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産総研など、微粒子を密度差により簡便に分別できるデバイスを開発

2014-02-22

微粒子を密度差により簡便に分別できるデバイスを開発
−デバイス内のマイクロ流路に流すだけで迅速に分別−


<ポイント>
 ・単純な流路構成のデバイスでありながら微粒子を分別
 ・対象微粒子への刺激が少なく簡便に分別することが可能
 ・高品質卵子や体外受精卵などの細胞の分離・分別への貢献に期待

<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)生産計測技術研究センター【研究センター長 坂本 満】生化学分析ソリューションチーム 宮崎 真佐也 研究チーム長と杉山 大輔 産総研特別研究員(現:(株)キューメイ研究所)らは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構【理事長 堀江 武】(以下「農研機構」という)九州沖縄農業センター 高橋 昌志 上席研究員(現:北海道大学大学院農学研究院)、国立大学法人 佐賀大学【学長 佛淵 孝夫】(以下「佐賀大」という)大学院農学研究科 山中 賢一 准教授と共同で、流路に密度の異なる微粒子の混合物を流すだけで、微粒子の密度差により簡便に分別できるマイクロ流体デバイスを開発した。

 今回開発したマイクロ流体デバイスに密度を調整した液体を流しながら、分別する微粒子混合物を導入し流路を流すだけで、液体より密度の高い粒子と密度の低い粒子を分別できる。医療や農産現場での細胞分離技術への貢献が期待される。

 なお、この技術の詳細は、英国Royal Society of Chemistryの学術誌Analytical Methodsに掲載された。

 図1 今回開発したマイクロ流体デバイス内での微粒子の密度差による分離の概念図

 ※添付の関連資料「図1」を参照

<開発の社会的背景>
 密度の異なる粒子を分別するには遠心分離などの方法がよく用いられているが、生体分子、コロイド、高分子などのソフトマテリアルや細胞などは、大きな力が加わると変形や破壊などが起こる。特に、いろいろな細胞を分別する場合、一部の細胞が損傷して細胞内物質が漏出し、損傷を受けていない細胞にも悪影響を与えることがある。このような細胞や粒子を分別するには、取り扱いのたやすさや分別時間の短さからマイクロ流体デバイスが用いられる。しかしながら、これまでの粒子分別用のマイクロ流体デバイスは超音波や遠心力などの外部からの刺激を加えて分別するものが多く、低刺激で分別できる流体デバイス技術が求められている。また、実際の現場で使用するには低コスト化も必要で、単純な流路構造も望まれている。

<研究の経緯>
 産総研では、マイクロ流体デバイスを用いて、マイクロ空間の特長を活用した有用化合物の合成、タンパク質の結晶化、プロテオミクス、臨床検査技術の開発を行ってきた。また、九州地区で盛んな畜産分野において、優良子牛生産効率化のための高品質卵子・体外受精卵の簡便な選別技術の開発のニーズに対応するため、農研機構・佐賀大と共同で細胞の密度の差による簡便な分離技術の開発に関する共同研究を進めてきた。

<研究の内容>
 図2に今回開発したマイクロ流体デバイスとその模式図を示す。デバイスの素材には観察のたやすさと、将来的な細胞分別への応用も考え細胞接着を抑制するPDMSを用いた。流路は同じ形状の溝を持つ二つのパーツを溝同士が向かい合うように重ね合わせて、直線部分では上下の流路が重なるようにした。微粒子の混合物は上下の流路の合流点で、流路の中央部から導入される。図2の赤丸で示す分岐点で上下に流路が分かれ、それぞれの出口で微粒子が回収される。なお、送液はシリンジポンプにより行う。

 図2 開発したマイクロ流体デバイスとその模式図

 ※添付の関連資料「図2」を参照

 モデル粒子としてポリスチレンの粒子を用い、液体には密度を調整したショ糖溶液を用いて、開発したマイクロ流体デバイスを評価した。図3に示すように、黒色の軽い粒子は流路の出口に向かうにつれて上方向に移動し、透明な重い粒子は流路の出口に向かうにつれて下方向に移動し液体よりも密度が低い粒子と高い粒子を分別することができた。また、流路内での滞留時間が長いほど、より高い確率で粒子が分別できた。一般に分別する微粒子の密度差が小さいと、分別する微粒子間の距離を離すために、より強い遠心力かより長い分別時間が必要となる。しかし、今回開発したマイクロ流体デバイスでは、微粒子の鉛直方向への短い移動で分別できるため、短時間で、遠心力など外部から大きな力を加えずに分別できた。

 遠心分離などでは、分離後の微粒子の回収時に他の密度の粒子の混入を防ぐため操作が煩雑であるが、今回のデバイスでは分離後、微粒子回収容器には目的の粒子だけが入るため、回収操作が容易である。また、短時間で回収できるため、分別する微粒子へのストレスが少なく、細胞などの分別に適している。微粒子の大きさや密度差によって流路デザインを最適化すれば密度差の小さい微粒子も分別できると考えられる。今回のマイクロ流体デバイスの流路構造は単純であるため低コストでの生産が可能と期待される。

 図3 マイクロ流体デバイス内での分別の様子

 ※添付の関連資料「」図3を参照

<今後の予定>
 この技術を卵子や体外受精卵など、細胞の分別に応用していく。例えば医療現場での診断の際の血液サンプルの前処理技術や、畜産業での優良子牛生産の効率化のための高品質卵子・体外受精卵の簡便な選別技術などへの応用である。まず、高品質牛肉の生産規模増大に寄与するため、畜産業の現場での実証試験に着手し3年以内の実用化を目指す。

<用語の説明>
◆マイクロ流体デバイス
 微細な流路を持ち、さまざまな分析や反応を少量の試料で行うことができる。通常、太い管内では流れの方向はランダムになるが、微細なマイクロ流路内では流れの方向は規則性を持って一方向に流れる。また、マイクロ流路内では体積当たりの溶液に対して比表面積や界面積が大きくなるため、反応や液−液抽出が効率的に行われるなど、通常の実験装置ではみられない現象が知られている。

◆ソフトマテリアル
 高分子、ミセル、コロイド、ゲル、液晶、生体高分子等の総称で、複雑な形や構造を持ち、柔らかい等の特徴がある。

◆細胞内物質
 細胞内にはさまざまなタンパク質等が存在しているが、タンパク質を分解する消化酵素や炎症性の物質が漏出すると周りの細胞が損傷する。

◆プロテオミクス
 タンパク質の構造や機能を解析する研究領域。タンパク質の機能や相互作用を明らかにすることにより、治療薬の開発や病気の早期診断に有用。

◆PDMS
 ポリジメチルシロキサンの略。シリコーンゴムの一種で、透明な材料であるためマイクロ流体デバイスに広く用いられている。

◆シリンジポンプ
 シリンジ(注射器)から設定量を吐出でき、微量の送液を安定して行う事ができる。



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