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東大と九大、常温常圧の温和な条件でアンモニアが合成できる触媒の機能を解明

2014-05-09

常温常圧の温和な条件でアンモニアが合成できる触媒の機能を解明


1.発表者:
 荒芝 和也(東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 特任研究員)
 栗山 翔吾(東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 大学院生)
 中島 一成(東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 助教)
 西林 仁昭(東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 准教授)
 田中 宏昌(九州大学先導物質化学研究所 学術研究員)
 笹田 瑛(九州大学先導物質化学研究所 大学院生)
 吉澤 一成(九州大学先導物質化学研究所 教授)

2.発表のポイント:
 ◆常温常圧の温和な条件下で窒素ガスからアンモニア(注1)を合成する方法に特徴的な反応機構を解明し、その反応の鍵を握る中間物質の単離に成功した。
 ◆この中間物質で電子の受け渡しがなされているという従来の概念では考えられなかった特徴的な反応機構が温和な条件下でアンモニア合成を可能にしていた。
 ◆本成果は現在の工業的なアンモニア合成法に代わり得る方法を開発する上で重要な指針となり、環境に優しいアンモニア合成法の開発とその大幅なコストダウンの達成が期待できる。

3.発表概要:
 窒素は、核酸、アミノ酸タンパク質などに含まれる生命活の動維持に必須な元素であり、医薬品、化学繊維及び肥料などにも含まれる重要な元素の一つである。窒素の大部分は、鉄系触媒の存在下で窒素ガスと水素ガスからアンモニアを工業的に合成(ハーバー・ボッシュ法、(注2))することに利用されている。しかし、この方法は高温高圧(400−600℃、200−400気圧)の条件下で行われるため、より温度も圧力も低い温和な条件下で窒素ガスからアンモニアを合成できる方法が望まれていた。
 2010年に東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の西林仁昭准教授らの研究グループは、2窒素架橋2核モリブデン錯体(注3)を触媒に用い、常温常圧の極めて温和な条件下で、アンモニアを合成する方法を開発していた(図1)。しかし、この新しい方法の反応機構は未解明であった。
 今回、西林准教授らの研究グループと九州大学先導物質化学研究所の吉澤一成教授らの研究グループは共同で、2010年に開発したアンモニアの合成方法の鍵を握る中間物質(単核モリブデンニトリド錯体、(注4))の開発と単離に成功し(図1)、その反応機構を解明した(図2)。このアンモニア合成方法では、窒素分子で連結された2個のモリブデン間で電子の受け渡しが起きていた。
 今回の成果は、現在のアンモニア合成法であるハーバー・ボッシュ法に代わり得る次世代型の窒素固定法の開発を前進させる重要な研究成果であり、本研究成果を基にして将来的には環境に優しい新しいアンモニア合成法の開発とその大幅なコストダウンの達成が期待できる。
 なお、本研究成果は、2014年4月28日の「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)(英国科学雑誌)」のオンライン速報版で公開されました。

4.発表内容:
 窒素は、核酸、アミノ酸タンパク質などに含まれる生命活動維持に必須な元素であるとともに、医薬品、化学繊維及び肥料などに含まれる近代文明生活を営むために必要不可欠な元素の一つである。窒素は、窒素ガスとして大気中の約80%を占め地球上には非常に豊富に存在しているが、人間を含めた動物や植物はこの窒素ガスを直接取り込むことはできない。人間は植物から直接的に、または、動物から間接的に植物の作り上げた含窒素有機化合物を食料として摂取し、体内で必要な化合物へと変換している。現代社会において、この必要不可欠な窒素の大部分は、鉄系触媒の存在下で窒素ガスと水素ガスとから合成されるアンモニアにより供給されている(ハーバー・ボッシュ法)。この方法によって供給されるアンモニアを窒素肥料の原料とすることで、現在の人類の人口に必要な食料生産を実現してきた。
 しかし、20世紀最大の発明の一つともいえる工業的な窒素固定法であるハーバー・ボッシュ法は、高温高圧(400−600℃、200−400気圧)の非常に過酷な反応条件が必要なエネルギー多消費型のプロセスであり、特に、工業的なアンモニア合成に必要な水素ガスの製造も含めると、全人類の消費エネルギー数%以上がこのアンモニア合成に使用されている。そのため、より温和な反応条件下で、化学的に不活性な窒素分子をアンモニアや含窒素有機化合物へと変換する反応の開発は、持続的社会の実現のために化学者が達成すべき最重要テーマの一つであると言っても過言ではない。
 東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の西林仁昭准教授らの研究グループと九州大学先導物質化学研究所の吉澤一成教授らの研究グループは、常温常圧の極めて温和な反応条件下で、窒素架橋2核モリブデン−窒素錯体を用いて窒素ガスからにアンモニアを合成する反応系(2010年に西林准教授らの研究グループが開発)について、この反応系の鍵を握る中間体「単核モリブデンニトリド錯体(モリブデンと窒素間に三重結合を有する錯体)」の開発と単離に成功した。同時に、この反応中間体の反応性について実験および理論計算の両面から検討することで、アンモニア合成反応の反応機構の解明にも成功した。これまでの研究では、窒素架橋2核モリブデン−窒素錯体が反応系中で単核モリブデン窒素錯体に分離し、この単核モリブデン窒素錯体に配位している窒素分子がアンモニアへと変換されると考えられていた。本研究により、窒素架橋2核モリブデン−窒素錯体は単核錯体へすぐに分離せず、窒素分子の変換過程で2核もしくは単核へと構造が切り替わっていることが明らかとなった。また、特異な反応性の発現は、窒素分子を介してつながる2つのモリブデン中心が必要に応じて電子を授受するという、この錯体がもつ協奏機能によるものであることを解明した。
 本法は現法のハーバー・ボッシュ法に代わり得る、潜在能力の極めて高い次世代型の窒素固定法開発を推し進めるための重要な知見であり、省エネルギープロセス開発に向けて大いに期待できる研究成果である。また、本研究成果は、二酸化炭素排出量の大幅削減の実現を達成する可能性があるとともに、環境的にもクリーンな「アンモニア社会」(注5)の実現を推し進める上で重要な研究成果である。


 ※添付資料などは添付の関連資料を参照



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