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理化学研究所や千葉大など、植物の大きさを制御する新たな手法を発見

2013-11-18

植物の大きさを制御する新たな手法を発見
〜植物の原形質流動の本質的な役割を解明〜


<ポイント>
 ○植物では細胞質が運動する原形質流動という輸送現象があるがその役割は謎であった。
 ○原形質流動を人工的に高速化・低速化すると、植物が大型化・小型化することを発見。
 ○有用植物の増産や成長制御、さらにはバイオエネルギー生産などへの貢献に期待。


 JST課題達成型基礎研究の一環として、理化学研究所 光量子工学研究領域の富永基樹 専任研究員らは、原形質流動の発生を司るモーターたんぱく質(注1)を人工的に高速化・低速化することで、植物を大型化・小型化させることに成功しました。
 藻類から高等植物までのあらゆる植物の細胞では、小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官とともに細胞質が活発に動く原形質流動という現象が見られます。これまでの研究で、原形質流動は細胞小器官に結合したモーターたんぱく質のミオシンXIが、細胞骨格を構成するアクチン繊維の上を運動することによって発生することが知られています。これは、動物の筋肉が収縮する時の仕組みと基本的に同じですが、筋肉は動物が運動するために必要なのに対し、動くことができない植物で原形質流動がどのような役割を担っているかは、200年以上前に発見されて以来大きな謎でした。
 今回、富永 専任研究員らは、モデル生物シロイヌナズナからミオシンXIの遺伝子を単離し、運動速度を決定するエンジンに当たるモーター遺伝子を、移動速度が異なる他種のミオシン(生物界最速のシャジクモ(注2)ミオシンXIと植物に比べて速度の遅いヒトミオシンV)のモーターと付け替えることで、高速型・低速型ミオシンXIを人工的に作り出しました。それらのミオシンXIを単離して性能評価を行い、さらに細胞内のミオシンXIでも性能評価を行ったところ、高速型・低速型ミオシンXIはそれぞれ通常のミオシンXIよりも高速化・低速化していることが実証されました。この速度改変型ミオシンXIを、シロイヌナズナで発現させたところ、高速型では植物が大型化し、低速型では植物が小型化することを見いだしました。速度を人工的に改変したミオシンを生体内で発現させた例は動・植物を含め世界初で、これにより、植物の大きさを制御するために原形質流動が重要な支配要因となることを世界で初めて証明しました。原形質流動は基本的な現象であるため、さまざまな植物の大きさを制御できる可能性があると考えられます。今後は、原形質流動が植物の大きさを制御するメカニズムの解明を進め、将来的にはこの技術をバイオマスエネルギーや食物に関連した有用植物に適用し、地球環境負荷の低減に向けて貢献することが期待されます。
 本研究は、千葉大学の伊藤 光二 准教授と共同で行ったもので、本研究成果は、2013年11月11日(米国東部時間)発行の米国科学誌「Developmental Cell」のオンライン速報版で公開されます。

 ◆「ミオシンXIの運動モデル」動画(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/index.html#MO1
 ◆「原形質流動の速度評価」動画(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/index.html#MO2


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
 研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
       (研究総括:松永 是 東京農工大学 学長)
 研究課題名:「生物界最速シャジクモミオシンを利用した植物成長促進システムの開発」
 研究者:富永 基樹(理化学研究所 光量子工学研究領域 専任研究員)
 研究実施場所:理化学研究所 光量子工学研究領域
 研究期間:平成24年4月〜平成27年3月

 JSTはこの領域で、藻類・水圏微生物には、高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを活かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指しています。


<研究の背景と経緯>
 一見動かない植物の細胞内では、原形質流動と呼ばれる、動物に比べて非常に速い細胞内輸送が行われています。原形質流動は200年以上前に発見されましたが、植物においてそれが果たす役割はそれ以来の大きな謎でした。現在、原形質流動は、オルガネラ(小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官)に結合したモーターたんぱく質ミオシンXIが、繊維状たんぱく質であるアクチン細胞骨格上を運動することによって発生することが知られています(図1)。
 富永専任研究員らは、これまでに植物ミオシンXIが2量体を形成しており、2個のモーター領域が交互にアクチン繊維上を結合・解離することによって、あたかも人が歩くように運動するタイプのモーターたんぱく質であることを明らかにしました(図2)(動画:ミオシンXIの動き(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/index.html#MO1))。また、その形や運動メカニズムは、動物細胞内で輸送を担っているミオシンVと類似していますが、運動速度は10倍以上速いことも明らかにしました。
 近年、分子遺伝学的手法によって、ミオシンXIを欠損させると、オルガネラの運動が遅くなり、植物の成長を阻害することが明らかとなってきました。しかし、原形質流動が植物でどういった役割を果たしているのかという本質的な問いに答えることはできませんでした。


<研究の内容>
 本研究では、ミオシンXI本来の速度に人工的な改変(高速化・低速化)を施し植物で発現させ、その影響をみることで、植物成長とミオシン速度の直接的な関係を明らかにしようと試みました。
 モデル植物であるシロイヌナズナで、原形質流動の発生に関与することが知られているミオシンXI−2を速度改変の対象としました。ミオシンの運動速度を決定するエンジンに当たるモーター領域遺伝子を、生物界最速の移動速度を持つシャジクモミオシンXI、あるいは植物に比べて移動速度の遅いヒトミオシンVのモーター領域と入れ替えることによって、人工的な速度改変型キメラミオシンXI−2(高速型・低速型)を開発しました。エンジンだけを入れ替えることで、シロイヌナズナ細胞内でのオルガネラとの結合能力を保持したまま、アクチン上の運動速度を変化させることができます。
 まず、開発した速度改変型ミオシンXI−2の性能評価を行いました。植物内ではミオシンXIの量が非常に少ないため、速度改変型ミオシンXI−2を昆虫細胞で大量発現させて精製した後、単離したミオシンXIをガラス表面に結合させ、エネルギーであるATPを添加して、アクチンを滑り運動させることにより運動速度を測定しました。その結果、野生型ミオシンXIに対し、高速型は約2倍の高速化、低速型は1/35の低速化が確認できました。さらに、蛍光たんぱく質GFPを融合したミオシンXI−2を、シロイヌナズナ培養細胞で発現させ、蛍光顕微鏡で観察しました。その結果、いずれのミオシンXI−2も同様な膜状のオルガネラに結合していましたが、その運動速度は、野生型に対し、高速型では増加、低速型では低下していることが明らかとなりました。
 その後、たんぱく質レベル、細胞レベルともに高速化・低速化が実証された速度改変型ミオシンXI−2を、シロイヌナズナで発現させ、原形質流動速度や植物の成長に及ぼす影響を解析しました(動画:原形質流動(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/index.html#MO2))。高速型ミオシンXI−2を発現させたシロイヌナズナでは、原形質流動の高速化(1.5〜2倍)に伴い植物が大型化、一方、低速型ミオシンXI−2を発現させたシロイヌナズナでは、原形質流動の低速化(ほぼ0)に伴い植物が小型化することが明らかとなりました。この時、葉面積は高速型で約40%増加し、低速型で30%減少していました。葉の細胞面積はそれぞれ約50%増加、30%減少しており、葉当たりの細胞数はほぼ変わらないことから、大型化・小型化の要因は、主に細胞サイズの増加・減少であることが分かりました。また、植物地上部の乾燥重量も高速型で40%増加、低速型で20%減少していました。原形質流動速度(ミオシン速度)と植物サイズ(細胞サイズ)に比例的な関係性が示されたことから、原形質流動が植物サイズを規定する重要な因子であることを世界で初めて直接的に証明することができました(図3)。


<今後の展開>
 原形質流動の速度が、植物の大きさの決定に影響していることが分かりましたが、どういった物質の輸送が直接的な要因となっているのかはまだ分かっていません。本研究システムを使えば、近い将来その物質を特定することが期待できます。また、原形質流動の発生力として、本研究で用いたミオシンXI−2のみならず、ほかにも数種類のミオシンXIの関与が示唆されています。速度改変システムをそれらのメンバーにも適応することで、原形質流動のさらなる詳細なメカニズムについて明らかにすることができます。
 原形質流動は細胞内の物質輸送のために、藻類から高等植物までさまざまな植物で発生する基本的システムです。ミオシンのモーター領域付近の構造は植物の種によらず非常に似ているため、あらゆる植物由来のミオシンXIも速度改変は可能です。特に、植物の増産や成長制御など応用面への展開を考えた場合、非常に有効な手法だと考えられます。例えば、食糧に関連する植物のミオシンXIを単離し速度改変を施した後、茎で低速型ミオシンXI、葉で高速型ミオシンXIを発現させることにより、背丈が低く風などの倒状に強いが、収量の多い作物を自在にデザインできる可能性もあります。さらに、原形質流動に関与する複数ミオシンXIメンバーを同時に高速化することによって、植物サイズをさらに大型化できる可能性もあります。将来的には、バイオマスエネルギー分野で注目されている微細藻類に高速型ミオシンXIを導入することで、細胞の成長が促進され、時間当たりの増産が可能になるかもしれません。
 近年、植物の大きさを制御する手法として、主に光合成能や窒素固定能の増強あるいは転写因子などに着目した研究が進められてきましたが、細胞内の物質輸送に着目した植物成長促進システムは全く新しい発想に基づくものです。既存の成長促進システムと本高速化システムを併用することによって、効果の飛躍的増強が可能になるかもしれません。これまでにない発想から生まれた本研究成果は、植物増産やバイオエネルギー生産などにおいて汎用性が高く、しかも既存のシステムとは全く違った側面からの貢献が期待できる強力な手段となり得るポテンシャルを持っています。


<参考図>

 ※添付の関連資料を参照


<用語解説>
 注1)モーターたんぱく質
  ATPの加水分解によって化学エネルギーを運動に変換するたんぱく質のこと。アクチン上を動くミオシン、微小管上を動くキネシンやダイニンが知られている。

 注2)シャジクモ
  淡水産の藻類。1つの細胞が10センチ以上に成長することもあり、その原形質流動は高等植物の10倍以上速い。原形質流動を発生しているシャジクモミオシンXIは、生物界最速のモーターたんぱく質として知られている。


<論文タイトル>
 “Cytoplasmic Streaming Velocity as a Plant Size Determinant”
 (原形質流動は植物サイズの決定因子である)



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