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東大、極低消費電力回路を実現できるトンネル電流利用の新トランジスタを開発

2013-12-14

極低消費電力回路を実現できるトンネル電流を利用した新トランジスタを開発


1.発表者:
 高木信一(東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授)
 竹中充(東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授)

2.発表のポイント:
 ◆従来のトランジスタと比べ極めて低い0.3V程度の電圧で動作しうる、トンネル電流を用いた新しいトランジスタの開発に成功した。
 ◆亜鉛を用いた新しい接合形成技術により、これまでのトランジスタとほぼ同等の構造のままで、高い性能をもつトンネル電流トランジスタを実現した。
 ◆従来のトランジスタでは実現できない0.3V以下の低電圧で動作する集積回路への道を拓き、IT機器の大幅な省電力化をもたらすと共にバッテリー不要なLSI(注1)など新しい応用を可能にする。

3.発表概要:
 IT機器が消費する電力は近年急激な増加を示しており、2025年には現在の約5倍、国内総電力量の20%を消費すると試算されています。そのような試算に基づき、集積回路の低電圧化の限界とIT機器の消費エネルギーの増大は、現在、重大な課題となっています。
 今回、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の高木信一 教授と竹中充准教授は、住友化学株式会社(代表取締役社長 十倉 雅和)との共同研究により、極低電圧での動作が可能な新しいトンネル電流トランジスタ(注2)の開発に成功しました。従来のMOSトランジスタ(注3)とほぼ同等の素子構造を用いながら、亜鉛の拡散による急峻な不純物分布を持つ接合を導入することで、新しいトンネル電流トランジスタを実現し、ゲート電圧のわずかな変化により大きな電流変化をもたらすと共に、素子のオン状態とオフ状態での電流比を世界最高値にまで高めることに成功しました。
 この素子を用いることで、従来のトランジスタでは実現できない0.3V以下の低電圧で動作する集積回路への道を拓き、IT機器の大幅な省電力化をもたらすと共にバッテリー不要なLSIなど新しい応用を可能にすると期待されます。
 なお、本研究の一部は、独立行政法人科学技術振興機構のCREST・研究領域「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」(極低消費電力集積回路のためのトンネルMOSFETテクノロジーの構築)の支援を受けて行われました。

4.発表内容:
(1)研究の背景・先行研究における問題点
 IT機器が消費する電力は近年急激な増加を示しており、2025年には現在の約5倍、国内総電力量の20%を消費すると試算されています。IT機器の消費電力の多くは、LSIチップに起因していることから、エネルギー利用の飛躍的な高効率化を実現するためには、LSIチップの論理演算に使われているMOSトランジスタの消費電力の低減、特に電源電圧の低減が焦眉の課題となっています。しかしながら、論理演算において信号のオン・オフを司るこれまでのMOSトランジスタでは、原理的にオン状態とオフ状態の電流をわずかな電圧変化で切り替えることができず、本質的に電源電圧を下げられないという問題がありました。
 この問題を解決するために、これまでのMOSトランジスタにおける電流のオン・オフ機構と原理の異なる新しい素子が必要とされています。このような新原理の素子として、電子がエネルギー障壁を量子力学的にトンネリングする際のトンネル電流を利用し、これをゲート電極により制御するトンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)が、近年注目され始めています。しかしながら、トンネルFETはまだ研究途上にあり、これまでの報告例では、電流をわずかな電圧変化で急峻に切り替えようとしても、オン電流とオフ電流の差を大きくとることができないという問題がありました。またこれまでの多くのトンネルFETでは、縦型構造など従来のMOSトランジスタとは異なる素子構造が取られるため、現在の半導体技術を転用しにくく作製が困難という問題もありました。

(2)研究内容
 トンネルFETにおいて、オン電流とオフ電流の差を大きくとるためには、電子の量子力学的トンネリング(注3)を起こすエネルギー障壁の幅を非常に薄くすること、更にこのトンネル電流を大きくすることができる材料上の工夫が必要です。そこで今回、研究グループはInGaAs(In:インジウム、Ga:ガリウム、As:ヒ素)というバンドギャップが狭くトンネリングを起こしやすい材料を使用すると共に、トンネルFETにおいてトンネリングを起こすソース側のpn接合(注6)を、亜鉛の拡散により形成することにより、現在主流で用いられているトランジスタと同様のMOS型かつ横型(プレーナ)構造を用いながらも、極めて薄いエネルギー障壁幅を形成することに成功し、わずかな電圧変化で急峻に電流を切り替えることと、大きなオン電流とオフ電流の比を得ることの両方を、同時に実現することに成功しました。
 InGaAs中での亜鉛の独自の拡散挙動により、亜鉛は、亜鉛濃度の高い部分では高い拡散係数を、濃度の低い部分では低い拡散係数を持ちます。この結果として、InGaAs中に亜鉛を固層拡散すると、自動的に極めて急峻な不純物分布が形成され、この結果、極めて薄いエネルギー障壁幅を有するpn接合が形成できることを初めて見出すと共に、この現象を高性能のトンネルFETの特性実現に結びつけることに成功しました。結果として、S係数(注4)と呼ばれる電流変化の急峻性の尺度で64mV/decade、またオン電流とオフ電流の比として2x106というこれまでのトンネルFETで最も大きい値を実現しました。
 トンネルFETは、現在、将来の極低消費電力集積回路に必須の素子として世界的に認知されているため、その研究開発は、世界的な企業・国立研究機関・大学などの間で、しのぎを削る開発研究が現在進められています。今回の研究成果は、これまでインテルやベルギーの研究機関imec、カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学などから報告されているトンネルFETの特性を上回る性能を実現しています。

(3)社会的意義・今後の予定
 現在、データセンターやIT機器の消費電力削減と問題と省エネルギーの必要性は、明白な国際的な課題となっております。このため、これまでのトランジスタの電力を大きく削減できるトンネルFETが実用化されれば、集積回路技術に与えるインパクトは極めて大きいと言えます。特に、現在のSiトランジスタ工程と整合性のよい方式を実現できれば、トンネルFETは、現存する半導体製造工程に直ちに組み込まれ、現在のSi MOSトランジスタとも容易に集積化され、爆発的に用途や適用例が拡大してことが期待されます。特に、トンネルFET技術は、これまでの半導体分野の進展を支えてきた微細化に頼ることなく低消費電力化が実現できるため、現在曲がり角を迎えている微細化の課題を解決し、特に日本の半導体産業の活性化と再生につながる重要な技術となる可能性を秘めていると言えます。
 一方、製品応用に目を転じると、極低消費電力素子が必要な分野は既に多く存在し、センサーネットワークや自ら発電をする集積回路など、消費電力を極限的に下げることへの要請は数多く存在しているため、トンネルFETの実用化により、これまでの半導体集積回路技術では実現できなかった新たな応用分野や市場が出現、拡大し、結果として、半導体集積回路の応用領域が大きく広がっていくことが期待されます。

5.発表雑誌:
 本研究内容は、国際会議“2013 International Electron Device Meeting”(IEDM 2013)
 (2013年12月9日〜11日、米国・Washington DC.)において、2013年12月11日午前9:05−9:30に以下の著者とタイトルで発表を予定しております。
 M.Noguchi,S.Kim,M.Yokoyama,O.Ichikawa,T.Osada,M.Hata,M.Takenaka,S.Takagi,“High Ion/Ioff and Low Subthreshold Slope Planar−Type InGaAs Tunnel FETs with Zn−Diffused Source Junctions”


 ※用語解説などは、添付の関連資料を参照

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