東北大、東日本大震災発災の直後に観察された脳形態変化の追跡調査結果を発表

東日本大震災１年後の脳体積の増加は自尊心と相関
〜脳形態変化の追跡調査から〜


　東北大学加齢医学研究所兼務（東北メディカル・メガバンク機構）の関口敦講師、川島隆太教授を中心とする研究グループは、東日本大震災発災の直後に観察された脳形態変化について、１年後の追跡調査を行いました。
　研究グループはこれまで、震災当時に仙台周辺に在住していた大学生の脳形態を調べ、震災直後の調査では、PTSD症状が強いほど眼窩前頭皮質の脳体積が減少することが明らかにしてきました。今回の研究では、同じ大学生たちに１年後の追跡調査を実施し、震災前／直後〜震災１年後にかけて、（１）平均して眼窩前頭皮質の灰白質量が増加し、自尊心の強い人ほど左眼窩前頭皮質の体積増加が大きいこと、（２）平均して右海馬の灰白質量が減少していることを明らかにしました。本成果はPTSD症状の回復過程の解明につながり、PTSDの予防、治療の一助になると期待されます。本研究結果は、４月２９日付でMolecular　Psychiatry誌電子版に掲載されます。


【背景】
　東北大学加齢医学研究所脳機能開発研究分野では、東日本大震災前後の脳形態変化および震災３〜４か月後のPTSD症状の調査を実施し、震災前から前帯状皮質の脳体積が減少している被災者にPTSD症状を生じやすく、PTSD症状出現に伴い眼窩前頭皮質の脳体積が減少することが明らかにしていました。PTSD症状は時間経過とともに回復することが期待され、PTSD症状の回復過程および回復の予測因子を特定するために、震災１年後の時点での脳形態変化、PTSD症状の追跡調査を実施しました。


【方法】
　震災前に加齢医学研究所のMRI実験に参加し、震災前の脳画像データが存在する仙台市内在住の学生で、震災後３〜４か月の調査の再募集に応じた４２名に対して再々募集を行い、３７名が追跡調査に参加しました。脳形態画像の再々計測を行い、震災前、震災３〜４ヶ月後、震災１年後の脳形態画像を評価しました。更に、震災３〜４ヶ月後、１年後のPTSD症状、不安症状、うつ症状の精神症状と共に、回復過程の予測因子の候補として自尊心、外傷後成長の心理指標を評価しました。


【結果】
　追跡調査に参加した３７名の学生で、PTSDを発症した方はいませんでした。脳形態画像解析の結果、震災前／直後〜震災１年後にかけて、眼窩前頭皮質の灰白質量が増加し、右海馬の灰白質量が減少していることを明らかにしました（図１ab）。更に、自尊心の強い人ほど左眼窩前頭皮質の体積増加が大きいことも明らかにしました（図１c）。


【考察】
　前回の調査では、PTSD症状出現に伴い眼窩前頭皮質の脳体積が減少することを示したが、今回の結果から、眼窩前頭皮質の脳体積は増加し、更に自尊心が強い個人ほど増加量が大きいことが明らかになりました。眼窩前頭皮質は条件づけ恐怖記憶の消去に関与していることから、恐怖記憶の消去が回復過程の背景に存在していたことが示唆されました。また、自尊心はPTSDの予防因子であるとされており、脳形態変化の回復を予測する因子として特定されたとこからも、過去の研究を指示する結果でした。
　一方で、今回の結果で、右海馬の体積減少が認められました。海馬体積は１０代後半にピークがあり、その後緩やかに減少し、老年期に急速に萎縮が進むことが知られています。今回の結果は、震災ストレスが青年層における海馬体積の加齢性の変化を促進してしまった可能性を示唆しています。
　本研究において、震災後の中長期に渡る脳形態変化を解明しました。これら成果は、大規模災害後の様々なストレスへの生理反応の理解を深め、PTSDの予防・治療に資する基礎研究として意義深いものであると考えています。

　※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
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