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明大と慶大、遺伝性疾患などの原因となるFBN1遺伝子変異を有するブタの作出に成功

2014-05-21

遺伝性疾患・マルファン症候群の原因となる
FBN1遺伝子変異を有するブタの作出に成功


【研究成果のポイント】
 >人工酵素・ジンクフィンガーヌクレアーゼ(注1)と体細胞核移植法(注2)を組み合わせた効率的な方法で、フィブリリン1(FBN1)遺伝子を破壊したブタを作ることに成功。
 >解剖学的、生理学的にヒトと類似しているブタを用いてヒトのマルファン症候群に類似した病態モデルができた事で、新たな治療法開発、特に外科的手技を伴う治療法開発に大きく寄与することが期待される。

 明治大学の梅山一大特任准教授と長嶋比呂志教授、慶應義塾大学医学部の松本守雄准教授の研究グループは、人工酵素と体細胞核移植を組み合わせた方法により、マルファン症候群の原因となるFBN1遺伝子変異を有するブタを作ることに成功しました。
 本研究成果は、2014年5月15日から札幌市で開催される、第61回日本実験動物学会総会で発表されます。


<研究の背景と経緯>
 マルファン症候群は約5,000人〜10,000人に1人の確率で発症する常染色体優性遺伝の疾患で、日本には約2万人の患者がいると言われています。身体の結合組織に影響を与え、多岐にわたる臓器で病変が現れます。特に心臓血管系では、大動脈の基部にあるバルサルバ洞で主に起こる進行性の大動脈拡張は、大動脈解離や大動脈破裂に至るマルファン症候群患者の主要死亡原因となっています。さらに骨格系では、長身、痩身、長い手足、クモ状指症、胸郭変形(鳩胸、漏斗胸)、脊柱側弯、高口蓋、慢性の関節弛緩等の症状が確認されています。その他に、水晶体脱臼や近視などの視覚系の病変、皮膚の伸展線条、再発性のヘルニア、気胸等の病変が現れます。
 この病気を起こす原因として、結合組織の構成要素の1つであるfibrillin−1タンパク質をコードするFBN1遺伝子の変異が報告されています。fibrillin−1は2871アミノ酸から構成される分子量350kDaの糖タンパク質であり、細胞外微小繊維の主要な構成成分です。この糖タンパク質は皮膚、肺、腎、血管、軟骨、腱、筋肉、角膜、毛様体小帯などの多くの組織において細胞外基質の1つとして分布しています。
 これまでにもFBN1遺伝子を破壊した遺伝子改変マウスが作出され、マルファン症候群の病因解明や治療法の開発に役立ってきました。しかし、心臓・血管組織や骨格に現れたマルファン症候群の病変に対する外科的手技を伴う治療法の開発では、マウスのようなげっ歯類などの小動物はモデル動物として不十分でした。ヒトのマルファン症候群の心臓・血管病変や骨格病変と類似した表現型をもつ大動物モデルが作出できれば、その大型モデル動物はマルファン症候群に対する新たな治療法開発に大きく寄与することができると考えられてきました。
 ブタは解剖学的、生理学的、血液学的にヒトへの類似性が高いことから、ヒトに近い知見を得られる実験動物として用いられています。これまでにも糖尿病や重症複合型免疫不全症など、ヒトの病気を再現する病態モデルブタが遺伝子組換え技術と発生工学技術により作出されてきました。そこで今回、人工酵素・ジンクフィンガーヌクレアーゼと体細胞核移植法を用いてブタFBN1遺伝子をノックアウト(注3)したクローンブタを作出し、マルファン症候群の病態と同じ症状が現れるのかを調べました。


<研究の内容>
 FBN1遺伝子を切断するジンクフィンガーヌクレアーゼをコードするmRNAを合成し、これを体細胞であるブタ皮膚由来の線維芽細胞へ導入しました。線維芽細胞に入ったmRNAはFBN1遺伝子に対するジンクフィンガーヌクレアーゼに翻訳され、FBN1遺伝子を切断します。
 FBN1遺伝子がノックアウトされた細胞からクローニングによりクローン細胞株を樹立し、さらにそこから個体作出に適したFBN1ヘテロノックアウト核ドナー細胞株を選択します。最後に体細胞核移植法を実施し、FBN1ヘテロノックアウトクローンブタが8頭誕生しました(右図)。

<本研究の概要図>

 ※添付の関連資料を参照

 作出したFBN1ヘテロノックアウトクローンブタの表現型(形質)として、骨格系については口蓋形成異常、漏斗胸、骨の石灰化の遅延を示す個体が確認されました。心臓血管系については、近位胸部大動脈血管壁において、中膜組織の弾性板が断裂した不連続な構造をしている個体が確認されました。これらは、ヒトのマルファン症候群で確認される病態です。一方で、特段の病理学的・生理学的異常を示すことなく性成熟期以後にまで成長する個体も確認されました。

 作出したFBN1ヘテロノックアウトクローンブタはクローン集団であるので、同一の遺伝子変異を持っています。しかし、これらのブタの病態は均一でなく、様々な部位で様々な重症度の病態を示しました。この現象は、同一の遺伝子変異を有している家族性のマルファン症候群で確認される病態の個体間差と一致しています。おそらく、エピジェネティク因子(注4)の影響により正常fibrillin−1タンパク質の発現量に違いが出てきていると考えられます。
 以上の結果から、本研究グループが作出したFBN1ヘテロノックアウトクローンブタはヒトのマルファン症候群の病態に類似した表現型を引き起こす事が明らかとなりました。


<今後の展開>
 本研究で作出されたFBN1ヘテロノックアウトクローンブタはヒトのマルファン症候群の病態に類似した表現型を引き起こした事から、マルファン症候群の病因解明や治療法の開発、特に心臓・血管組織や骨格に現れる側弯症などの病変に対する外科的手技を伴う治療法の開発に大きく貢献すると考えられます。
 今後は解析頭数を増やし、どのような病態を現す個体が誕生するのかを調べ、さらに、病態の発現部位、病態の重症度をコントロールする因子の解析を進めていく予定です。病態をコントロールする因子の研究はマルファン症候群の治療法開発、病態発症を抑制する方法の開発にも貢献すると期待されます。


 ※用語解説は添付の関連資料を参照



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慶應義塾大学 遺伝子組換え クローン 明治大学 ヘルニア

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