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東大、「量子暗号に30年ぶりの新原理」と研究成果を発表

2014-05-28

量子暗号に30年ぶりの新原理」
―「読まれたら気づく」から「読めない」手法へ―


1.発表のポイント

 ◆従来の量子暗号(注1)は、不確定性原理(注3)に基づき、通信路(注2)の雑音量を監視することでセキュリティを確保していたのに対し、監視が不要な全く新しい原理に基づく量子暗号方式を提案
 ◆特殊な光源は用いず、レーザー光パルス間の干渉効果のみを用いて、雑音耐性を飛躍的に向上し、セキュリティ確保のために費やされる通信量を大幅に削減
 ◆既存の光通信技術を基に、物理法則に裏打ちされた強固なセキュリティをさまざまな場面で提供する道を拓く成果

2.発表概要:

 量子暗号(注1)は、量子力学の性質を利用して、盗聴者の計算能力や技術レベルに依存しない強固なセキュリティを持った通信を可能にする技術です。既存の量子暗号方式は全て、盗聴者が盗み見ると変化する通信路(注2)の雑音量を監視することで、不確定性原理(注3)を介して盗聴された情報量を見積るという仕組みに基づいていました。
 東京大学大学院工学系研究科の小芦雅斗教授と理化学研究所の佐々木寿彦特別研究員(当時、東京大学大学院工学系研究科 特任研究員)は、国立情報学研究所の山本喜久教授とともに、従来とは全く異なる動作原理に基づく量子暗号方式を提案し、通信路の雑音量を監視せずにセキュリティを確保できることを証明しました。新方式は、基本的に通常のレーザー光源と干渉計の組み合わせ(図1)により実現可能で、盗聴者は何をしても、一定の小さい情報量しか得られません。
 本成果は「読まれたら気づく」方式から、「そもそも読まれない」方式への大きな転換です。従来の方式に比べると、監視に関わる手間が省かれ、雑音が大きい通信路でも秘匿通信が可能になります。この成果は、量子暗号の最初の提案以来30年ぶりに、本質的に新しい量子効果の利用法を提唱するもので、暗号にとどまらず、広範囲な発展が期待されます。
 本研究は、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)ならびに先端光量子科学アライアンス(APSA)の支援のもとに行われました。


3.発表内容:

《研究背景》

 量子暗号(注1)は、基本的な物理法則である量子力学の性質を利用して、盗聴者の計算能力や技術レベルに依存しない強固なセキュリティのもとで秘匿通信を行う技術です。ハイゼンベルク不確定性原理(注3)によれば、微弱な光パルスに載った信号を盗聴者が盗み見ると、その行為によって信号が変化するので、通信路(注2)の雑音量が増加したように見えます。そこで、雑音量を監視して、盗聴された情報量を正しく推定することでセキュリティを担保する――これが従来の量子暗号方式全てに共通する動作原理でした。
 この従来法の欠点のひとつは、使用している通信路にもともとあった雑音も、盗聴者が引き起こしたと仮定しなければならず、その分だけ効率が低下してしまうことです。単に情報を送るだけの場合でも、通信路のビット誤り率(注4)が増えると送れる情報量は低下しますが、秘匿通信のためには、ここからさらに盗聴されたと考える分を差し引く必要があります。従来の量子暗号では、雑音が増加すると、想定される盗聴量も増加するので、ビット誤り率が15%程度になると、全く情報を送れなくなってしまいます。もうひとつの欠点は、通信路の監視の精度の問題です。通信路の監視は、本来の通信の中に、抜き打ち検査を混ぜ込むことで行われます。十分な精度で監視するためには、一定の検査の回数がどうしても必要になります。そのため、たった数百ビットの秘匿通信をしたい、という場合であっても、監視のために最低限百万ビット以上の通信量が必要、という不便さがありました(図2)。

《今回の成果》

 今回、小芦雅斗教授らの研究グループが考案した手法は、上に述べた従来の手法とは全く異なる動作原理に基づく新しい量子暗号方式です。特殊な光源を使用する必要はなく、レーザー光源からの微弱光パルスの列に、デジタル光通信でも使用されている差動位相変調(注5)という方式でビット値の情報を載せて送信します。受信者は、遅延回路(注6)を含んだ干渉計を用いてパルスをランダムにずらして重ね、光子検出によりビット値を読み出します(図1)。動作原理は後述しますが、これだけのことで、通信路の監視をせずにセキュリティを確保できることを証明しました。
 この方式では、雑音の大きさに関係なく、一定の小さな量しか盗聴できません。つまり、通信路の雑音が増加しても、盗聴されたと考えて差し引く分量は変わりません。その結果、高いビット誤り率の通信路でも、秘匿通信が可能になります。遅延回路により最大127パルス分の遅れが生じる場合、ビット誤り率35%程度でも通信が可能で、遅延を大きくすることでこの限界値をさらに大きくすることも可能です。また、通信路の監視の精度を問題にする必要がないことも特長のひとつで、最低限必要な通信量は千ビット程度で済みます(図3)。

 ※以下、本提案の量子暗号方式の動作原理などリリース詳細は添付の関連資料を参照


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