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東大とJSTなど、酸窒化物で強誘電体的な挙動を観察

2014-05-22

酸窒化物で初めて強誘電体的な挙動を観察


<ポイント>
 >酸化物、窒化物に続く電子機能材料として酸窒化物に注目。
 >SrTaO2N(*1)の薄膜結晶を合成し、酸窒化物では初めての強誘電体的な挙動を観察。
 >結晶内での酸素−窒素配列制御による新たな材料開発の指針を示す。

 *1の正式表記は添付の関連資料を参照

 JST課題達成型基礎研究の一環として、東京大学長谷川哲也教授らのグループは、金属酸窒化物の薄膜結晶の一部で、酸窒化物では初めての強誘電体(注1)的な挙動を観察しました。
 酸窒化物は、金属が酸素と窒素の両方と結合した物質で、酸化物、窒化物に続く新たな電子機能材料として期待されています。しかし、従来法で得られる紛体試料は正確な電気測定が難しく、高品質な結晶の合成が望まれていました。
 本研究では、レーザーとプラズマで原材料を気化・活性化して反応させる窒素プラズマ支援パルスレーザー堆積法(注2)を用いて、代表的な酸窒化物材料であるペロブスカイト型(注3)SrTaO2Nの薄膜結晶を合成することに成功しました。合成条件を最適化した結果、この薄膜結晶は酸化物や窒化物などの不純物を含まず、さらに薄膜中に強誘電体的な応答を示す微小領域が存在することを明らかにしました。このような強誘電体的挙動が観察されたのは酸窒化物では初めての発見です。
 SrTaO2N薄膜は青色から緑色の可視光を吸収できるため、強誘電体を用いた光センサーや太陽電池に利用することで、変換効率の向上につながる可能性があります。また、第一原理計算(注4)の結果、今回観察された強誘電性は、結晶内での酸素と窒素の並び方に関係があることが示唆されています。今後、酸窒化物を用いた新たな電子材料を開発する上で重要な指針になると考えられます。
 本研究は、公益財団法人神奈川科学技術アカデミーの「透明機能材料」グループと共同で行われたものです。また、試料評価の一部は文部科学省の支援を受けた東京大学先端ナノ計測ハブ拠点、東京大学大学院工学系研究科、筑波大学研究基盤総合センターで行いました。
 本研究成果は、平成26年5月16日(英国時間)発行のオンライン英国科学専門誌「Scientific Reports」に掲載されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)
  研究領域:「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」
        (研究総括:玉尾皓平理化学研究所グローバル研究クラスタ長)
  研究課題名:「軽元素を活用した機能性電子材料の創出」
  研究代表者:長谷川哲也東京大学大学院理学系研究科教授)
  研究期間:平成23年10月〜平成29年3月
 上記研究課題では、軽元素を利用した酸化物の新奇な電子機能開拓に取り組んでいます。


<研究の背景と経緯>
 金属と酸素(O)、窒素(N)からなる酸窒化物は有毒金属を含まないため、顔料や光触媒材料として10年ほど前から盛んに研究されています。一方、最近では高い電子移動度や巨大磁気抵抗(磁場をかけると電気抵抗が大幅に増加する現象)などの興味深い電気特性が報告され、酸化物や窒化物に続く電子機能材料としても期待が高まっています。本研究で対象としたペロブスカイト型酸窒化物SrTaO2N(Sr:ストロンチウム、Ta:タンタル)は大きな比誘電率(注5)が報告されており、セラミックコンデンサーなどへの応用が期待される誘電体材料です。
 ペロブスカイト型酸窒化物中の酸素と窒素にはcis型とtrans型と呼ばれる2通りの並び方(配列)があり(図1)、電気特性と密接な関係があると考えられています。しかし、現在までに両者の関係を明確に示した実験例はありません。これは、従来の研究のほとんどが、紛体試料を対象としていたために正確な電気特性の評価が難しかったことや、熱力学的に安定なcis型以外の配列を合成できなかったことによります。


<研究の内容>
 今回、研究グループは窒素プラズマ支援パルスレーザー堆積法を用いたエピタキシャル成長(注6)によって、SrTaO2Nの薄膜結晶の合成を試みました(図2)。結晶成長用の基板としてSrTaO2Nよりも格子定数の小さなニオブ添加チタン酸ストロンチウム(Nb:SrTiO3(*2))単結晶を使い、紫外レーザーを照射して気化させたタンタルストロンチウム(Sr2Ta2O7(*3))とプラズマにより活性化した窒素を基板上で反応させました。結晶成長の温度や速度などのパラメータを最適化した結果、酸化物や窒化物などの不純物を含まない、配向のそろったペロブスカイト型のSrTaO2Nの薄膜結晶を合成することに成功しました(図3)。
 合成したSrTaO2Nを圧電応答顕微鏡(注7)で観察したところ、数十から数百ナノメートル(ナノは10億分の1)程度の微小な領域が強い圧電応答を示しました。さらに、この小さな領域に直流電圧を加えると、その正負に応じて応答の符号が変化する強誘電体的な挙動を示すことが分かりました(図4)。このような強誘電体的挙動は、SrTaO2Nの粉体試料で観察例がないだけでなく、酸窒化物として初めての発見です。
 第一原理計算によると、図4で観察された強誘電性は薄膜結晶中にわずかに含まれるtrans型の酸素−窒素配列に起因することが示唆されています。これまでに合成された紛体試料は熱力学的に安定なcis型の酸素−窒素配列でしたが、本研究では薄膜を格子定数の小さな基板上に合成したため、薄膜の面内方向に圧力を受けて格子が歪んでいます。この変形によってcis型の配列が不安定化し、準安定な強誘電性のtrans型の配列とのエネルギー差が縮まります(図5)。その結果、結晶成長時の熱エネルギーの助けを借りることでtrans型の配列が結晶の一部で実現されたと推測しています。今回合成した薄膜結晶では基板との格子定数の差が大きいため、結晶中に欠陥が導入されて格子の歪みが一部緩和しています。この格子歪みの空間的なむらが図4で観察された強誘電性(=trans型の酸素−窒素配列)の空間的な分布と関係している可能性があります。
 また、成膜直後は圧電応答を示さないcis型の配列を持つと予想される領域でも直流電圧を加えることで強誘電体的な圧電応答が観察されています。この性質の起源についてはまだ明らかではありませんが、酸素−窒素の長距離的な配列との関係を検討しています。

 *2、3の正式表記は添付の関連資料を参照


<今後の展開>
 今回の結果は、酸窒化物の高品質な薄膜結晶が新たな電子機能材料として有望なことを示しています。さらに、基板からの圧力を利用して酸窒化物薄膜中の酸素−窒素配列を制御できる可能性も明らかになりました。酸素−窒素配列の人工的な制御によって強誘電性や磁気異方性などの電子機能を実現できれば、新たな材料の開発につながると期待します。
現在のところ、SrTaO2N薄膜結晶で観察された圧電応答の大きさは代表的な強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3(*4))などと比較して小さく、圧電素子などに応用するには不十分です。一方、SrTaO2Nをはじめとするペロブスカイト酸窒化物には、一般的な酸化物強誘電体では実現が難しい、青色や緑色の可視光を吸収できるという特徴があります。近年、酸化物強誘電体を用いた光センサーや太陽電池の開発が進められていますが、変換効率は極めて低いのが現状です。可視光を吸収可能な酸窒化物強誘電体は、このようなデバイスの変換効率の向上に役立つと期待されます。

 *4の正式表記は添付の関連資料を参照


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1〜5
  ・用語解説
  ・論文タイトル



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