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北九州市立大など、ワクチンの効果を高める新規免疫核酸医薬を開発

2014-02-15

ワクチンの効果を高める新規免疫核酸医薬の開発に成功


<ポイント>
 ・安全なワクチンの開発には、自然免疫を活性化する安全なアジュバントの探索が必要。
 ・マウスだけでなくサルでもインフルエンザワクチンの効果増強を確認。
 ・インフルエンザなどの感染症やウイルス疾患の強力な予防薬への利用が期待。

 JST課題達成型基礎研究の一環として、独立行政法人医薬基盤研究所の石井健プロジェクトリーダー(大阪大学免疫学フロンティア研究センター兼任)や小檜山康司研究員らのグループは、北九州市立大学の櫻井和朗教授のグループと共同で、インフルエンザなどの感染症に対する強力なワクチンアジュバント(免疫活性化分子)(注1)の開発に成功しました。
 アジュバントは、ワクチンの効果を高める目的で抗原(注2)とともに投与される物質または分子であり、安全で効果的なワクチン開発のために、全世界でアジュバントの開発競争が行われています。これまで、合成核酸CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpGODN)(注3)と呼ばれる、短い配列の特殊なDNAが強いアジュバント効果を持つことが知られていましたが、いくつかの効果の強いCpGODNは生体内で凝集を起こし不安定であったり、霊長類では効果が少ないなど実用化に向けて課題がありました。
 研究グループは今回、CpGODNを多糖(β−1,3グルカン)で包んだ、新たなアジュバント(K3−SPG)の開発に成功しました。このナノ粒子のK3−SPGをインフルエンザワクチンと一緒に投与すると、マウスだけでなくカニクイザルでも強いアジュバント効果を発揮し、これまで懸念されていたマウスと霊長類での反応性の違いを克服できました。また、K3−SPGは接種後に速やかにリンパ節(注4)へと移行し、リンパ節表面の細胞に特異的に取り込まれたあとに、強力に免疫細胞を活性化していることが明らかとなりました。
 今回の成果は、新規アジュバントの開発を大きく前進させるとともに、これまで効果が乏しかった抗がん薬や抗アレルギー薬をはじめ、感染症以外のさまざまなワクチンでの利用も期待されます。
 本研究成果は、2014年2月10日(米国時間)の週に米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)
   研究領域:「ナノ界面技術の基盤構築」
   (研究総括:新海征治崇城大学教授/九州大学工学部ナノサイエンス学科名誉教授)
   研究課題名:「DDS粒子のナノ界面とインフルエンザワクチン等への応用」
   研究代表者:櫻井和朗(北九州市立大学国際環境工学部教授)
   研究期間:平成20年10月〜平成26年3月
 JSTはこの領域で、異種材料・異種物質状態間の接合界面を扱う研究分野の融合によってナノ界面機能に関する横断的な知識を獲得するとともに、これを基盤として界面ナノ構造を自在に制御し、飛躍的な高機能化を可能にする革新的なナノ界面技術を創出することを目的としています。上記研究課題では、次世代のDDSナノ粒子に関して、粒子の内部構造、粒子内の疎水/親水界面における薬物の挙動と形態、生体膜との融合挙動を、放射光を用いて精密に解明し、この結果を利用して、遺伝子デリバリーやタンパク質製剤の分野に新しいDDS技術を提供することを目標としています。

<研究の背景と経緯>
 ワクチンは病原体の感染や、感染による症状の重症化を防ぐために世界中で用いられています。ワクチンの中にはアジュバントと呼ばれる免疫活性化分子が含まれており、ワクチンの効果を高めるために80年以上もの長い間使用されてきています。しかし、従来のアジュバントでは防ぐことのできない感染症も存在し、より効果的な新規ワクチンの開発には新たなアジュバントの開発が重要とされています。
 免疫システムには、自然免疫と獲得免疫があり、自然免疫は体内に進入した病原体に対して、迅速に対応するための防御反応で、以前にその病原体に感染したことがなくても排除できる、自然に備わっている能力です。一方、過去に1度感染したことのある病原体が再び体内に侵入してきた場合には、過去の記憶に頼る強力で効率の高い獲得免疫によって防御反応を示します。
 最近の自然免疫研究の発展から、ワクチンが十分な効果を示す(獲得免疫を活性化する)ためには、自然免疫(注5)の活性化が必須であることが明らかとなってきました(図1)。そのため自然免疫受容体(注6)であるトル様受容体(TLR)(Toll様受容体:Toll−likereceptor)(注7)に結合する物質(リガンド)が、アジュバントとして期待され開発が行われています。特にTLR9のリガンドである合成核酸CpGODNは強く自然免疫を活性化することから、アジュバントのみならず抗がん薬や抗アレルギー薬としても期待されています。これまでに大きく4種類(D型、P型、K型、C型)のCpGODNが報告されていますが、効果の強いCpGODNは凝集を起こすなど不安定であるために、実用化に向けての開発は困難でした。CpGODNを幅広い免疫核酸医薬として応用するために、安定化によって効果を高くするための新たなアプローチが求められていました。

<研究の内容>
 研究チームは今回、多糖(βグルカン)と合成核酸との複合体を形成させる独自技術を用いて、ヒトへの応用可能なワクチンアジュバントの開発を試みました(図2)。
 研究チームはまず、核酸医薬として期待されているCpGODN(K3)と多糖(βグルカン)との複合体(K3−SPG)を作製し、ヒト細胞で自然免疫を活性化するかどうかを調べました。その結果、これまでに報告されているCpGODNに比べて、強く自然免疫応答を活性化していることが明らかとなりました。
 次に、マウスインフルエンザワクチンモデルを用いて検討したところ、季節性インフルエンザワクチンとして用いられているスプリットワクチンにK3−SPGを添加するだけで、これまで効果が高いと考えられてきた全粒子ワクチン(注8)よりもインフルエンザウイルス感染に対して強い防御効果を示しました(図3)。
 ヒトへの応用を考え、霊長類であるカニクイザルで検討したところ、インフルエンザワクチンに対する免疫応答が強力に誘導されたことから、マウスと霊長類での反応性の違いを克服できたと考えられます。
 さらにK3−SPGの作用機序、特に体内動態を明らかとするためにイメージング技術を用いて解析を行いました。その結果、K3−SPGはマウスに接種後、直ちにリンパ節表面の細胞(マクロファージ)に特異的に取り込まれることが明らかとなりました。その後、K3−SPGは異物の存在を教える免疫システムの司令塔である樹状細胞(抗原提示細胞)に取り込まれ、また強く活性化していることが明らかとなりました(図4)。
 これらの結果から、新規免疫核酸医薬であるK3−SPGはマウスだけでなく、霊長類であるカニクイザルにおいてもアジュバントとして有用であることが示唆されるとともに、ヒト細胞を用いた結果からも、ヒトへの応用が可能であると見込まれます。

<今後の展開>
 今回の成果は、ワクチンアジュバントとして新規核酸医薬の開発に成功しました。この新規アジュバントはマウスやカニクイザルだけでなく、ヒト細胞においても従来のCpGODNより強い、自然免疫や獲得免疫の活性化を示しました。
 本研究グループは、この新規アジュバントを実際にヒトへ応用するために、GMP準拠の製剤化を行うことが次の課題であると考えています。この新規アジュバントの製剤化に成功すれば、インフルエンザワクチンのアジュバントや、がんワクチンやほかの感染症のワクチンへの応用も可能であり、新規ワクチンまたは治療法の開発が期待されます。

 ※参考図などは添付の関連資料を参照

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