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東北大、空間的記憶や情動的記憶をつかさどる海馬を中心とした神経ネットワークを解明

2013-11-09

空間的記憶や情動的記憶をつかさどる
海馬を中心とした神経ネットワークの解明


 東北大学大学院生命科学研究科の飯島敏夫教授らのグループは、ニューロン神経細胞)からニューロンへとシナプスを超えて次々に伝播する遺伝子組換えウイルスを用いて、ラットの海馬に情報を送る神経ネットワークの構造を調べました。カシューナッツのような細長い形のラット海馬体の約3分の2をなす背側の部分(背側海馬)と、残り3分の1をなす腹側の部分(腹側海馬)は近年の研究からそれぞれ、空間的記憶の形成と情動を伴う記憶の形成に強く関与すると考えられてきています。今回の研究でそれぞれの部位は、梨状皮質や内側縫線核、内側手綱核などの脳領域から入力を受けること、そしてそれら入力回路のあいだにはほとんど重なりが認められない、すなわち情報の干渉がなく独立していることを世界で初めて直接的に証明しました。長軸方向に沿って異なると考えられる海馬の記憶形成能の違いは、この入力回路の独立性という構造的基盤によって支えられているものと考えられます。海馬に入力する複雑な情報流路の一端を明らかにした本研究結果は、海馬を中心とした記憶形成メカニズムの解明に大きく貢献すると期待されます。この研究成果は、生命科学・医学を含む科学分野全般に高く評価されている米国科学誌Public Library of Science(PLoS ONE)(11月5日号電子版)に掲載されます。
 また、同グループは標的ニューロンの機能解析を可能とする遺伝子組換えウイルスの作製に成功しました。この新規改変ウイルスを用いることで、上記研究で同定した並列回路が記憶形成にどのように関与しているのか調べることが可能になります。この研究成果は、PLoS ONE(11月7日号電子版)に掲載されます。


【研究内容と研究の意義】
 記憶の中枢として知られている海馬は細長い構造をしており、その長軸と垂直な断面は切断箇所が違っても、金太郎飴のように、ほぼ同様な神経回路構造を含むことが知られています。しかし、その機能は長軸に沿って異なり、ヒトの海馬後部(ラットの背側海馬に相当する部位)は空間的記憶の形成に関与し、一方、海馬前部(ラットの腹側海馬に相当する部位)は情動を伴う記憶の形成に深く関わると近年、考えられてきています。このような海馬の機能差を生む要因の一つとして、海馬と他の脳領域との配線が海馬前部と後部で違う可能性が考えられます。しかし、従来の神経回路標識法では海馬と複数のシナプス結合を介して接続された脳の領域の結合関係については正確に調べることができなかったため、海馬を中心とした記憶をつかさどる神経ネットワークの全容は明確にされてきませんでした(図1A)。
 飯島グループは遺伝子組換えウイルスを用いてラット海馬を中心とした神経回路を調べました。この組換えウイルスニューロン選択的に侵入し、シナプスを介してニューロンからニューロンへと情報伝達の流れに逆行して神経回路内を移動し、次々にニューロンに蛍光タンパク質を発現させることにより、正確に神経連絡の実体を標識します(図1B)。したがって、海馬にこの遺伝子組換えウイルスを注入すると、海馬に情報を送る神経回路を辿っていくことができ、情報を送信している脳領域を特定できます。さらに、異なる蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク;GFP、赤色蛍光タンパク;RFP)を発現させるように設計した遺伝子組換えウイルスを異なる脳領域にそれぞれ注入すると、それらの領域に入力する神経回路の関係を調べることができます(図1C)。今回、腹側海馬と背側海馬のそれぞれに接続する神経回路をGFPとRFPとで別々に標識し(図2A)、それらの神経回路を使って腹側海馬と背側海馬がいかなる脳の領域から入力を受けているのか、さらに、それら2つの入力回路間には情報連絡、あるいは干渉などの可能性があるのかを調べました。その結果、GFPを発現するニューロンの分布とRFPを発現するニューロンの分布の間にはほとんど重なりがありませんでした(図2B)。この研究において、背側海馬と腹側海馬に入力する神経回路が並列し、独立性が高く走行していることが世界で初めて確認されました(図2C)。この並列した神経回路により異なる情報がそれぞれ背側と腹側の海馬に運ばれ、長軸方向に沿った海馬の機能差が生まれているものと考えられます。今回の研究が明らかにした配線図を手掛かりとして、今後新たな、海馬を中心とした神経ネットワークの機能的構造(functional architecture)の研究が展開され、それにより海馬を中心とした記憶形成メカニズムの解明が大きく進展することが期待されます。


[論文題目]
 Organization of multisynaptic inputs to the dorsal and ventral dentate gyrus:Retrograde trans−synaptic tracing with rabies virus vector in the rat
  邦訳:遺伝子組換えウイルスを用いたラット海馬歯状回への投射経路の解析
  Ohara S.,Sato S.,Tsutsui KI.,Witter M.,Iijima T.
  PLoS One,in press,2013.


 Rabies virus vector transgene expression level and cytotoxicity improvement induced by deletion of glycoprotein gene
  邦訳:高い外来遺伝子発現能、及び低い細胞毒性を有する遺伝子組換えウイルスの作製
  Ohara S.,Sato S.,Oyama K.,Tsutsui KI.,Iijima T.
  PLoS One,in press,2013.


 ※図1〜2は、添付の関連資料を参照


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