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東北大、急性呼吸器感染症の原因ウイルスの抗原性・受容体特性を解明

2014-02-08

急性呼吸器感染症の原因ウイルス株を解析
エンテロウイルス68型の抗原性・受容体特性を解明


【研究概要】
 東北大学医学系研究科の押谷仁(おしたにひとし)教授(微生物学分野)と岡本道子(おかもとみちこ)助教(微生物学分野)らのグループは、近年、世界的流行を起こしているエンテロウイルス68型(EV68)の抗原性および受容体結合性を初めて明らかにしました。
 EV68は1962年に急性呼吸器感染症の原因ウイルスとして初めて分離され、2000年代前半まで希な検出のみ報告されてきましたが、その後、2000年代後半になり世界各国で検出の報告が急増しました。しかし、EV68流行の原因となったウイルス学的要因はいまだ明らかとなっていませんでした。東北大学医学系研究科微生物学分野・大学院生の今村忠嗣(いまむらただつぐ)が中心となり、ウイルスの抗原性(注1)、および、ウイルスが細胞接着時に必要とする組織親和性に関わる受容体結合性(注2)について解析を行った結果、近年流行したEV68は過去に検出されたウイルス株とは大きく異なる抗原性を持ち、近年流行株も抗原性の異なる複数のウイルスで構成されている実態が明らかとなりました。また、EV68は主に下気道(注3)に分布する糖鎖(注4)(α2−3結合型シアル酸)よりも、上気道(注3)に分布する糖鎖(α2−6結合型シアル酸)に高い結合性をもつことが明らかとなりました。
 本研究により、近年のEV68の世界的流行には抗原性の異なるウイルス株の出現が関与している可能性が明らかになるとともに、EV68がヒト上気道に親和性をもつ可能性が初めて示されました。本研究で得られた知見は、今後、EV68による流行発生機序および感染病態の解明につながることが期待されます。
 本研究内容は2013年2月6日(東部標準時)にJournalof VirologyのOnline版に公開予定となっています。


【研究の背景】
 エンテロウイルス68型(EV68)は、1962年米国カリフォルニアにおいて下気道感染症の症状を呈した小児患者から初めて検出されました。以降、EV68は2000年代前半まで非常にまれにしか報告されてこなかったウイルスでした。しかし、本研究グループは、フィリピン熱帯医学研究所との共同研究において、2008年から2009年にかけて、フィリピンにおいて死亡例2例を含む小児の重症肺炎患者21例からEV68を検出しました。その後、このEV68が特に重症呼吸器感染症の患者から検出されたという報告が世界各地から相次いでいます。しかし、このような近年のEV68流行の原因と考えられるウイルス変化はいまだ明らかとなっていませんでした。


【本研究における発見とその重要性】
 本研究グループはEV68の流行および重症化に影響する可能性のある受容体結合性および抗原性に着目して解析を行いました。受容体結合性の解析にはグリカンアレー法(注5)を使用し、また抗原性解析には、近年流行したEV68ウイルス株に対する抗血清を作成するとともに、作成抗血清を使用して赤血球凝集阻止試験(注6)(HI試験)および中和試験(注7)(NT試験)を行いました。その結果、受容体解析により、ウイルス株の検出年に関わらず、解析に使用した全てのEV68が下気道に分布するα2−3結合型シアル酸糖鎖よりも上気道に分布するα2−6結合型シアル酸糖鎖に高い結合性を有することが明らかとなりました(図1)。また、抗原性解析の結果、近年検出されたEV68分離株は1962年に検出された初代分離株と大きく異なる抗原性を持ち(図2)、さらに近年流行したウイルス株間でも抗原性に多様性があることが明らかとなりました(図3)。本研究により、近年のEV68流行には抗原性の異なる株の出現が関与している可能性が示されるとともに、EV68がα2−6結合型シアル酸糖鎖への結合により上気道親和性を持つ可能性が初めて明らかとなりました。
 本研究の端緒となる2008年から2009年にかけてのEV68の流行を世界に先駆けて検出し、また本研究に用いた分離株を検出したのはフィリピン・レイテ島にあるEastern Visayas Regional Medical Center(東ビサヤ地域医療センター;EVRMC)などのタクロバン市およびその周辺に位置する医療機関でした。本研究グループはこの地域で2008年から継続して研究を行ってきましたが、タクロバン市およびその周辺地域は2013年11月8日の台風30号(現地名Yolanda)によって壊滅的被害を受け、EVRMC内に本研究グループが整備した研究施設も強風と高潮で大破しました(写真)。本研究グループのメンバーは研究体制の再構築を行うとともに、東日本大震災の経験も生かし被災地の感染症コントロールを含む保健衛生全般の復興に協力しています。(http://www.virology.med.tohoku.ac.jp/biseibutugaku_j/st.html

 ※参考写真は添付の関連資料を参照


 本研究は感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J−GRID)・地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)および日本学術振興会(JSPS)の支援を受けて行われました。また、本研究は中部大学・生命健康科学部・生命医科学科・鈴木康夫教授、山形大学医学部・感染症学講座・松嵜葉子准教授、山形県衛生研究所・微生物部・水田克巳副所長、香川大学・研究推進機構・総合生命科学研究センター・糖鎖機能解析研究部門・中北愼一准教授らとの共同研究として行われました。

 ※図1〜3、用語説明は添付の関連資料を参照


【論文名】
 タイトル:Antigenic and receptor binding properties of Enterovirus 68.
      (エンテロウイルス68型の抗原性および受容体結合性)
 掲載予定論文:Journal of Virology


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