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東大と東工大と上智大、二酸化チタンの光触媒活性を決める因子を発見

2014-06-02

二酸化チタンの光触媒活性を決める因子を発見
−高効率光触媒開発に新たな指針−


【要点】
 ○二酸化チタン結晶表面での光励起キャリアのダイナミクスをリアルタイムで観測することに成功し,光触媒活性を決める因子を発見。
 ○未解明であったアナターゼ型とルチル型二酸化チタンの触媒活性の違いが,光励起キャリアの結晶表面に固有な寿命に起因することを証明。
 ○光触媒活性を簡便に制御する方法を提案。


【概要】
 東京大学物性研究所の松田巌准教授と山本達助教,東京工業大学大学院理工学研究科の小澤健一助教,上智大学理工学部の坂間弘教授らの研究グループは,光触媒(注1)である二酸化チタン(TiO2(*))結晶の表面における光励起キャリア(注2)の振舞いをリアルタイムで観察し,キャリア(電子と正孔)寿命(注3)が触媒活性を決定する重要な因子であることを発見した。
 TiO2にはルチル型とアナターゼ型という原子構造が異なる結晶型が存在し,アナターゼ型の方が高活性だが,両型の触媒活性の差はこれまで未解明だった。今回の研究により,アナターゼ型の結晶表面でのキャリア寿命がルチル型結晶に比べて10倍以上も長いことが原因であることを突き止めた。触媒表面の化学処理により光励起キャリアの寿命を制御する手法が,より高性能の光触媒を開発するために有効であることが示唆された。
 研究ではTiO2が半導体であることに着目し,半導体に特有な現象である表面光起電力(注4)をナノ秒スケールで追跡することで,結晶表面の光励起キャリアを捉えることに初めて成功した。実験は,大型放射光施設SPring−8の東京大学放射光アウトステーションビームライン「BL07LSU」で,紫外光レーザーと軟X線放射光を組合せた時間分解光電子分光装置を用いて行った。
 本研究成果は,2014年5月16日にアメリカ化学会の速報誌「ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・レターズ(The Journal of Physical Chemistry Letters)」オンライン版に掲載された。

 *「TiO2」の正式表記は添付の関連資料を参照


●背景
 光触媒材料として利用される二酸化チタン(TiO2)には,ルチル型とアナターゼ型がある。このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが,その違いを生み出す要因は不明だった。光触媒活性は,光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と,キャリアが表面に到達する前に再結合して消滅する過程の二つの競争によって決まる。このことから,キャリア寿命が長いほど前者の過程が優勢になり,光触媒活性は高くなることが予想される。
 TiO2結晶内部における光励起キャリアの振舞いについては,これまでの研究から多くの知見が得られている。ところが,光触媒反応に関与する結晶表面のキャリアを研究した例はほとんどない。TiO2結晶表面で光触媒反応がどのように進行するか,ルチル型とアナターゼ型TiO2の光触媒活性がなぜ異なるのかを明らかにするためには,結晶表面のキャリアを直接評価する必要があった。


●研究成果
 これまでTiO2結晶表面の光励起キャリアを捕え,その振舞いを評価した研究はほとんどなかった。結晶表面という限定された領域にいるキャリアが少ないこと,およびそれを検証する実験手法が限られていたためである。
 小澤助教らのグループは半導体に特有な現象として知られている表面光起電力(SPV)効果に着目し,SPVの測定からTiO2結晶表面の光励起キャリアを評価する方法を採った。
 SPVの大きさは表面に到達した光励起キャリアの数に比例し,TiO2表面の価電子バンドや内殻準位のエネルギー位置に反映される。従って,光電子分光法(注5)によりこれらのエネルギー位置やその時間変化を追うことで,光励起キャリアの情報を得られる。
 実用光触媒はルチル型,アナターゼ型ともに,数〜数十ナノメートルの微結晶を用いるが,今回は実験の再現性を保証するために単結晶TiO2を用いた。この表面の価電子バンドのエネルギー位置を検証すると,ルチル型とアナターゼ型のTiO2のどちらの表面でも,価電子バンドは結晶内部のバンドに比べてエネルギー的に深いところに位置することが分かった(図1)。このような表面で光励起キャリアが発生すると,電子は結晶表面に,正孔は結晶内部に移動してSPVが発生する(図2)。
 SPVの時間変化を観測した結果が図3である。ルチル型とアナターゼ型TiO2表面ともに,光励起キャリア発生(時間0)からの時間経過とともにSPVが小さくなる。これは,光励起直後に表面に移動した電子が,結晶内部から遅れて表面に移動してきた正孔と再結合して消滅していることを示す(図2)。
 電荷キャリアが結晶内部から表面に移動する場合,表面ポテンシャル障壁(注6)を乗り越える必要がある。今回の二つのTiO2結晶表面では,正孔に対する表面ポテンシャル障壁が形成されており,その高さはアナターゼ型で0.2エレクトロンボルト(eV),ルチル型では0.4eVだった(図1)。熱電子放出モデル(注7)を適応してSPVの時間変化を解析すると,ポテンシャル障壁がある時の光励起キャリアの寿命を求められる。
 この解析に基づくと,アナターゼ型のキャリア寿命は50ナノ秒,ルチル型では180ナノ秒となった。キャリアの寿命の長さが光触媒活性と相関があるならば,この結果はアナターゼ型が高活性である事実から予想される結果と相容れない。ところが,キャリア寿命に及ぼすポテンシャル障壁の影響を考えると,キャリア寿命が逆転することが分かった。
 表面ポテンシャル障壁は,結晶表面の化学状態(表面にどのような分子がどのくらい吸着しているのか,結晶表面に格子欠陥があるか)に敏感に応答する。従って,ポテンシャル障壁の高さがゼロの時のキャリア寿命は,表面の化学状態に依存しない物理量として重要である。
 熱電子放出モデルの解析からはポテンシャル障壁がない時のキャリア寿命も求められ,アナターゼ型で0.25ナノ秒,ルチル型では0.020ナノ秒となった。これが結晶表面に固有のキャリア寿命と言ってよく,アナターゼ型の固有のキャリア寿命は13倍もルチル型より長いことが明らかとなった。
 さらに重要なのは,同じ高さのポテンシャル障壁を持つ場合にはアナターゼ型のキャリア寿命はルチル型より常に長いこと,アナターゼ型TiO2表面のポテンシャル障壁がルチル型より0.15eV以上大きくならないとキャリア寿命の逆転が起こらないことである(図4)。
 これは,アナターゼ型のキャリア寿命はルチル型より長くなる傾向が強いことを意味する。
 光触媒活性は,光励起キャリアが結晶表面に滞在する時間が長いほど高くなる。今回の研究から得られた結果は,アナターゼ型TiO2がルチル型TiO2より光触媒活性が高いという事実をキャリア寿命の観点から証明する初めての直接証拠である。


●今後の展開
 本研究で得られた重要な知見の一つは,光励起キャリアの表面への移動速度が表面ポテンシャル障壁に強く依存するという点である。キャリア寿命がTiO2の光触媒活性を左右する重要なパラメータの一つであり,表面ポテンシャル障壁がTiO2表面の化学状態により制御できることを考慮すると,光触媒活性を表面の化学処理で制御できることが原理的には可能になる。このことは,目的とする化学反応に応じて最適なキャリア寿命を持つ光触媒を設計できることを示唆しており,触媒設計開発に新たな指針を与えるものである。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・用語説明
  ・論文情報
  ・図1〜4



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