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理研、免疫応答の要となる分子の閾値決定機構を解明

2014-05-22

免疫応答の要となる分子の閾値(いきち)決定機構を解明
−細胞におけるアナログ情報のデジタル変換−


<ポイント>
 ・炎症や免疫応答の要分子NF−kappaBには細胞状態を決定するいき値が存在
 ・細胞内情報の増幅機構によりいき値が決定される
 ・増幅機構は一つひとつのアナログな細胞活性をデジタル(0か1)に変換する


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、炎症や免疫応答の要となる転写因子「NF−kappaB(NF−κB)[1]」の閾値(いき値)[2]を決定する分子機構を明らかにしました。細胞内情報の増幅機構がアナログな分子情報をデジタル(0か1)に変換し[3]、1細胞ごとのNF−κBのいき値を決定することが分かりました。これは、理研統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)統合細胞システム研究チームの篠原久明研究員らと岡田眞里子チームリーダー、理研佐甲細胞情報研究室(佐甲靖志主任研究員)の廣島通夫研究員、理研生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)、カリフォルニア大学らの共同研究グループの成果です。
 転写因子は細胞や組織の性質、病態を決定するという重要な役割を持ちます。炎症や免疫応答においては、NF−κBが細胞の状態をつかさどっています。NF−κBの活性が十分でない場合は免疫不全、逆に過剰に活性化されると自己免疫疾患やがんを引き起こすことが知られています。このことから、NF−κBには適切な活性の範囲と活性化の有無を決定するいき値があるのではないかと考えられていました。しかし、多くの研究者がこの課題に取り組んだにも関わらず、その分子機構は全く分かっていませんでした。

 共同研究グループは、免疫細胞の1つであるB細胞の情報伝達経路「CARMA1−TAK1−IKK[4]」に注目し、この経路について詳細な分子動態の計測を行い、数理モデリングにより解析しました。その結果、経路内に存在する細胞内情報を増幅する正のフィードバック[5]が、B細胞受容体のアナログの分子情報をデジタル(0か1)活性に変換し、1細胞ごとにNF−κBのいき値を決定していることが分かりました。NF−κBの活性化に関わるリン酸化酵素「IKK[4]」の異常と疾病との関連はすでに広く知られていますが、本研究ではアダプター分子「CARMA1[4]」の重要性も明らかになりました。CARMA1の遺伝子異常は、がんやアトピー性皮膚炎の発症にも関与することが臨床データからも明らかであり、本研究成果はこれらの疾病の発症機構を解く鍵になると期待できます。

 本研究は、文部科学省 革新的細胞解析研究プログラム(セルイノベーション)プロジェクトおよび内閣府/日本学術振興会 最先端研究開発支援プログラム 合原最先端数理モデルプロジェクトの成果で、米国の科学雑誌『Science』(5月15日号)に掲載されます。


<背景>
 転写因子は細胞や組織の性質、病態を決定するという重要な役割を持ちます。炎症や免疫応答においては、転写因子「NF−kappaB(NF−κB)」が細胞の状態をつかさどっています。NF−κBの活性が十分でない場合は免疫不全、逆に過剰に活性化されると自己免疫疾患やがんを引き起こすことが知られています。このことから、NF−κBには適切な活性の範囲と活性化の有無を決定する「閾値(いき値)」があるのではないかと考えられていました。しかし、多くの研究者がこの課題に取り組んだにも関わらず、その分子機構は全く分かっていませんでした。

 研究グループは2007年、リン酸化酵素のIKKに着目し、B細胞(免疫細胞)内の情報伝達経路「CARMA1−TAK1−IKK」がNF−κBの活性化を正にフィードバック制御していることを発見しました(図1)注)。そこで研究グループは、NF−κBの活性化のいき値決定における、このフィードバックの役割を実験解析および数理モデリングを用い詳しく調べることにしました。

 注)2007年12月17日プレスリリース
   免疫の要「NF−κB」の活性化シグナルを増幅する機構を発見
   http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2007/20071217_2/20071217_2.pdf


<研究手法と成果>
 実験では、TAK1遺伝子を欠損したマウス脾臓由来のB細胞を用い、B細胞受容体を刺激して分子の活性を調べました。その結果、TAK1[4]が欠損するとIKKの活性化がほとんど起きず、NF−κBによって誘導されるはずの遺伝子発現活性が低下することが明らかになりました。さらに詳細に調べるため、トリ由来のB細胞株を用いて、B細胞受容体刺激後のTAK1とIKKの活性を90秒間隔で計測したところ、IKKは刺激後6分で活性のピークに達するのに対し、TAK1の活性は1.5分後と6分後の2回、ピークが存在することが分かりました。

 次に、この一見矛盾するように見える分子動態の制御メカニズムを理解するために、数理モデリングの手法を用いてTAK1とIKKの活性化機構を解明することにしました。TAK1がリン酸化したCARMA1と複合体を形成しIKKを活性化するステップ、IKKが自己リン酸化するステップ、さらにCARMA1を介した正のフィードバックループなどを数理モデルに組み込むことによって、前述の実験結果を数理モデルで説明することに成功しました。この数理モデルを用いた詳細なコンピュータシミュレーションの結果、TAK1がCARMA1のリン酸化を介してIKK活性を増幅する正のフィードバック制御を行い(図1)、これがNF−κBのいき値を決定していることが示唆されました。

 そこで、この機構によるNF−κBのいき値活性制御を1細胞レベルで検証しました。B細胞受容体を刺激したところ、通常のB細胞株では、一定の刺激量以上でNF−κBの核内移行がデジタル(0か1)に制御されている、つまりいき値が存在することが認められました(図2)。しかし、CARMA1のリン酸化部位に変異を導入し、正のフィードバックループを切ると、NF−κBの核内移行は刺激の強さに段階的に反応するアナログな応答に変化することが明らかになりました。

 これらから、情報伝達経路であるCARMA1−TAK1−IKKの正のフィードバック機構が、B細胞受容体のアナログの情報をデジタル(0か1)活性に変換し、1細胞ごとにNF−κBのいき値を決定していることが分かりました。


<今後の期待>
 本研究により、NF−κBの活性化のいき値決定にはIKKだけでなくTAK1やCARMA1といった分子も重要であることが分かりました。最近のゲノムワイド関連解析の結果からも、CARMA1の遺伝子異常は、がんやアトピー性皮膚炎のような炎症に関与することが分かっており、本研究で得られた知見はこれらの疾病に対する新しい治療や薬剤の開発に役立つと期待できます。


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 統合生命医科学研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/ims/
 統合細胞システム研究チーム(http://www.riken.jp/research/labs/ims/integr_cell_sys/
 チームリーダー 岡田 眞里子(おかだ まりこ)


 ※補足説明、図1・2は添付の関連資料を参照


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