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名大、シアノバクテリアの窒素固定に必須の制御タンパク質を発見

2014-04-26

シアノバクテリアの窒素固定に必須の制御タンパク質を世界で初めて発見
−植物への窒素固定能移入への応用に期待−


 名古屋大学大学院生命農学研究科生物機構・機能科学専攻の研究グループ(藤田祐一准教授、辻本良真博士研究員等)は、窒素固定能をもつシアノバクテリアから、窒素固定に必須の制御タンパク質の遺伝子を発見しました。
 窒素固定は、空気中の窒素を植物などの生物が利用できる分子に変換する反応で、地球上の生物の生産性を決定づける重要な過程です。窒素固定を担うニトロゲナーゼという酵素は、空気中の酸素(O2)によって速やかに壊されるという弱点をもっています。このような酵素を使う窒素固定が、O2を発生する光合成を行う微生物シアノバクテリアにおいてどのように制御されているのか謎のままでした。
 今回、研究グループが発見しCnfRと名付けた制御タンパク質は、細胞が窒素不足のときに発現し、細胞内のO2のレベルが充分低いことを感知して初めて、窒素固定遺伝子群の発現を誘導して、ニトロゲナーゼによる窒素固定を開始させる役割をもつことがわかりました。
 今回発見した遺伝子cnfRを含め窒素固定遺伝子群を植物へ移植すれば、窒素肥料がなくても十分な収穫量が得られる窒素固定性作物を作り出すことが可能かもしれません。これにより大量の化石燃料を消費して作られる化学肥料を減らし、二酸化炭素排出の減少に寄与することが期待されます。
 本研究は、科学技術振興機構先端的低炭素化技術開発(ALCA)の支援を受け実施し、2014年4月21日(米国時間)の週に米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で公開されます。


【概要】
 名古屋大学大学院生命農学研究科生物機構・機能科学専攻の研究グループ(藤田祐一准教授、辻本良真博士研究員等)は、窒素固定能をもつシアノバクテリアから、窒素固定に必須の制御タンパク質の遺伝子を発見しました。
 窒素固定は、空気中の窒素を植物などの生物が利用できる分子に変換する反応で、地球上の生物の生産性を決定づける重要な過程です。窒素固定を担うニトロゲナーゼという酵素は、空気中の酸素(O2)によって速やかに壊されるという弱点をもっています。このような酵素を使う窒素固定が、O2を発生する光合成を行う微生物シアノバクテリアにおいてどのように制御されているのか謎のままでした。
 今回、研究グループが発見しCnfRと名付けた制御タンパク質は、細胞が窒素不足のときに発現し、細胞内のO2のレベルが充分低いことを感知して初めて、窒素固定遺伝子群の発現を誘導して、ニトロゲナーゼによる窒素固定を開始させる役割をもつことがわかりました。
 今回発見した遺伝子cnfRを含め窒素固定遺伝子群を植物へ移植すれば、窒素肥料がなくても十分な収穫量が得られる窒素固定性作物を作り出すことが可能かもしれません。これにより大量の化石燃料を消費して作られる化学肥料を減らし、二酸化炭素排出の減少に寄与することが期待されます。


【ポイント】
 ○窒素固定を担うニトロゲナーゼという酵素は、O2によって速やかに破壊されてしまう。また、ニトロゲナーゼは、大量のエネルギーを消費するため、細胞の窒素が不足しているときだけニトロゲナーゼを作るように厳密に制御されている。
 ○ヘテロシスト(窒素固定を専門に行う)細胞を作らないシアノバクテリアが、窒素固定をどのように制御しているのか不明であった。
 ○窒素固定性シアノバクテリアLeptolyngbya boryana(レプトリンビアボリアナ)から、窒素固定に必須の制御タンパク質の遺伝子cnfRを発見した。
 ○CnfRは、細胞が窒素不足のときに発現し、細胞内のO2レベルが充分低いことを感知して初めて、窒素固定遺伝子群の発現を誘導して、ニトロゲナーゼによる窒素固定を開始させる役割をもつことがわかった。
 ○cnfRを含めた窒素固定遺伝子群を植物に移入することで、窒素固定能をもつ植物を作り出すことが可能かもしれない。


【背景】
 生物は、炭素、酸素、水素、窒素という主に4つの元素から構成されていますが、これらの主要4元素の中で窒素が最も不足することが多い元素です。このため、生物が利用できる窒素の供給が、地球上の生物量を決定づけていると言って過言ではありません。地球上に存在する窒素の多くは、空気の80%近くを占める窒素分子(N2(*))として存在しますが、ほとんどの生物はこの窒素を利用することができません。特別な微生物(原核生物の一部)だけがN2を植物などが利用できるアンモニア(NH3(*))に変換できる"窒素固定"という能力をもっています。もし、この限られた微生物だけがもつ窒素固定能を植物に移植することができれば、窒素肥料なしでも十分な収穫量が得られるような窒素固定作物を作出することができるかもしれません。しかし、ニトロゲナーゼは、O2に触れると秒単位で不活性化するという脆弱な性質の酵素です。このような酵素が、光合成でO2を作り出す植物の中でうまく作動できるとは思えません。そこで、研究グループは、シアノバクテリアに着目しました。植物と同じ光合成を行う微生物シアノバクテリアには窒素固定能をもつ種類が数多く存在しているのです。シアノバクテリアが窒素固定と光合成を一つの細胞で和合させることができるメカニズムがわかれば、窒素固定能の植物への移植につながるかもしれません。これまで、窒素固定能をもつシアノバクテリアの研究は、ヘテロシストという窒素固定を専門に行う特別な細胞を分化するメカニズムを中心になされてきましたが、ニトロゲナーゼを、窒素不足かつ低いO2レベルのときだけ作り出すメカニズムは謎のままでした。

 *「N2」、「NH3」の正式表記は添付の関連資料を参照


【研究の内容】
 本研究では、窒素固定能をもつシアノバクテリアLeptolyngbya boryana(図1)のゲノムの一領域に、窒素固定に関わる多数の遺伝子群が集積する部分を見つけました(図2)。この領域には50個の遺伝子がコードされており、これらの遺伝子が窒素固定に関わるかどうかを、各遺伝子の欠損した変異体11株を単離し、その窒素固定的生育とニトロゲナーゼ活性によって評価しました(図3)。その結果、5株が窒素固定的に生育できない形質を示しました。このうち1株は、これまでに機能がよくわかっていない転写制御タンパク質が欠損している変異体でした。この変異体(NK4)を詳しく調べると、窒素固定を行うべき条件(窒素不足(硝酸イオンなし)・嫌気条件)におかれると、本来なら窒素固定に関わる遺伝子群の発現が認められるのに、その発現がまったく見られなくなっていました(図4A)。また、この遺伝子は、窒素が不足しているときにのみ発現するという制御を受けていることがわかりました(図4A)。さらに、この遺伝子が恒常的に発現するように設計したプラスミドを、NK4に導入した株NK4CSでは、本来なら決してニトロゲナーゼが発現しない窒素が充分な条件(硝酸イオンを含む条件)においても、ニトロゲナーゼ活性が検出されるという結果が得られました(図4C,D)。このことは、この遺伝子が、窒素固定に必須の主要制御タンパク質をコードしていることを示しています。CnfRと名付けたこのタンパク質は、細胞が窒素不足のときに発現し、細胞内のO2のレベルが充分低いことを感知して初めて、窒素固定遺伝子群の発現を誘導して、ニトロゲナーゼによる窒素固定を開始する役割を担うまさに窒素固定の主要制御タンパク質であることがわかりました(図5)。


【成果の意義】
 窒素固定性のシアノバクテリアは、細胞の窒素が不足したこととO2レベルが低いという2つの要因を何らかの方法で感知して窒素固定を行っていますが、今回の発見により、これら2つの要因が、CnfRという制御タンパク質によって感知されて巧妙にコントロールされていることが明らかになりました。また、これまでの研究で、ヘテロシストを作らない窒素固定性のシアノバクテリアは、昼に光合成、夜間に窒素固定を行い、光合成と窒素固定を時間的に分けることで、二つのプロセスを和合させており、この時間的な隔離は、概日リズムによって制御されているのではないかと考えられてきました。CnfRは、このような時間的隔離のための概日リズムを生み出す要因となっているのかもしれません。さらに、cnfRを含め窒素固定遺伝子群を植物へ移植すれば、CnfRの制御のもとで適切な条件のときにだけ窒素固定を行い、窒素肥料がなくても十分な収穫量を得ることができる窒素固定性作物を作り出すことが可能かもしれません。現在、化学肥料の原料となるアンモニアは工業的窒素固定によって作られていますが、この過程で大量の化石エネルギーを消費し、排出される二酸化炭素の量は膨大です。窒素固定性作物を作り出せば、この過程で生じる二酸化炭素排出を大きく減らすことが期待されます。
 本研究は、科学技術振興機構先端的低炭素化技術開発(ALCA)「有用光合成生物への窒素固定能移入が導く"窒素革命"」【研究代表者藤田祐一】の支援を受け実施しました。


 ※用語説明は添付の関連資料を参照


【論文名】
 "Transcriptional regulators ChlR and CnfR are essential for diazotrophic growth in non−heterocystous cyanobacteria"
 (転写制御タンパク質ChlRとCnfRはヘテロシストを形成しないシアノバクテリアの窒素固定的生育に必須である)
 Ryoma Tsujimoto,Narumi Kamiya,and Yuichi Fujita
 (辻本良真、神谷成美、藤田祐一)
 掲載誌:Proceedings of National Academy of Sciences of USA(米国科学アカデミー紀要)


 ※図1〜5は添付の関連資料を参照


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