イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

理化学研究所、3次元半導体物質におけるベリー位相の検出に成功

2013-12-27

3次元半導体物質におけるベリー位相の検出に成功
−電子スピンの幾何学的性質により定まる量子力学的位相を発見−


<ポイント>
 ・大きくスピン分裂した電子スピン偏極フェルミ面の量子振動を観測
 ・量子振動の解析により3次元物質で初めて電子スピンのベリー位相を検出
 ・電子スピンのトポロジー情報が位相値に反映されていることを実証


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、極性を持つ(上下の反転対称性が破れた)3次元の半導体物質「BiTeI(Bi:ビスマス Te:テルル I:ヨウ素、図1)を使い、3次元物質における電子スピンのベリー位相[1]の検出に初めて成功しました。これは、理研創発物性科学研究センター(十倉好紀センター長)強相関量子伝導研究チームのハロルド・ファンチームリーダー、村川寛客員研究員、強相関理論研究グループの永長直人グループディレクター、モハマド・サイード・バーラミー客員研究員、強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクター、金子良夫上級技師、東京大学国際超強磁場科学研究施設徳永将史准教授、小濱芳允特任助教、スタンフォード大学のクリスベル助教との共同研究グループによる成果です。

 電子スピンのベリー位相は、時間的に変化する通常の量子力学的位相とは異なり、量子空間での電子スピンの幾何学的性質によって決まります。この位相は身のまわりのさまざまな量子現象を支配する普遍的な存在であり、物性を理解するための重要な情報を含んでいます。しかし、ベリー位相の実験的な検出は容易ではなく、定量的な評価にも多くの問題点が残されたままでした。

 共同研究グループは、結晶構造に極性を持つ3次元の半導体BiTeI単結晶の磁気抵抗率の量子振動[2](電気抵抗率が磁場の関数として振動する)を測定しました(図2)。その結果、スピン軌道相互作用[3]によって電子の運動方向とスピンの向きが連動する「ラシュバ型電子スピン構造[4]」(図3)が持つベリー位相の検出に成功しました。この物質固有の非常に大きな電子スピン分裂エネルギー[5]による電子スピン偏極[6]で、環状のラシュバ型電子スピン構造が強磁場中でも安定して存在するため、量子振動の解析からスピン構造の幾何学性により定まるベリー位相値を実験的に検証することができました。

 ベリー位相の定量的な解析によって物質中の電子スピンの振る舞いを読み解くことが可能になれば、多様な物性の理解が進み、新しい量子現象の開拓やスピントロニクス分野への応用につながるものと期待されます。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Science』(12月20日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(12月19日付け:日本時間12月20日)に掲載されます。


<背景>
 量子力学で、状態空間の幾何学的性質によって定まるベリー位相は普遍的な概念です。物質中の電子波動関数[7]に含まれるベリー位相は、物質を理解するために重要な情報が含まれており、身の周りのさまざまな量子現象と密接に関わっています。最近では、電子スピンが作り出す渦やねじれなどの幾何学的構造(電子スピンのトポロジー[8])が生み出す現象の潜在性が理論的にも応用的にも広く注目されており、電子スピン由来のベリー位相の研究が盛んに行われています。しかし、その実験的な検出は容易ではなく、定量的な評価にも多くの問題点が残されたままでした。


<研究手法と成果>
 共同研究グループは、極性半導体BiTeI単結晶のシュブニコフ・ドハース(SdH)振動[9](電気抵抗率が磁場の関数として振動する)を測定し、3次元物質のラシュバ型スピン構造が持つベリー位相の検出に成功しました(図2)。スピン方向に依存した電子状態のエネルギー分裂により、内側と外側に2つのフェルミ面[10]が形成され、それぞれ回転方向が逆の環状スピン構造が現れます(図3)。環状スピンの幾何学性により、ベリー位相値はπ(=180°)となる(量子振動が反転する)ことが理論的に予想されていましたが、今回これを実験的に証明することができました。

 SdH振動測定によるピーク位置の解析(図2)はベリー位相の評価に使われる一般的な手法です。従来のラシュバ型物質ではそのスピン分裂エネルギーが小さく、2つのスピン偏極フェルミ面の大きさ(図3でそれぞれの環状スピンの囲む面積)に顕著な差が現れないため、それぞれの電子状態のSdH振動を解析可能な形で分離できませんでした。重元素で構成されるBiTeIではスピン軌道相互作用がとても強く、3次元の極性構造中で巨大なスピン分裂エネルギーが発生するため2つのスピン偏極フェルミ面の大きさに明確な差が現れます。その結果、それぞれのフェルミ面由来のSdH振動を完全に分離して位相値を解析できることに加え、強磁場中でもラシュバ型環状スピン構造が安定して存在する(スピンを磁場方向に平行にそろえるゼーマンエネルギーよりもラシュバ型スピン分裂エネルギーの方がはるかに大きい)ことから、ベリー位相を定量的に求めることが可能となりました。


<今後の期待>
 今回の研究では、電子スピンのベリー位相の存在を明らかにするとともに、その値が電子スピンのトポロジーの情報を如実に反映していることを示しました。ベリー位相の定量解析によって電子スピン状態を読み解くことが可能となれば、電子スピンのトポロジーが絡んだ多様な物性の理解に向けて大きく前進するものと期待されます。

 なお、本研究の一部は最先端研究開発支援プログラム(FIRST)により日本学術振興会を通して助成されたものです。


<原論文情報>
 ・H.Murakawa、M.S.Bahramy、M.Tokunaga、Y.Kohama、C.Bell、Y.Kaneko、N.Nagaosa、Harold Y.Hwang、Y.Tokura“Detection of Berry’s Phase in a Bulk Rashba Semiconductor”Science,10.1126/Sciencescience.1242247


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 創発物性科学研究センター http://www.riken.jp/research/labs/cems/
 強相関物理部門 http://www.riken.jp/research/labs/cems/str_correl_phys/
 強相関量子伝導研究チーム http://www.riken.jp/research/labs/cems/str_correl_phys/str_correl_qtm_transp/
 客員研究員 村川 寛(むらかわ ひろし)
 (現在勤務先 大阪大学大学院理学研究科物理学専攻)


 ※以下の資料は、添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・補足説明
  ・図1 BiTeIの結晶構造
  ・図2 量子振動の解析によるベリー位相の評価
  ・図3 波数空間における電子エネルギー状態


Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版