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九大、神経障害性疼痛の仕組みを解明

2014-05-19

神経障害性疼痛の仕組みを解明
ミクログリアを「痛みモード」にかえる実行役を特定〜


<概要>

 九州大学大学院薬学研究院薬理学分野の井上和秀主幹教授と津田誠准教授を中心とする研究グループは、神経のダメージで発症する慢性的な痛み(神経障害性疼痛)の原因タンパク質として「IRF5(*1)」を突き止めました。IRF5は、神経の損傷後に脳・脊髄の免疫細胞と呼ばれる「ミクログリア(*2)」の中だけで増え、IRF5を作り出せない遺伝子操作マウスでは痛みが弱くなっていました。さらに、研究グループは、2003年にP2X4受容体(*3)というタンパク質ミクログリアでの増加が神経障害性疼痛に重要であることを英国科学誌Natureで発表していますが、実は今回見つかったIRF5がP2X4受容体を増やす実行役であることも明らかにしました。この研究成果は、慢性疼痛メカニズムの解明へ向けた大きな前進となり、痛みを緩和する治療薬の開発に応用できることが期待されます。
 本研究は、最先端・次世代研究開発支援プログラム、および独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の成果で、英国科学誌『Nature Communications』オンライン版に2014年5月13日付け(英国時間)で発表されます。

■背景

 がん、糖尿病、帯状疱疹あるいは脳卒中などで神経に障害が起きると、抗炎症薬やモルヒネなどの鎮痛薬が効きにくい「神経障害性疼痛」という慢性痛が発症し、服が肌に触れただけでも非常に痛みを感じることがあります。しかし、これまでそのメカニズムは明らかになっておらず、効果的な治療法もありません。研究グループでは、脳や脊髄の免疫細胞と呼ばれる「ミクログリア」が、神経損傷後の脊髄で活性化した状態になり、それが慢性的な痛みを引き起こしていることを明らかにしてきました(Nature 2003;Nature 2005;PNAS 2009;EMBO J 2011;Cell Rep 2012)。ミクログリアは、細胞の働きを調節するタンパク質が増えることで活性化状態となりますが、その中でも、私たちが2003年にNature誌に発表したP2X4受容体は神経障害性疼痛の発症に非常に重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、どのようなメカニズムでP2X4受容体がミクログリアの中だけで増えるのかは長らく不明でした。

■内容

 今回研究グループは、神経を損傷させたマウスの脊髄で、様々な遺伝子の発現をコントロールするタンパク質「IRF5」がミクログリアの中だけで増えることを発見しました。この増加は、2012年に米国科学誌Cell Reportsで報告したIRF8によって調節されていることもわかりました。また、IRF5を作り出せないように遺伝子を操作したマウス(IRF5遺伝子欠損マウス)では、神経損傷後の痛みが弱くなっていました。さらに、IRF5がP2X4受容体の調節に必要な遺伝子領域に作用し、P2X4受容体を増やすように働いていることを明らかにしました。
 したがって、神経損傷後、IRF8によってミクログリアで増えるIRF5がP2X4受容体を増やすという一連の流れが、神経障害性疼痛を引き起こす原因であることを明らかにしました。(右図)。

 ※図は添付の関連資料を参照

■効果

 今回研究グループが特定したIRF5は、神経障害性疼痛に重要なP2X4受容体を増やし、ミクログリアを「痛みモード」にかえる実行役のような働きをしています。したがって、IRF5の働きを抑える薬が開発されれば、ミクログリアを正常化し、神経障害性疼痛を緩和できる可能性があります。

■今後の展開

 現在、九州大学大学院薬学研究院では、既承認医薬品から新しい作用を見つけ、より早く臨床で使用できるようにするための研究「エコファーマ(*4)」を同研究院附属産学官連携創薬育薬センター(センター長:井上和秀)において推進しており、現在建設中の「グリーンファルマ研究所(仮称)」(平成26年度末竣工予定)において、さらに推進していく予定です。今回の研究で、神経の損傷後にミクログリア細胞でIRF5が増えることが慢性疼痛の原因であることを明らかにしましたので、今後、IRF5が増えるのを抑制する、あるいはIRF5がP2X4受容体遺伝子に作用するのを抑制する薬などを既承認医薬品から探索する計画を検討しています。

■論文

 Takahiro Masuda,Shosuke Iwamoto,Ryohei Yoshinaga,Hidetoshi Tozaki−Saitoh,Akira Nishiyama,Tak W.Mak,Tomohiko Tamura,Makoto Tsuda(*),Kazuhide Inoue(*)(* Corresponding Authors)
Transcription factor IRF5 drives P2X4R+ reactive microglia gating neuropathic pain
 Nature Communications doi:10.1038/ncomms4771

【共同研究グループ】

 九州大学大学院薬学研究院薬理学分野:井上和秀(主幹教授)、津田誠(准教授)、増田隆博(特任助教)、岩本祥佑(大学院生)、吉永遼平(大学院生)、齊藤秀俊(助教)
 横浜市立大学医学部免疫学:田村智彦(教授)、西山晃(准教授)
 トロント大学:Tak W.Mak(教授)

 ※用語解説と本研究については添付の関連資料「参考資料」を参照



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