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東京大学、幼児の脳機能発達過程には複数のプロセスが存在することを発見
「幼児における複数の脳発達過程」
1.発表者:
開 一夫(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
森口佑介(上越教育大学大学院学校教育研究科 講師,
独立行政法人科学技術振興機構 研究者)
2.発表概要:
我々は、近赤外分光法(*1)を用いて、幼児の脳機能発達過程には複数のプロセスが存在することを世界で初めて突き止めた。具体的には、ある認知課題を解く際に、発達早期からその課題を解ける子どもは右の下前頭領域(*2)を活動させるのに対し、発達後期になってからその課題を解けるようになる子どもは左の下前頭領域を活動させることを、縦断的研究(*3)から示した。
3.発表内容:
これまでの研究から、子どものある認知課題の成績とある特定の脳領域の活動の強さの間に関連があることが示されている。これらの結果から、研究者らは、その特定の脳領域の活動が強くなることで認知課題の成績が向上すると推測していた。つまり、脳発達において一本道の経路を想定してきた。
我々は、幼児に認知課題を与え、3歳時点と4歳時点における下前頭領域の活動を、近赤外分光法を用いて計測した。その結果、3歳時点で認知課題を解ける幼児(グループA)は右の下前頭領域を活動させたのに対して、解けなかった幼児(グループB)はその領域を活動させなかった(下図3歳時点)。グループAの幼児は、4歳時点では左右両側の下前頭領域を活動させた。一方、グループBの幼児は、認知課題が解けるようになったが、右側ではなく左の下前頭領域を活動させた(下図4歳時点)。つまり、同じ課題においても、早くから解ける子どもとそうでない子どもの脳の発達プロセスには違いがあるのである。
これらの結果は、幼児の脳の発達には複数の経路が存在することを示しており、子どもに対する画一的な教育的関わりでは不十分で、子どもに応じて関わりを変える必要性があることを示唆している。
4.発表雑誌:
Developmental Cognitive Neuroscience 電子版
“Longitudinal development of prefrontal function during early
childhood”
5.注意事項:
特になし
6.用語解説:
(*1)近赤外光の性質を応用して脳活動を計測する手法
(*2)これまでの研究から、意思決定や心の柔軟さなどとの関連が明らかになっている脳部位
(*3)同じ子どもを複数の時点で調査して、その変化を調べる方法
7.添付資料:
※添付の関連資料を参照