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東北大、地磁気を利用し「津波石」から津波の発生時期とその規模を解明

2014-06-02

地磁気を利用して津波石(※1)から津波の発生時期とその規模を解明


<概要>
 東北大学理学研究科地学専攻の佐藤哲郎(博士課程前期2年)と中村教博准教授(地圏進化学分野・東北大学災害科学国際研究所兼務)は、熊谷祐穂(博士課程前期1年)、長濱裕幸教授(地圏進化学分野)、箕浦幸治教授(環境動態論分野)、東北大学災害科学国際研究所の後藤和久准教授との共同研究として、沖縄県石垣市の宮良湾に分布するサンゴ礁起源の津波石の残留磁気(※2)を解析することで、津波石がいつ・どのように形成されたのかを解明しました(図1)。この手法を利用することで、これまで環太平洋沿岸部に多数分布しながらも放置されている津波石に科学のメスをいれ、さまざまな地域でどの程度津波が、何回来襲したのかを、たった一つの津波石から解明でき、沿岸部のリスク評価につながる可能性があります。
 地球は地磁気(※3)をもっていて、方位磁石を使うといつも北の方向がわかります。我々は地磁気を感じることができないものの、スマホやカーナビはこの地磁気とGPSの位置情報を利用して、我々に現在位置と向かっている方向を教えてくれています。また石垣島のサンゴはサンゴ礁として成長するときに、非常に細かい磁性粒子を取り込んでいたため、この地磁気の方向を残留磁気として記録しています。また石垣島には、過去の巨大な津波によってサンゴ礁が壊され、サンゴ礁起源の津波石が沿岸部に広く分布しています。これまでの放射性炭素を用いた研究によると、過去2500年の間に8回もの津波に襲われていることが明らかになっておりました。しかしながら、一旦津波石となって沿岸部に運ばれてから次の津波で津波石が動いたかどうかは、全く分かっていませんでした。今回我々は、この津波石の残留磁気を詳しく調べ、過去のどの津波によって沿岸部に運ばれ、その後の津波で津波石が動いたかどうかを世界で初めて明らかにしました。

 津波石の残留磁気は、津波石となってからの経過時間とともに新しい残留磁気が地磁気と平行に着磁されるため、磁性の緩和理論を考慮することで、200トン級の津波石(図2a)は約2000年前の津波で移動し、その後の1771年の明和津波で35トン級の津波石(図2b)は沿岸部に移動していたものの、この200トン級の津波石は移動していないことが判明しました。この研究成果は、アメリカ地質学会が発行する”Geology”のオンライン版に5月22日(現地時間)にOpen Accessとして掲載されました。


<発表論文>
 T.Sato,N.Nakamura,K.Goto,Y.Kumagai,H.Nagahama,and K.Minoura,Paleomagnetism reveals the emplacement age of tsunamigenic coral boulders on Ishigaki Island,Japan.Geology,published online May 22,2014,doi:10.1130/G35366.1(2014).


 ※図1〜3は添付の関連資料を参照

  ・図1:地磁気を用いて津波石の移動様式と津波の年代を求めるための概念図
      地磁気は南から北に向かって水平面から約40度下向きになっていて、もともとのサンゴ礁の残留磁気もこの地磁気と平行になっていました。しかし、津波石は津波によって運ばれるため回転し、その残留磁気は上下が逆さまになることがあります。また、逆さまになった残留磁気に津波石となってからの時間が経過するにつれて、新しい残留磁気が地磁気と平行に着磁し、この新しい残留磁気の強さから津波の年代を残留磁気の緩和理論から算出できます。

  ・図2:今回用いた津波石の写真

  ・図3:石垣島宮良湾に分布する最大規模(200トン級)の津波石(a)が記録する地磁気の方向(b)と宮良湾沿岸部で死滅したサンゴ礁が記録する地磁気の方向(c)。d)3次元空間の地磁気の方向を2次元平面で表現するために、水平投影と鉛直投影で地磁気成分を表し、水平投影面と鉛直投影面を重ね合わせて一枚のグラフを作り、解析します。b)やc)のグラフはそれぞれの黒丸が各加熱温度で地磁気の方向を示しています。津波前にc)であったサンゴ礁が、津波後にb)のように上下を反転させて沿岸に打ち上げられたことを示しています。これは野外にてサンゴの成長方向上下反転していることと整合していました。


<研究の背景>
 ・津波の記録としての津波石
   日本を含めた環太平洋地域は常に津波のリスクにさらされています。数百年に一度しか起きないけれども、2011年の東北地方太平洋沖地震の際の巨大津波に代表される超巨大災害のリスク低減のためには、数十年スケールの機器観測に加えて、数百年〜数千年スケールでの津波の歴史とその規模を知ることがとても重要であることを、我々は学びました。そのためには古文書の災害記録の掘り起しや考古学・地質学的なアプローチが有効な役割を果たすに違いありません。しかし、古文書記録は津波の時期と規模を記録しているものの、数百年間の連続的な履歴を有しておらず、また津波の定量的な見積もりが難しいものです。一方、津波の地質学的な痕跡である砂質の津波堆積物は共著者である箕浦幸治が主導的に研究を進めた結果、仙台平野を襲う1000年前の巨大津波の存在を発見していました。砂質の津波堆積物と同様に、巨大津波では津波石が沿岸に打ち上げられます。津波石は環太平洋沿岸域に広く分布しているものの、いつ・どのように現在の位置にたどり着いたのかを知る手掛かりはありませんでした。石垣島に分布する津波石はサンゴ礁起源のため、津波によってサンゴが破壊されて津波石として沿岸部に運ばれると、その時点からサンゴの中の放射性炭素が放射壊変するため、津波の年代を決めることができます。しかしながら、その後の津波で移動してしまうと、実際は複数回で移動してきた津波石を、一回の巨大な津波で移動したものと考えてしまうために、津波の規模を過大評価してしまい、さらに津波の頻度を過小評価してしまうことになります。また、すべての津波石にこの放射性炭素年代を適用できるわけではありません。

 ・津波石の残留磁気とその年代決定法
   津波石になる前のもともとの岩石は、その岩石が作られるときに、岩石中に含まれる細かな磁性粒子の磁気スピンがその場所の地磁気の方向に配列することによって、当時の地磁気の方向を、残留磁気として記録しています。その後、巨大な津波で津波石として沿岸部に打ち上げられると、地磁気の方向は同じだけれども、もともとの岩体が記録していた地磁気の方向とは異なる残留磁気の方向を示すことになります。また、岩石中の磁気スピンの配列は、時間が経過するとともに、津波後の地磁気の方向に再配列し始めます(図1)。津波後に残留磁気が着磁されるまでの時間は、ノーベル受賞者のLouis Neel(ルイ・ネール)によって1949年に理論化された古典的なネール・アレニウスの磁気緩和理論(※4)にもとづいて計算しています。今回の石垣島のサンゴ礁起源の津波石では、地磁気が存在する環境でサンゴが成長するときに、サンゴ骨格中に紛れ込んだ極細粒な磁石が地磁気の方向を残留磁気として記録することを利用して津波石の移動と経過時間を推定しました。一般的な常識では、サンゴは残留磁気を持たないと考えられていましたが、幸いにも石垣島のサンゴはこの常識とは異なり比較的強い残留磁気をもっていることを発見しました。


<波及効果と今後の展望>
 2011年3月11日、我々は東北地方太平洋沖地震による1000年に一度と言われる津波を経験しました。三陸海岸では今回の津波でも多数の津波石が打ち上げられています。このことによって、どの程度の規模の津波が、どのぐらいの大きさの津波石を打ち上げることができるのかを知ることができました。我々は、この津波を身近に経験したものとして、物言わぬ津波石から、一見津波とは関係のない地磁気の情報を引き出すことによって、過去の津波の規模とその発生年代を推定することにチャレンジしてきました。現在、三陸海岸に分布する津波石にも我々の手法を適用し始めています。さらに今後、津波の流体計算と組み合わせることによって、世界中に分布している津波石からいつ、どの程度の規模の津波が、何回襲来しているのかを読み解いてゆきたいと考えています。津波石は‘石’なので、まるでタイムカプセルのように数千年の津波の歴史を残すため、津波石を利用することで伝承だけでは伝わらない津波の歴史を、1000年先の後世の人類に届けることができます。


<用語の解説>

 ※添付の関連資料を参照


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