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東北大、細胞培養シート内にCNTを使った電気の通路の作製に成功
細胞培養シート内にCNTを使った電気の通路の作製に成功
〜40倍の異方性導電を実現し、高効率な細胞培養が可能に〜
【研究概要】
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のアハディアン助手、ラモン・アスコン助教、末永智一主任研究者、カデムホッセイニ主任研究者らの研究グループは、細胞培養の足場となるハイドロゲルシートにおいて、底面に対して垂直方向にカーボンナノチューブ(CNT)を配列化させる技術を開発し、水平方向と比べて約40倍の導電率を実現することに成功しました。これは、ハイドロゲル底面にある電極と上面との間に、CNTによって電気の通路ができたことが原因と考えられ、このハイドロゲルを筋細胞の電気培養に応用したところ、より効率的な筋細胞の分化・成熟が可能となりました。この技術は、再生医療やバイオセンサーなど幅広い用途への応用が期待できます。
上記の研究成果は、2014年3月19日(現地時間)にScientific Reports オンライン版に掲載されました。
※図1は添付の関連資料を参照
【研究の背景】
再生医療や組織工学を支える技術として、立体的に細胞‐細胞間接着、細胞−マトリクス間接着を促す足場材料の開発が重要性を増しています。中でも、生体適合性を持ち、水分子を大量に含むハイドロゲルを用いて、細胞結合性の生体分子や光架橋性分子(*1)を複合化した多機能性バイオマテリアルの開発が盛んに行われています。研究グループはこれまでに、ゼラチンメタクリレート(GelMA)ハイドロゲルとカーボンナノチューブ(CNT)を組み合わせたハイブリッド材料を提案し、既存のハイドロゲルに較べ導電性と機械強度に優れた足場材料の開発を行ってきました。本研究では足場材料中に電気の通り道を作ることにより、電極と筋細胞間の接続を改善できると考え、GelMAハイドロゲルシート中にCNTを垂直方向に並べることを試みました。
【研究の内容】
本研究グループは、誘電泳動を応用して、ゼラチンメタクリレート(GelMA)ハイドロゲルにカーボンナノチューブ(CNT)を垂直に並べる技術を考案しました。酸化インジウムスズ(ITO)でできた板状透明電極とバンド状透明電極の間にGelMAハイドロゲル前駆体とCNTを導入し、垂直方向に電場をかけると、ITO電極にそって生ずる誘電泳動力(*2)によりCNTが垂直方向に配列化します。その状態のまま紫外光を照射して、ゲルを光架橋させて固定化することにより、CNT垂直配列化ハイドロゲルシートを作製しました。このCNT−GelMAハイドロゲルハイブリッド材料の導電率を測定したところ、ゲルの垂直方向では水平方向と比べて約40倍高いことが分かりました。さらに、従来のハイドロゲルシート単体やCNTの配向がランダムなCNT含有ハイドロゲルシートと比べて機械強度も優れていることが分かりました。
導電率の上昇に伴って細胞培養の効率が上がっているかを確かめるために、筋細胞の1種である筋芽細胞(C2C12)をCNT垂直配列化ハイドロゲルシート上で培養し電気刺激を与えると、従来法に比べ多くの筋管細胞を得ることに成功しました。
【今後の展開】
我々が開発したCNT−ハイドロゲルハイブリッド材料は、筋細胞などの分化・成熟培養工程など、電気培養が必要となるプロセスでの応用が期待できます。将来的には動物実験に頼らない筋肉の運動モデルを用いた薬の開発や、再生医療、バイオセンサーなどの幅広い分野への応用が期待されます。
※参考図などは添付の関連資料を参照
【用語解説】
(注1)光架橋性分子:紫外線などの高エネルギー源を駆動力として化学反応を誘起する。反応のオン・オフや材料のパターニングに利用される。
(注2)誘電泳動:交流電場中置かれた微小物体が移動したり回転したりする現象。交流電場の向きや周波数を制御することにより、物体の動きや配向をコントロールできる。