イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東北大、大腸菌シグナル伝達タンパク質による生体回転ナノマシーン制御を生きた細胞の中で証明

2014-04-02

大腸菌シグナル伝達タンパク質による生体回転ナノマシーン制御のイメージング
Direct Imaging of Intracellular SignalingComponents That Regulate Bacterial Chemotaxis


<概要>
 東北大学多元物質科学研究所・福岡創助教と石島秋彦教授らは、大腸菌の走化性シグナル伝達系において、シグナル伝達を担うタンパク質(CheY)の大腸菌のべん毛モーターへの結合・解離が、モーターの回転方向を制御することを生きた細胞の中で証明しました。本成果は米国科学誌「Science Signaling」に2014年3月27日14:00(米国東部時間)に公開されます。


<背景>
 大腸菌を含む多くのバクテリアは、べん毛とよばれるらせん状の繊維をスクリューのように回転させて水中を泳ぎます。べん毛の回転は、細胞の膜に埋まったべん毛モーターと呼ばれるナノスケールの回転モーターによって駆動されます。また多くのバクテリアは走化性システムと呼ばれる情報伝達システムを使って、周囲の環境を常にモニターし、環境情報を処理・判断し、べん毛モーターの回転を巧みに制御して、より良い環境へと移動します(図1A)。つまり、バクテリアは「考えて行動する最も小さな生き物の一つ」と言えます。この情報伝達システムは、バクテリアだけでなく、真核細胞の情報伝達システムにも共通する部分があると考えられており、バクテリアの走化性システムを理解することは、生命に普遍的に存在する情報処理システムの解明につながる可能性を秘めています。

 大腸菌の走化性システムでは、細胞膜に埋まった走化性受容体クラスターが細胞外の刺激を認識します(図1B)。細胞外刺激は、受容体クラスターで細胞内シグナル伝達タンパク質(リン酸化CheY)へと変換され、細胞内を伝わり、べん毛モーターの回転方向を制御すると考えられていました。リン酸化CheYのべん毛モーターへの結合が、モーターの時計方向の回転を引き起こし、逆にリン酸化CheYの解離が、モーターの反時計方向の回転を引き起こすという仮説が長く信じられていましたが、あくまで仮説であり実際に証明されていませんでした。


<研究の内容>
 本研究では、上述の仮説を証明するために、細胞内シグナル伝達タンパク質CheYと緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)の融合タンパク質(CheY−GFP)を用いて、生きた細胞内でCheYを可視化できるようにしました(図1C)。またCheY−GFPの発する蛍光と細胞の明視野像を同時に観察することが可能な顕微鏡システムを開発し、CheY−GFPの細胞内動態と共にべん毛モーターの回転を同時に観察できるようにしました。その結果、リン酸化CheYの結合によりモーターの時計方向への回転が誘起されること、リン酸化CheYの解離によりモーターの反時計方向への回転が誘起されることが、生きた細胞の中で実際に動いているべん毛モーターで証明することに成功しました。また、詳細な解析により、1)約13分子のリン酸化CheYが結合すればモーターの時計回転が引き起こされること、2)モーター回転方向転換時のリン酸化CheYの結合・解離が非常に速やかなことから、リン酸化CheYの結合・解離に協同的なメカニズムが存在する可能性があること、そして、3)反時計回転しているモーターと時計回転しているモーターでは、リン酸化CheYの結合し易さが異なること、等が明らかになりました。

 ※図1は添付の関連資料を参照


<今後の展望>
 以上のように、細胞応答とそれを担う細胞内の情報伝達タンパク質を同時に捉えることで、大腸菌の中で行われている情報伝達メカニズムの一端を、タンパク質の動態として理解することができるようになりました。今後、同様の手法で細胞の振る舞いと細胞内のタンパク質動態を同時に捉えていくことで、細胞の中で行われている情報伝達メカニズムの解明に近づけると期待されます。また、バクテリアの情報伝達システムは真核細胞のシステムにも共通する部分があるため、今後の研究によって生命に普遍的に存在する情報処理システムを考察する上でも重要な知見をもたらすと考えられます。


<用語解説>
 べん毛:
 バクテリアのもつ運動器官。細胞膜に埋まった基部体(回転モーター)、べん毛繊維(スクリュー)、両者を繋ぐフック(ユニバーサルジョイント)で構成されます。数百分子のタンパク質で作られた回転装置で、大腸菌のモーターは水素イオンをエネルギーとして回転します。

 受容体クラスター:
 走化性受容体および走化性システムを構成するタンパク質は細胞の極でクラスターを作ります。ここで認識された細胞外の刺激は細胞内シグナル伝達タンパク質に変換されべん毛モーターに伝えられます。

 Green Fluorescent Protein(GFP):
 緑色蛍光タンパク質。緑色の蛍光を発するタンパク質としてオワンクラゲから発見されました。観察したいタンパク質に融合させることで、機能しているタンパク質を光らせて細胞内で観察することができます。


【掲載誌情報】
 雑誌名:Science Signaling
 論文タイトル:Direct Imaging of Intracellular Signaling Components That Regulate Bacterial Chemotaxis
 著者:Hajime Fukuoka、Takashi Sagawa、Yuichi Inoue、Hiroto Takahashio、Akihiko Ishijima


Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版