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東北大学、恐竜と鳥類の指形態の類似性を解明

2011-02-16

恐竜の前足の指と鳥類の翼の指は同じもの

−150年続く指論争に終止符を打つ発生研究−


<概要>
 鳥類が恐竜の一部から進化したことはさまざまな証拠から広く支持されていますが、恐竜の前足の3本の指は第1−2−3指であるのに鳥類のそれは第2−3−4指である、というパラドクスが問題点として指摘されてきました。今回、東北大学大学院生命科学研究科の田村宏治教授と大学院生・野村直生さんらは、発生学的解析から鳥類の翼の3本の指が第1−2−3指として形成されていることを示し、始祖鳥の発見以来150年に及ぶこの問題を解決しました。本研究成果は鳥類恐竜起源説の強力な証拠となるもので、その内容は2011年2月11日発行の科学雑誌Science( http://www.sciencexpress.org )に掲載されます。


【研究内容】

1.背景
 鳥類と獣脚類恐竜との密接な類縁関係は、始祖鳥の発見に始まる長い古生物学研究の歴史のなかで立証され支持されてきました。しかしそこにはいくつかの矛盾点が指摘されており、それを理由に鳥類恐竜起源説を否定する説も唱えられています。その矛盾点の一つに、現存する鳥類の前肢(翼)の指の番号がありました。
 現存する鳥類は、前肢に3本の指をもちます。獣脚類恐竜の多くも同様に前肢の指は3本です。獣脚類の前肢の指は最初は5本でしたが、進化の過程で後ろ側の2本、すなわち第5指と第4指(小指と環指)が失われてゆき、最終的に前側3本の指が残ったことが化石から示されています(図1)。したがって、獣脚類の3本の指は第1−2−3指(母指、示指、中指)となります。鳥類に属する始祖鳥

 図1.恐竜と鳥類の指形態の類似性
  ※ 関連資料参照

 指も獣脚類の第1−2−3指と形態がよく似ており、古生物学的には鳥類の前肢の指も第1−2−3指とされ、指形態の類似性が両者の近縁な関係の一つの証拠ともされてきました。

 ところが発生学者の多くは、現存する鳥類の前肢の指は第2−3−4指であるとしてきました。たとえばマウスは前後肢に5本、ニワトリは後肢に4本の指をもちます。マウスやニワトリの後肢で第4指が作られる位置と、ニワトリの前肢の最も後ろ側の指が作られる位置は、腓骨・尺骨の延長線上ということで一致しています(図2)。したがってこの指も第4指と考えられます。ダチョウでは、指の形成過程で5つの指の原基(もとになる軟骨の塊り)が観察され、そのうちの真ん中の3つが指に成長するので(残りは退化)やはり鳥類の前肢の指は第2−3−4指である、と主張されています。

 古生物学的に獣脚類恐竜の指が第1−2−3指であるのに対し、発生学的に現生の鳥類の指は第2−3−4指である、この矛盾は両者の類縁関係を否定するに値する重要な証拠として議論されてきました。


2.今回の研究で明らかになったこと

 今回、東北大学生命科学研究科の田村宏治教授と大学院生・野村直生さんら器官形成分野のグループは、ニワトリの前肢の指が形成される発生過程(図3)を詳細に追跡し、その3本の指が第2−3−4指ではなく、第1−2−3指として形成されていることを証明しました。マウスの前肢(5本指)やニワトリの後肢(4本指)の第4指の作られ方と、ニワトリの前肢の最も後ろ側の指の作られ方が全く異なることを明らかにしたのです。

 ニワトリの後肢やマウスの前肢の第4指は、発生過程で指の番号が決まる時期に、番号を決めるのに重要なZPAとよばれる領域の中にあります(図4)。しかし、その時期のニワトリの前肢を調べると、最も後側の指はZPAの外に存在しました。したがって、この前肢の最も後ろ側の指は第4指として作られていないことになります。むしろその作られ方は第3指のものと一致しており、この指は第3指であると考えられます。つまり、ニワトリの前肢の指は第1−2−3指であることになります。

 図2. ニワトリ前肢(左)後肢(右)の指形成位置 (撮影:神山菜美子)
 図3. ニワトリ前肢の発生過程(模式図)
  ※ 関連資料参照

 さらに田村教授らは、ニワトリの前肢の最も後側の指は、指の番号が決まる時期より前の発生初期には第4指の位置(ZPAの中)に存在すること、しかしその後すぐに、その位置が前方へとずれてしまい、指ひとつ分だけ“ずれた”状態で指の番号が指定されるために、結果的に第1−2−3指として形成されていることまで明らかにしました(図5)。これまで発生学者がニワトリの前肢の指を第2−3−4指としてきたのは、この“ずれ”を見逃していたからのようです。


3.研究のインパクト
 これまで発生学の全ての教科書が、鳥類の前肢の指を第2−3−4指と記述してきましたが、今回の研究成果はその教科書のいちページを塗り替えるものです。さらに、150年にも及ぶ論争に終止符をうつ決定打ともなる今回の研究は、指のパラドクスを理由に両者の関係を疑問視してきた学説の根拠を否定し、鳥類恐竜起源説を強く支持するものです。恐竜の進化はこれまで主に古生物学と比較形態学によって研究されてきましたが、今回の研究は、現存する動物の形態が形成されていく過程を解析する発生学という手法によって、動物の進化過程を説明するという、先進的な研究といえます。


 図4. 指原基の相対位置
 図5. ニワトリの前肢における“ずれ”が、前肢の第1−2−3指形成の原動力である
  ※ 関連資料参照


※ 図1〜5は、関連資料参照 

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パラドクス 東北大学 始祖鳥

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