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東大、大規模転写データベースで精子の果たす役割を解明

2013-12-19

精子は発生開始のコーディネーター
大規模転写データベースによって明らかとなった精子の果たす役割



1.発表者:
 朴 聖俊(パク ソンジュン)(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 特任研究員)
 白髭 克彦(東京大学分子細胞生物学研究所附属エピゲノム疾患研究センター 教授)

2.発表のポイント:
 ◆世界的に類のない規模で受精直後の転写産物解析を行い、誰でも参照、検索可能なデータベースを構築した。
 ◆卵子と精子それぞれが発生を開始するための転写プログラムに果たす役割を示し、精子がこのプログラムを開始するためのコーディネーターとして働くことを明らかにした。
 ◆データベースは発生分化、多能性幹細胞等の基礎分野のみならず、不妊治療、再生医療などに寄与する。

3.発表概要:
 哺乳類では受精直後に卵子と精子のゲノムがそれぞれ再構築され発生を開始するための転写プログラムが動き始めます。この過程は個体形成においてきわめて重要ですが、これまでは大量の高品質な卵子を採取して、調整することが難しかったため、網羅的、包括的な転写解析によるこのような転写プログラムの実体解明は困難でした。
 東京大学分子細胞生物学研究所の白髭克彦教授、東京大学医科学研究所の朴聖俊特任研究員らは、東京大学大学院総合文化研究科の大杉美穂准教授の協力の下に、140,000個以上の高品質なマウス卵を採取し、正常発生と単為発生(注1)における遺伝子発現を網羅的かつ高解像度に明らかにしました。その結果、研究グループは、新たに5364個の新規転写産物を同定すると共に、正常な発生を開始するための転写プログラムの鍵となる約800個の遺伝子群を特定しました。従来、発生開始段階の転写プログラムは卵子があくまで主役であり、卵子が転写制御ネットワークを巧みに操り発生を促進する能力を備えていると考えられてきました。しかし、今回の発見で、精子が正常な発生のための転写プログラムに必須の役割(コーディネーター)を果たしていることが明らかになりました。この結果は、精子には単にゲノム情報の伝達以外の重要な役割があることを示しています。
 本研究の一環として得られた解析データは、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターのスーパーコンピュータ上でデータベースとして整備され、広く世界中の研究者に公開されています(http://dbtmee.hgc.jp/)。本研究は、発生分化や多能性幹細胞のメカニズム解明のみならず、不妊治療や再生医療などにも役立つことが期待されます。
 この研究は文部科学省革新的細胞解析研究プログラムによる援助の元に展開されました。

4.発表内容:
 哺乳類は受精直後から発生のための転写プログラムが起動します。この転写プログラムがどのように開始されるのかを解明することは多能性獲得やiPS細胞の確立を理解する上で重要であるだけでなく、社会的要請の高い不妊、再生医療等の医療分野にとっても大きく貢献することが期待できます。しかしながら、これまでは哺乳類からの大量の高品質な卵子を採取して、調整することが難しかったため、初期発生過程の転写産物の網羅的かつ包括的な解析は困難でした。今回、研究グループは高品質なマウス卵子を大量に採取する方法を確立し、140,000個以上の細胞を用いて、受精−発生初期の全転写産物の解析を行い、データベースを整備しました(http://dbtmee.hgc.jp/)。このデータベースには既存研究の10倍以上のスケールのデータを元に構築されており、発生を開始するための転写プログラムのより詳細な解析を可能にするものです。

 このデータベースの作製のために、研究グループはマウスの卵管から手作業により卵子を採卵、体外受精により受精−発生の転写プログラム開始直後の4つの時期について全転写産物を次世代シークエンサーにより解析しました。同様に、卵子を人為的に刺激して得た単為発生卵についても2つの時期について転写産物の解析を行い、これを正常な受精により発生した場合の転写プログラムと比較しました。本データベースでは新たに5364個の新規転写産物を同定する等、従来に比べ高い網羅性で遺伝子発現プロファイル(注2)を構築できたことが確認できました。さらに、面白いことに正常な発生においてはタンパク質を作らない非コードRNAが大量に転写されているという特徴が見られました。これは、発生を開始するための転写プログラムの開始には非コードRNAによる転写の抑制が寄与している可能性を示唆しています。その他にも、研究グループは精子の遺伝子発現プロファイル、プロテオーム解析データなどの既存データも活用し、817個の遺伝子が、単為発生では発現せず精子と卵子が出会って初めて発現する転写産物をコードする遺伝子であることを突き止めました。東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターのスーパーコンピュータを利用した計算モデルによる推定からは、これらの遺伝子の転写には108個の転写因子が必要であり、そのうち、5個(Nkx2−5、Myod1、Sox18、Foxd1、Runx1)の遺伝子が受精時にのみ発現し、この発現は精子が鍵を握っていることが示されました。従来、精子は単なる雄のゲノムの運び屋と考えられていましたが、これらの成果は従来考えられていた以上に精子が発生を開始するための転写プログラムに重要なコーディネーターの役割を担っていることを意味しています。

 研究グループは、この結果を統合して受精−発生開始の転写制御ネットワークモデルを構築し、その特性を解析しました。その結果は、卵子が転写制御ネットワークを巧みに操り発生開始を促進する一方で、精子が調整役として必須の役割を果たしていることを示しています。初期胚発生は卵子と精子それぞれが必須の役割を演じる、いわばバレエの男女主役による「Pas de deux(パ・ド・ドゥ)」であることが示されました。
 この研究は文部科学省革新的細胞解析研究プログラムによる援助の元に展開されました。

5.発表雑誌:雑誌名:Genes&Development,Dec 15,2013;27(24)
 論文タイトル:Inferring the choreography of parental genomes during fertilization from ultralarge−scale whole−transcriptome analysis
 著者:Sung−Joon Park,Makiko Komata,Fukashi Inoue,Kaori Yamada,Kenta Nakai,Miho Ohsugi(*),and Katsuhiko Shirahige(*)(*Shared Corresponding Authors)
DOI:227926.113


 ※用語解説・添付資料は、添付の関連資料を参照

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