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東大、細胞の開口分泌現象を高精細に可視化する蛍光試薬の開発に成功

2014-05-28

細胞の開口分泌現象を高精細に可視化する蛍光試薬の開発に成功
〜アレルギー治療薬の開発に応用可能か〜


1.発表者:
 浅沼 大祐(東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経生物学分野 助教)
 廣瀬 謙造(東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経生物学分野 教授)

2.発表のポイント:
 ・新たな蛍光試薬を開発し、蛍光顕微鏡の観察下で細胞の物質分泌に関わる開口分泌現象を高精細に可視化することに成功した。
 ・アレルギー性疾患においては開口分泌現象が過度に生じ、過剰な炎症物質の放出を引き起こす原因となる。疾患の仕組みの解明や治療薬の開発などで蛍光試薬は非常に実用性の高い研究ツールになることが期待される。
 ・今回開発した蛍光試薬は五稜化学株式会社より「AcidiFluor(TM)ORANGE」シリーズとして販売が開始されている。

2.発表概要:
 生体で起こる現象を理解する上で蛍光可視化の技術は必要不可欠なものとなっています。今回、東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経生物学分野の浅沼大祐助教、廣瀬謙造教授らの研究グループは新たな蛍光試薬を開発し、従来困難であった細胞の物質分泌に関わる開口分泌現象の高精細な可視化に成功しました。開口分泌現象はアレルギー性疾患においては過度に生じ、過剰な炎症物質の放出を引き起こす原因となっています。開発した蛍光試薬はこれらの疾患の仕組みを明らかにする上で非常に有用な研究ツールとなることが期待されます。
 本研究成果は、ドイツ科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」(5月6日オンライン版に掲載されました。また、蛍光試薬は五稜化学株式会社より「AcidiFluor(TM)ORANGE」シリーズとして販売が開始されています。

4.発表内容:
(1)研究の背景
 生体におけるアレルギー応答や神経伝達現象などの様々な生命現象において、開口分泌現象は生理活性分子の放出を担う重要な細胞現象です(図1、注1)。その分泌の仕組みは、細胞内の分泌小胞が細胞外へとつながり分泌小胞内の生理活性分子が放出されるもので、これらの分泌の異常は病気に関連します。例えば、花粉症などのアレルギー性疾患では、細胞が過度の開口分泌によりヒスタミンなどの炎症物質を過剰に放出するために起こると考えられています。これらの疾患の仕組みを理解する上でも、開口分泌現象が細胞内でどのように生じるのかを明らかにする必要があります。しかしながら、これまでの技術では開口分泌現象を高精細に捉えることは難しく、これらの現象を直接的に可視化する技術の開発が望まれていました。今回、東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経生物学分野の浅沼大祐助教、廣瀬謙造教授らの研究グループは新たな蛍光試薬を開発し、蛍光顕微鏡の観察下で細胞の開口分泌現象の高精細な可視化に成功しました。

(2)研究内容
 研究グループは蛍光試薬を開発する上で、開口分泌に伴って分泌小胞内の環境が酸性から中性へと瞬時に変化することに着目し、この環境変化を直接検出することで開口分泌現象の可視化を試みました。研究グループは種々の蛍光分子を開発することで、開口分泌現象に伴う環境変化を高感度に検出する蛍光試薬の開発に成功しました(図2)。蛍光試薬は高感度な検出特性に加えて従来蛍光試薬で問題となっていた光退色性(注2)を劇的に改善し、長時間に渡って安定的かつ高精細に細胞現象を観察することを可能としました。顆粒分泌細胞を用いた観察実験で分泌小胞の1つ1つがどのようなタイミングで放出されるのかを蛍光顕微鏡下で高精細に可視化できることを明らかにしています。さらに研究グループは、従来電子顕微鏡などを用いた研究から想定されていた細胞局所での連続した開口放出現象の可視化に初めて成功しました。これらの現象は局所的な物質の分泌に重要であると考えられ、今後その仕組みの解明が期待されます。また、顆粒分泌のほか神経伝達現象における開口分泌の可視化に成功し、開発した蛍光試薬が様々な研究用途に応用できることを示しています。

(3)社会的意義・今後の予定など
 現在、生体内で起こる現象を理解する上で蛍光可視化の技術は欠かせないものとなっており、今回開発した蛍光試薬は開口分泌現象の仕組みを明らかにする上で非常に実用性の高い研究ツールとなることが期待されます。また、細胞現象の仕組みの解明の他、疾患治療薬の開発においても有用なツールとして貢献することが期待されています。現在、研究グループは蛍光試薬を用いたアレルギー応答の簡便な評価法の確立に着手し、新たな創薬スクリーニング手法の開発に取り組んでいます。今回開発した蛍光試薬は、細胞生物学や創薬研究をはじめとした様々な研究分野に大きな影響を与えると考えられます。
 本開発はJST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として行われ、蛍光試薬は五稜化学株式会社より「AcidiFluor(TM)ORANGE」シリーズとして販売が開始されています。

5.発表雑誌:
 雑誌名      :「Angewandte Chemie International Edition」(5月6日オンライン版)
 論文タイトル   :Acidic−pH−activatable fluorescence probes for visualizing exocytosis
dynamics
            (細胞の開口分泌現象のダイナミクスを可視化する酸性pH 検出蛍光プローブの開発)
 著者       :Daisuke Asanuma,Yousuke Takaoka,Shigeyuki Namiki,Kenji Takikawa,Mako Kamiya,Tetsuo Nagano,Yasuteru Urano,and Kenzo Hirose
 DOI番号     :10.1002/anie.201402030
 アブストラクトURL:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201402030/abstract


 ※用語解説などは添付の関連資料を参照






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