関が一体となって水ビジネスの競争力強化に貢献することを目指してきた。その一環として、水道管の漏水検査に長年取り組みそのノウハウを蓄積しているNWSと、異音解析技術を用いた漏水検知の共同研究を行ってきた。


<研究の内容>
 漏水検知の先進的な取り組みの一つとして、図1に示す漏水箇所を絞り込む技術(スクリーニング工法)がある。これは二カ月ごとの水道メーターの検針時に並行して漏水調査を行う効率的なもので、一次調査として水道メーターに音響式の漏水検査器を接触させて漏水音の有無を調べる。その後、二次調査として熟練工が漏水の疑われる箇所に出向いて、音聴棒などにより詳細な漏水の検査を行う。これまでの一次調査の実績では、二次調査の件数を全世帯のほぼ10分の1以下に絞り込めるとわかったが、周囲の雑音などの影響で漏水でないもの(漏水疑似音)が含まれていることが多く、二次調査での熟練工の工数が多くなっていた。

 そこで今回、漏水検査器による一次調査で漏水が疑われる箇所に対して、異音解析技術により漏水音と漏水疑似音を判別して、漏水検査対象戸数を絞り込み、熟練工による二次調査の対象を大幅に減らすことを目指した(図2)。


 ※図1〜2は添付の関連資料を参照


 今回用いた異音解析技術の特徴は大きく2点ある。1点目は、人間があらかじめ何が異常音であるかを決めておくのではなく、コンピューターに熟練工の判断事例を与えて、異常音を検知するための最適なルールを自動的に学習させる点にある。従来の異音解析技術では、何が異常音であるかを人間があらかじめ決めておいても、想定外の異常音が発生した場合にはコンピューターは検知できない。それに対して今回の技術では、通常得られる正常音の範囲をあらかじめ学習させておくことで、そこから外れる音を異常音として検出することができる。また、熟練工の判断事例を追加することで、異常音を検知するためのルールが正確になっていく。

 また、2点目の特徴は、コンピューターに判断事例を与える際の音の特徴量の算出方法にある。一般的に異音解析では、解析対象とする音の波形から、特徴量と呼ばれるコンパクトでかつ判断に役立つ情報を算出する。従来の異音解析技術では、この特徴量としてフーリエ解析(周波数解析)の結果を用いることが一般的であったが、漏水音の検知には不十分であった。そこで今回開発した異音解析技術では、周波数解析に加えて、時間軸方向の変化も特徴量に加味することで、コンピューターでの学習を行いやすくした。

 二つの地方都市の77,789戸を調査したデータを用いて、異音解析技術の検証を行った(図3)。漏水検査器を用いて水道メーターを実測調査し、7,081件を漏水が疑われる戸数として抽出した。二次調査として熟練工が訪ね、音聴棒で漏水音の検査を行ったところ、一次調査と異なって音が聞こえなかった件数が4,663件、音が聞こえた件数が2,418件であった。この2,418件の中から無作為抽出で198件を選び実験の対象としたところ、そのうち28件の真の漏水が確認された。これに対して今回の解析技術では、198件のうち、160件を漏水でないと判定し、38件が漏水であると判定した。すなわち、一次調査で疑わしかった198件中160件を二次調査の対象から除外でき、熟練工の手間を約5分の1(=38/198)に低減できることになる。


 ※図3〜4は添付の関連資料を参照


 ただし図4に示すように、漏水でないと判定した160件のうち、実際は5件で漏水が起きていた。これは誤判定(見逃し)となるが、その漏水音は小さく漏れの初期状況と考えられ、熟練工でも見逃しうるレベル(微小漏水箇所)であった。これらの微小漏水箇所の漏水が増加すれば、漏水音も大きくなるため、今回開発した技術で漏水であると正しく判定できると考えられる。

 一方、本技術が漏水であると判定した38件の中には、実際には漏水していない誤判定(過検出)が15件あった。しかし、漏水検査器による漏水判定では170(=198−28)戸が過検出であったので、過検出の戸数を8%(=15/170)にまで大幅に低減することができたともいえる。

 このように、今回開発した異音解析技術により、熟練工による点検箇所数を従来技術の約5分の1に低減でき、検査費用を大幅に削減できることが分かった。人口減が進む地方自治体では水道料収入が減少し、限られた予算の中で老朽化が進む水道管を維持管理していくことが求められているため、今回の技術は特に有効と考えられる。


<今後の予定>
 今後は、異音解析技術を改善し、誤判定をさらに低減させる。また、NWSでは、今回の技術を用いたセンサーデバイスを平成27年中に製品化し実運用することを目指している。さらに、東南アジア諸国へも展開し、漏水検知に今回の異音解析技術を役立てる予定である。


<用語の説明>
◆異音解析
 通常は発生しない音を異常音または異音という。異音を人の聴力で検知するのではなく、マイクや振動計により計測した結果を解析し、異音の発生を検知したり、発生原因を推定したりする技術。

機械学習
 コンピューターが、データの中から知識やルールを自動的に獲得できるようにする技術のこと。近年、カメラ、マイク、センサーなどを通じてさまざまなデータが集められるようになり、それらを活用するための必須の技術の一つ。通信技術の進歩やコンピューターの計算能力の飛躍的向上により、大量のデータを学習用のデータとして扱えるようになった。

◆音聴棒
 長さが1〜2m程度の金属製の細い棒。この棒の先端を、水道弁などに押し当てて聴音する。漏水している場合には、漏水箇所で発生する漏水音が水道管を伝って、弁の部分で聞き取ることができる。これは微妙な差異のため、熟練工による作業が必要となる。

フーリエ解析(周波数解析)
 信号処理における基本的な解析手法。音や振動を測定して、どの周波数の振動がどれくらい含まれているのかなどを算出する。

◆誤判定
 判定の誤りには、2種類ある。ひとつは、漏水箇所として検知すべきものを、見逃してしまう誤りと、もうひとつは、漏水箇所ではないのに漏水箇所として誤って検知してしまうものである。後者は、過検出ともよばれる。




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