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東大、ダウン症の脳で神経細胞が少なくなる仕組みをマウスで発見

2013-12-21

ダウン症の脳で神経細胞が少なくなる仕組みをマウスで発見


<発表者>
 倉林伸博(東京大学 大学院理学系研究科附属遺伝子実験施設 助教
 眞田佳門(東京大学 大学院理学系研究科附属遺伝子実験施設 准教授)


<発表のポイント>
 >ダウン症において、神経細胞数が少なくなる仕組みをマウスで発見した。
 >21番染色体上の2つの遺伝子神経幹細胞の働きを鈍化させ、神経幹細胞から神経細胞が誕生しにくくなることを世界で初めて発見した。
 >ダウン症において脳発生異常が発症する仕組みの理解に寄与し、将来の治療戦略の確立のための重要な指針として期待できる。


<発表概要>
 ダウン症は、およそ800人の新生児あたりに1人という極めて高い頻度で生じる疾患であり、知的障害、特有の顔つきや心臓奇形などさまざまな症状が現れる。脳では神経細胞の数が少なくなり、脳容積が小さくなることが知られている。このような症状はヒトの21番染色体が2つではなく3つあることによって、21番染色体上にある遺伝子の発現量が1.5倍になることが原因とされている。しかし、約300の遺伝子を含む21番染色体中の、どの遺伝子の発現量が多くなることで、神経細胞の数が少なくなるのかは謎であった。

 東京大学大学院理学系研究科附属遺伝子実験施設の倉林伸博助教と眞田佳門准教授は、第21番染色体にある2つの遺伝子(DYRK1AとDSCR1)に着目し、マウス胎仔脳においてこれらの遺伝子の発現量が同時に増加すると、神経細胞を生み出す親細胞(神経幹細胞)の働きが鈍化し、神経細胞が生み出されにくくなることを発見した。また、マウス胎仔脳においてこの2つの遺伝子によって働きが調節される因子(NFATc)も明らかにした。

 本研究の成果は、ダウン症の脳発生異常の仕組みの理解に大きな一歩を踏み出す知見であり、ダウン症における脳発生異常を緩和する治療法の確立に重要な指針を提供すると期待される。


<発表内容>
 ダウン症は、高齢出産で発症頻度が上昇するため、現代社会において大きな関心を集めている。ダウン症は、知的障害、特有の顔つきや心臓奇形などさまざまな症状が現れるほか、脳では神経細胞数の減少や脳容積の低下が起こることが知られており、これが知的障害を引き起こす一因と推察されている。こうしたダウン症の症状は、通常は2つしかない21番染色体が3つに増える(図1)ことにより、その染色体上にある遺伝子の量が1.5倍になることが原因とされる。21番染色体には約300の遺伝子が存在するが、どの遺伝子の量が多くなることが原因で、神経細胞の数が少なくなるのかは謎であった。


 ※「図1:ダウン症の染色体」は、添付の関連資料を参照


 脳を構成する神経細胞は、神経幹細胞と呼ばれる神経細胞を生み出す親細胞から誕生する。神経幹細胞から神経細胞が生み出される過程(分化)にはさまざまな遺伝子が関与しており、それらの遺伝子の働きによって、適切な数の神経細胞が誕生し、正常な脳が形成される。

 東京大学大学院理学系研究科附属遺伝子実験施設の眞田准教授と倉林助教は、ヒトの21番染色体上に位置するDYRK1A(タンパク質リン酸化酵素)とDSCR1(脱リン酸化酵素カルシニューリンの阻害因子)が共にマウス胎仔脳の神経幹細胞に強く発現していることを見出した。そこで、子宮内胎児電気穿孔法(図2)によってDYRK1AとDSCR1遺伝子をマウス胎児脳の神経幹細胞に導入し、これら遺伝子が通常の1.5倍程度、つまり過剰に発現された場合に神経幹細胞から神経細胞が分化する過程に及ぼす影響を検証した。その結果、DYRK1AとDSCR1遺伝子を同時に過剰発現すると、神経幹細胞の働きが鈍化し、神経細胞が生み出されにくくなった。一方、これら2つの遺伝子のうち、片方のみを過剰に発現させても同様の効果は認められなかった。以上から、DYRK1AとDSCR1遺伝子の発現量が共に上昇することによって起こる協調作用が神経幹細胞の働きに重要であると示唆された。


 これまでに、DYRK1AとDSCR1を含む、ヒト21番染色体上の約88遺伝子に相当する遺伝子が3つに増えているマウス(ダウン症モデルマウス)では神経幹細胞から神経細胞が誕生しにくくなっていることが知られていた。そこで、子宮内胎児電気穿孔法によってこのダウン症モデルマウスの神経幹細胞にDYRK1AとDSCR1遺伝子の発現を阻害するRNAを導入し、これら遺伝子の発現量を減少させた。その結果、通常このモデルマウスで見られる、神経細胞が生み出されにくいという現象が緩和された。さらに、このDYRK1AとDSCR1遺伝子の過剰な発現はNFATcとよばれる転写因子の働きを抑制し、これが神経細胞が生み出されにくい現象に寄与していることを見出した。

 これらの発見は、21番染色体上に存在するDYRK1AとDSCR1遺伝子神経幹細胞の働きにとって重要な役割を担っており、ダウン症では、これらの遺伝子の量が増えることによって、神経幹細胞が正常に働かなくなることを示している(図3)。

 本研究は、ダウン症の脳において神経細胞数が減少する仕組みを明らかにするものであり、ダウン症の脳発生異常の仕組みの理解に大きな一歩を踏み出す知見である。

 ダウン症はおよそ800人の新生児あたりに1人という高い頻度で発生しており、遺伝子疾患及び染色体異常の中では最も頻度が高い。すなわち、ダウン症の治療戦略の確立は社会的要請が極めて高いと言える。今後、本研究のように脳の正常な形成や発達における21番染色体上の遺伝子の役割を明らかにすることで、ダウン症の発症の仕組みが解き明かされ、症状を緩和する治療法の確立に重要な指針を提供すると期待される。


<発表雑誌>
 雑誌名
  「Genes and Development」Dec 15,2013;27(24)

 論文タイトル
  Increased dosage of DYRK1A and DSCR1 delays neuronal differentiation in neocortical progenitor cells

 著者
  Nobuhiro Kurabayashi and Kamon Sanada

 DOI番号
  10.1101/gad.226381.113.


 ※以下の資料は、添付の関連資料を参照
  ・図2:子宮内胎児電気穿孔法
  ・図3:ダウン症の脳における神経細胞の減少


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