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理研と東京理科大、白血球「好塩基球」の喘息における新メカニズムを解明

2014-05-22

白血球「好塩基球」の喘息における新メカニズムを解明
−好塩基球と自然リンパ球(NH細胞)との共同作業で喘息が起きる−


<ポイント>
 ・ダニ抗原などシステインプロテアーゼで起こる喘息は新タイプのアレルギー反応
 ・システインプロテアーゼで誘導される喘息は好塩基球が重要な働きをする
 ・好塩基球が産生するIL−4は自然リンパ球を活性化して喘息を起こす

<要旨>
 理化学研究所(野依良治理事長)は、ダニ抗原などのアレルゲン[1]で誘導される喘息(ぜんそく)が、アレルギーを起こす白血球「好塩基球[2]」から産生されるインターロイキン−4(IL−4)[3]を介した2型自然リンパ球[4](NH細胞;ナチュラルヘルパー細胞)との共同作業によって起こるという新しいメカニズムを明らかにしました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)サイトカイン制御研究チームの久保允人チームリーダー(東京理科大学生命科学研究所 分子病態学研究部門教授兼任)らと、東京理科大学総合研究機構 戦略的環境次世代健康科学研究基盤センターの本村泰隆研究員らによる共同研究グループの成果です。

 私たちの体には、異物から体を守る免疫システムが備わっています。免疫システムは、ときに私たちの体に不都合な反応を起こします。その1つが「アレルギー」で、発生メカニズムによって5つに分類されています。I型アレルギーは、免疫グロブリンE(IgE)抗体[5]によって引き起こされ、IgE抗体は肥満細胞(マスト細胞)[6]や好塩基球が持つ受容体に結合することで、アレルゲン特異的にアレルギー反応を起こします。

 近年、マスト細胞やT細胞だけではなく、好塩基球や自然リンパ球による免疫反応系があり、これら細胞に注目が集まっています。ダニ抗原などに多く含まれるタンパク質分解酵素「システインプロテアーゼ[7]」は、アレルギーを強く誘導するアレルゲンとして働くことが知られています。このシステインプロテアーゼは、気道上皮から放出されるインターロイキン−33(IL−33)[3]を介して自然リンパ球の1つNH細胞を活性化して喘息を引き起こします。しかし、喘息の発症に関わる好塩基球の働きなど、詳細なメカニズムは分かっていませんでした。

 共同研究グループは、好塩基球を持たないマウスと、好塩基球由来のIL−4だけを欠くマウスを用い、好塩基球が存在しないことによって、システインプロテアーゼ(イエダニやパパイン[8])の点鼻投与によって誘導される喘息が抑制されることを明らかにしました。また、IL−4を産生できない好塩基球を持つマウスでも同様の抑制が認められたことから、アレルゲンで誘導される喘息は、好塩基球から産生されるIL−4を介したNH細胞との共同作業によって制御されていることが明らかになりました。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Immunity』オンライン版(5月15日付け:日本時間5月16日)に掲載されます。

<背景>
 私たちの体には、異物から体を守る免疫システムが備わっています。この免疫システムはときに、私たちの体に不都合な反応を起こします。その1つが、良く知られている「アレルギー」です。アレルギー反応は、発生メカニズムによって5つのタイプに分類されており、免疫グロブリンE(IgE)抗体によって引き起こされるものをI型アレルギーと呼び、気管支喘息や花粉症、アレルギー性鼻炎などがその代表例です。IgE抗体は肥満細胞(マスト細胞)や白血球の1つ「好塩基球」が持つ受容体に結合することで、アレルゲン特異的にアレルギー反応を起こします。好塩基球は白血球の中でも、塩基性色素により暗紫色に染まる大型の好塩基性顆粒を持つものを指しますが、白血球全体の0.5%以下しか存在しないため、長い間その機能や生物学的特性は謎のままでした。

 近年、アレルギーはIgE抗体を介したマスト細胞や免疫細胞の1つT細胞による反応系が存在しなくても起きることが知られるようになってきました。このような抗原特異的な反応とは無縁なアレルギーには、好塩基球や免疫システムの最前線で働く新しいタイプのリンパ球「自然リンパ球」が関与している可能性が示され、注目が集まっています。タンパク質分解酵素の「システインプロテアーゼ」はアレルギーを強く誘導するアレルゲンとして働くことが知られています。システインプロテアーゼは、ダニ抗原やパイナップルなどに含まれるタンパク質分解酵素であり、気道などに過剰に侵入した際、気道上皮を壊すことによって、アレルギーを誘導するインターロイキン−33(IL−33)を気道内に放出します(図1)。そして、放出されたIL−33が直接自然リンパ球の1つ「ナチュラルヘルパー細胞(NH細胞)」に働き、喘息を引き起こします。しかし、喘息の発症に関わる好塩基球の働きなど、詳細なメカニズムは分かっていませんでした。

<研究手法と成果>
 共同研究グループは、マウス生体内で起こるアレルギー反応における好塩基球の役割を解析するため、好塩基球を持たない細胞特異的欠損マウスBas−TRECK[9]と、好塩基球由来のインターロイキン−4(IL−4)だけを欠く遺伝子改変マウスを実験に用いました。通常、システインプロテアーゼ(パイナップル由来のパパイン)を点鼻投与すると、3日以内に肺に炎症の原因となる好酸球[10]が大量に集まり、ムチンという粘液の産生が誘導されて喘息症状が現われます。ところが、Bas−TRECKマウスにパパインを投与しても喘息症状が現われず、肺への好酸球の集積やムチンの産生も顕著に抑制されました。同様の喘息症状の抑制は、好塩基球由来のIL−4だけを欠くマウスにおいても認められました。これらから、好塩基球から産生されるIL−4の重要性が示されました。

 喘息における肺への好酸球の集積は肺に存在するNH細胞から産生されるケモカインCCL11[11]、ムチンの産生はNH細胞から産生されるIL−5やIL−13などによるものです(図1)。そこで、好酸球の集積やムチンの産生過程におけるIL−4の役割を調べました。その結果、好塩基球からIL−4が産生されないと、NH細胞からケモカインCCL11やIL−5、IL−13の産生が抑制されるとともに、炎症に関わるさまざまな遺伝子の発現が抑制されることが分かりました(図2)。

 また、Bas−TRECKマウスに野生型マウス由来の好塩基球を移入したところ、喘息症状の抑制が解かれて症状が現われました。一方、同マウスにIL−4を産生できない好塩基球を移入したところ、喘息症状は現れませんでした。

 これらの結果から、NH細胞の活性化には好塩基球から産生されるIL−4が必要であり、システインプロテアーゼ(パパインやダニアレルゲン)で誘導される喘息は、好塩基球から産生されるIL−4を介した好塩基球とNH細胞の共同作業が必要であることが明らかになりました。

<今後の期待>
 現代社会で、アレルギーは日常生活に支障をきたすほどの影響があり、生活環境を見直す必要が生じるなど、非常に大きな社会問題を引き起こしています。T細胞やIgE抗体を必要としないアレルギーや、システインプロテアーゼなどのタンパク質分解酵素がアレルゲンとして喘息を引き起こす能力を持つことなどアレルギーの実態が解明されつつあります。今回の成果により、システインプロテアーゼによって引き起こされる喘息の発症メカニズムに好塩基球やNH細胞など新しい免疫細胞の関与が明らかになりました。また、同時にアレルギー反応にもさまざまな側面があることが示されました。

 今後、これら細胞を標的とした新しい視点からのアレルギー治療法の開発や、さまざまなアレルギーの原因や症状に適合した治療法の構築が期待できます。

<原論文情報>
 ・Yasutaka Motomura,Hideaki Morita,Kazuyo Moro,Susumu Nakae,David Artis,Takaho A.Endo,Yoko Kuroki,Osamu Ohara,Shigeo Koyasu,and Masato Kubo“Basophil−Derived Interleukin−4 Controls the Function of Natural Helper Cells,a Member of ILC2s,in Lung Inflammation”.Immunity.2014.
 doi:10.1016/j.immuni.2014.04.013

<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 統合生命医科学研究センター サイトカイン制御研究チーム
 チームリーダー 久保 允人(くぼ まさと)
 (東京理科大学生命医科学研究所 分子病態学研究部門教授 兼任)


 ※補足説明などは添付の関連資料を参照






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