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理研、糖鎖遺伝子が脳だけに発現する新たな仕組みを解明

2014-03-18

糖鎖遺伝子「GnT−IX」が脳だけに発現する新たな仕組みを解明
−ヒストンを修飾する特定の酵素が遺伝子発現の鍵−


<ポイント>
 ・GnT−IX遺伝子の発現を決めるヒストン修飾酵素を同定
 ・修飾酵素によってヒストンが修飾を受けると特定の転写因子を呼び込む
 ・不明だった臓器特有の糖鎖が存在する仕組みの解明に手がかり


<要旨>
 理化学研究所(野依良治理事長)は、マウスの細胞を使い、糖鎖遺伝子[1]「GnT−IX」が、脳に特異的に発現する新たな仕組みを解明しました。これは、理研グローバルクラスタ システム糖鎖生物学研究グループ(谷口直之グループディレクター)疾患糖鎖研究チームの木塚康彦基礎科学特別研究員、北爪しのぶ副チームリーダーらと、米国H・リー・モフィット がんセンター研究所のE・ソトメイヤー博士らとの共同研究による成果です。

 糖鎖は、グルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながった分子で、タンパク質や脂質の上に存在し、それらの機能を調節しています。糖鎖の付加の異常は、さまざまな疾患の発症に関わっています。

 動物の体内には多様な形の糖鎖が存在していますが、それぞれの糖鎖は均一に分布せず、臓器や細胞によって異なる糖鎖が作られます。糖鎖は細胞の中で、糖転移酵素[2]と呼ばれる一群の酵素によって合成されます。しかし、各臓器や細胞で、なぜ異なる糖鎖が作られるのか、その仕組みはほとんど分かっていませんでした。

 糖転移酵素の1つ「GnT−IX」は、脳だけに存在しており、多発性硬化症などの脱随疾患と関連が深いO−マンノース型糖鎖[3]と呼ばれる糖鎖の合成に関わっています。共同研究グループは、GnT−IXを作るGnT−IX遺伝子発現のON・OFFが、遺伝子周辺のヒストン[4]を修飾する特定の酵素によって調節されていることを発見しました。また、ヒストンが特定の修飾を受けることによって、GnT−IX遺伝子の発現をONにする特定の転写因子[5]が遺伝子の近くに集まりやすくなることも発見しました。ヒストンの修飾状態を変化させて遺伝子発現のON・OFFを調節するような、DNA配列に依存しない調節機構をエピジェネティクス[6]と呼びます。本研究の結果は、このエピジェネティクスの仕組みが臓器や細胞に特有な糖鎖形成の根幹である可能性を示しています。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』オンライン版(3月10日)に掲載されました。


<背景>
 動物では、体内の半数以上のタンパク質に糖鎖が付いており、タンパク質の持つさまざまな機能は、付加している糖鎖によって調節されていることが分かってきています。糖鎖の付加の異常は糖尿病や慢性閉塞性肺疾患など、現代人を脅かす疾患の発症の原因となることも解明されてきました。糖鎖の形は臓器や細胞によって大きく異なり、この不均一性は、それぞれの臓器や細胞が持つ固有の機能の発揮に深く関わっています。糖鎖は、細胞の中の小胞体とゴルジ体で、糖転移酵素によって作られますが、各臓器や細胞が持つ糖転移酵素の種類が異なり、臓器や細胞に特有の糖鎖が形成されます。つまり、各糖転移酵素を作る遺伝子(糖鎖遺伝子)発現のON・OFFが、細胞の種類によって別々に調節されているといえます。しかし、こうした糖鎖遺伝子の調節の仕組みは不明であり、どのように臓器や細胞に特有の糖鎖が作られるのかは分かっていませんでした。

 2003年、理研の研究チームは糖鎖合成酵素「GnT−IX」を発見しました。この酵素は、脳だけに存在しています。つまり、この酵素を作るGnT−IX遺伝子は脳だけで発現するといえます。GnT−IXは、O−マンノース型糖鎖と呼ばれる糖鎖の合成に関わっており、理研の研究チームの以前の研究によって多発性硬化症などの脱髄疾患と関連が深いことが分かっています。

 今回、共同研究グループは、GnT−IX遺伝子がどのような仕組みで脳だけで発現しているのかをマウスを使って調べました。


<研究手法と成果>
 木塚康彦基礎科学特別研究員らの先行研究で、GnT−IX遺伝子を発現しているマウスの脳と発現していない他の臓器では、GnT−IX遺伝子周辺のヒストンの修飾状態が大きく異なっていることが分かっていました。しかし、そのヒストンの修飾状態の違いをもたらす仕組みは不明でした。

 本研究では、GnT−IX遺伝子が発現しているマウスの神経由来の細胞を使って、ヒストンの修飾を行う酵素群を詳細に解析しました。その結果、「ヒストン脱アセチル化酵素[7]11(HDAC11)」が遺伝子発現のOFFを、「O−GlcNAc転移酵素[8](OGT)−TET3複合体」が遺伝子発現のONを調節していることが明らかになりました。さらに、GnT−IX遺伝子周辺のヒストンなどがOGT−TET3複合体によって修飾を受けると、遺伝子発現を活性化する転写因子「NeuroD1」がGnT−IX遺伝子に集まりやすくなることも分かりました。また、ヒストン修飾酵素であるHDAC11とOGT−TET3複合体は、調べた他の糖鎖遺伝子の発現には関わらないことが分かり、GnT−IX遺伝子特有のON・OFFの調節に関わると考えられました。

 これらの結果から、GnT−IX遺伝子が脳で特異的に発現するには、HDAC11とOGT−TET3複合体の作用と、それによって呼び込まれた転写因子NeuroD1の作用が必要であることが分かりました(図)。


<今後の期待>
 ヒストン修飾やDNAのメチル化のような、DNA配列に依存しない遺伝子発現の調節機構をエピジェネティクスと呼びます。今回の研究により、臓器や細胞に特有な糖鎖の合成がエピジェネティクスによる制御を受け、特定のヒストン修飾酵素群がその制御に重要であることが明らかになりました。この成果は、糖鎖の付加の仕組みを研究する上で大きな発見であるといえます。

 今後は、どのような仕組みでヒストンの活性化が特定の遺伝子に、特定の組織において起きるのかをさらに詳細に解明する必要があります。糖鎖の合成に関わる酵素の遺伝子は動物では約200ありますが、その多くの調節機構は分かっていません。これらを明らかにすることで、なぜ、糖鎖が臓器や細胞に特異的に形成されるのか、その仕組みのさらなる理解が期待できます。


<原論文情報>
 ・Yasuhiko Kizuka,Shinobu Kitazume,Kyohei Okahara,Alejandro Villagra,Eduardo M.Sotomayor and Naoyuki Taniguchi.“Epigenetic regulation of a brain−specific glycosyltransferase N−acetylglucosaminyltransferase−IX(GnT−IX)by specific chromatin modifiers”.The Journal of Biological Chemistry,2014,doi:10.1074/jbc.M114.554311


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 グローバル研究クラスタ http://www.riken.jp/research/labs/grc/
 理研−マックスプランク連携研究センター http://www.riken.jp/research/labs/grc/riken_max_planck/
 システム糖鎖生物学研究グループ http://www.riken.jp/research/labs/grc/riken_max_planck/sys_glycobiol/
 グループディレクター 谷口 直之(たにぐち なおゆき)


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・補足説明
  ・図 ヒストン修飾による脳特異的なGnT−IX遺伝子の調節(模式図)



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