イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

理化学研究所と東大、重いカルシウムで新しい「魔法数」34を発見

2013-10-17

重いカルシウムで新しい「魔法数」34を発見
−原子核物理学の夢の1つ「安定原子核の島」到達の手掛かりに−


<ポイント>
 ・カルシウム‐54は魔法数を2つ持ち原子核で特別な性質があると期待
 ・RIビームファクトリーを使い、わずか10時間でカルシウムの同位体の性質を測定
 ・魔法数が現れる新しい法則や未知の領域での魔法数の探索へ

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)と東京大学(濱田純一総長)は、重いカルシウム同位体の研究から、新しい魔法数34を発見しました。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)櫻井RI物理研究室のデービッド ステッペンベック 元国際特別研究員(現 東京大学 特任研究員)、武内聡協力研究員らを中心とする国際共同研究グループ[1]の成果です。

 原子核がとくに安定になる陽子または中性子の数は「魔法数」と呼ばれ、これまでに2、8、20、28、50、82、126が知られています。魔法数は、1949年に提案され、多くの実験データの説明に成功した後、不変のものと考えられ、1963年に魔法数を証明したマイヤーとイェンセンはノーベル賞を受賞しました。しかし、近年の研究から陽子に比べて中性子が非常に多い原子核では、既存の魔法数が魔法数として成り立たなくなることが分かり、2000年には理研の研究グループにより新しい魔法数[2]16が発見されました。これらのことから、従来説が異なる可能性がでてきたため、魔法数研究の重要性が世界的に認識されるようになりました。理論面では、2001年に東京大学の研究グループが、陽子数が魔法数20のカルシウム同位体で、中性子数34が新たな魔法数として出現すると予言しましたが、実験的検証が難しいためこれまで解決されないままでした。

 国際共同研究グループは、世界最高性能の理研仁科加速器研究センターの重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[3]」を使い、「カルシウム‐54(54Ca)」の中性子数34が魔法数かどうかを調べました。自然界には存在しない54Caを生成するため、亜鉛‐70(70Zn)を大強度で加速し、スカンジウム‐55(55Sc)などの中性子過剰な放射性同位元素(RI)をRIビームとして取り出しました。さらに、55ScのRIビームをベリリウム(Be)標的に照射することで54Caを生成し、その励起準位[4]の測定に成功しました。54Caの励起準位のエネルギーは、周りの原子核に比べて大きく、また理論的に解析したところ中性子数34が魔法数であることを世界で初めて見いだしました。今回、RIBFによる所期のデータの取得はわずか10時間で行うことができ、RIBFが成果創出の高い効率性を持つことを世界に示しました。

 カルシウム同位体において中性子数34が魔法数であることを明らかにし、10年来の問題に決着がつきました。今回の成果により、魔法数が現れる新しい規則性や、不安定原子核をも包含する原子核の成り立ちの統一的理解へ向け、大きな一歩を踏み出しました。

 本研究成果は、英国の科学雑誌「Nature」(10月10日号)に掲載されます。

<背景>
 原子の中心には核子(陽子と中性子)から構成される原子核があり、この核子の数により原子核の性質が変化します。原子核が比較的安定になる核子の数のことを魔法数と呼び、これまでに、2、8、20、28、50、82、126が知られています(図1)。核子は、量子力学的にエネルギーが飛び飛びの軌道に入ります(図2)。これら軌道間のエネルギーが近い軌道群を「殻」と呼び、1つの殻にはいる核子の数は殻ごとに異なります。魔法数は、殻間のエネルギーが大きなところに現れます。1949年に、米国のマイヤーとドイツのイェンセンは、軌道や殻間のエネルギーギャップに関する、原子核の「殻構造」モデルを提唱することで魔法数を説明することに成功しました。この発見により2人は1963年にノーベル物理学賞を受賞しました。それ以来、魔法数は全ての原子核において変わらないものとして長く考えられてきました。

 2000年に理研の研究グループはRIビームを利用した実験によって、陽子に比べ中性子の数が多い不安定原子核の領域では、魔法数8、20、28が消えて、新たな魔法数6、16、32が出現することが見いだされ(図1)、これまでの常識を大きく覆す現象を発見してきました。新しい魔法数が出現した理由として、特定の軌道のエネルギーが変わり、殻構造が変化したからだ、と考えられます(図2)。「殻構造が不安定核領域で変化する理由はなにか?」、「安定核と不安定核を統一的に理解して、原子核に現れる魔法数の法則性を明らかにできないか?」といった問いに対して、理研仁科加速器研究センターでは実験的な立証をするための挑戦が続けられており、重イオン加速器施設「RIBF」を用いた未知の原子核領域で殻構造の変化や新しい魔法数を探索しています。

 同時に、理研での新しい魔法数の発見が起爆剤となって、魔法数に関する理論的な検討も進んできました。2001年には東京大学の研究グループが「中性子過剰なカルシウム同位体で、中性子数34が魔法数となる」と予言し、その後34が魔法数となるか否かが議論となっていました。しかし、実験上の困難から、世界各地の先端的な研究機関での実験で魔法数34の証拠が中々見つからなかったので、そもそもそんなものはないのではないか、という指摘もされていました。国際共同研究グループは、カルシウム‐54(54Ca:陽子数20、中性子数34)の中性子数34が魔法数であるかどうかを調べる実験を、RIBFが稼動した2007年に計画し、2008年には原子核の粒子識別装置「ゼロ度スペクトロメータ」が完成、2012年にようやく待ちに待った本実験を行うことができました。

<研究手法と成果>
 魔法数を持つ原子核は比較的安定であり、その原子核の励起準位のエネルギーが高くなる特徴があります(図3)。国際共同研究グループは、54Caの励起準位を生成し、そのエネルギーを測定することで54Caを調べました。励起準位をつくる方法として、理研が独自開発した2段階破砕反応法[5]を用いました(図4)。

 国際共同研究グループは、54Caの励起準位を生成するために、まず超伝導リングサイクロトロン(SRC)[6]で亜鉛‐70(70Zn:、陽子数30、中性子数40)を光速の約70%(核子当たり345 MeV:メガ電子ボルト)まで加速して、標的原子核のベリリウム(Be)に照射し、核破砕反応を起こさせます。すると70Znの陽子や中性子がはぎ取られて、さまざまな種類の原子核ができます。次に、その中から、超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)[7]を用いてスカンジウム‐55(55Sc:陽子数21、中性子数34)やチタン‐56(56Ti:陽子数22、中性子数34)をビームとして分離・生成します。これらの不安定核は、54Caに比べて陽子数が1つ2つ多く、中性子数が同じです。この55Scと56TiのビームをBeに照射し、2回目の核破砕反応を起こさせて陽子をはぎ取り、54Caを生成しました。54Caの生成は、ゼロ度スペクトロメータで確認しました。さらに、54Caの生成と同時に脱励起で放出されるガンマ線を、標的原子核の周りに配置した高効率ガンマ線検出器で測定したところ、54Caの励起準位のエネルギー値は、2043keV(キロ電子ボルト)でした(図5)。今回の実験では、他の加速器施設では最低でも2週間程度の時間がかかるところを、わずか10時間という短時間で所期データを取得することに成功し、RIBFの持つ成果創出の高い効率性を世界に示しました。

 これまで、54Caの励起準位のエネルギー値は、さまざまな理論模型により予想値に大きな拡がり(1400〜3800keV)があったこともあり、中性子数34が魔法数かどうかの議論がありました。今回の実験により、54Caの励起準位のエネルギー値は2043keVと決まりました。これは、中性子数32の励起準位のエネルギーに比べると少し低いですが、魔法数ではない24、26、30のそれと比べると大きいことが分かります。また、カルシウム同位体よりも陽子が2つ多いチタン同位体では、中性子数34での励起エネルギーは1200keVで、中性子数30とほぼ同じで小さい値となっていますが、カルシウム同位体になると2043keVまで増え、安定性が急増します。もし、中性子数34が魔法数でないならば、カルシウム同位体でもチタン同位体と同様の結果になるはずですが、そうなっていないことは中性子34が魔法数であることを示唆しています。そこで、54Caの励起準位のエネルギー値を理論モデルに適応し計算したところ、殻が大きく変化し、中性子数34が魔法数となっていることが分かりました(図6)。

<今後の期待>
 今回、54Caの中性子数34は魔法数であることが分かりましたが、54Caの陽子数20も魔法数であり、陽子数・中性子数ともに魔法数を持つ原子核は他の原子核にはない特別な性質を持つことが期待されます。今後、54Caの特異性を明らかにするために、54Caよりも重く中性子過剰な55Caや56Caの励起準位や質量、電磁モーメントを測定することが重要になります。また、原子核物理学の分野において重要な「安定原子核の島[8]」への到達を目指した研究では、ウランよりも重い超重元素をつくる必要があります。そのために、54Caと別の原子核を融合させる手法が有効かもしれません。さらに、宇宙での元素合成過程で、54Caが重要な役割を果たしている可能性もあります。

 今回の54Caの場合に起きた殻の変化について、魔法数34を予言した理論では、湯川秀樹博士が提唱したパイ中間子によって生成される核力の非中心力[9]の成分が鍵を握っています。この非中心力はテンソル力と呼ばれ、陽子、中性子の数によってその効果が変わり、軌道のエネルギーを変化させます(図2)。このテンソル力効果はカルシウム領域だけではなく、全ての原子核に適用でき、未知の領域の魔法数の喪失現象も予想しています。理論と実験とが両輪となり、安定核だけでなく不安定核も包括した原子核の成り立ちについての統一的な理解に向けて研究が進み、殻の変化を引き起こす謎が解明されつつあります。

 今後も理研仁科加速器研究センターではRIBFを用いて、54Ca周辺だけでなく、未知の領域で新しい魔法数や魔法数喪失現象の探索を行います。その結果として、理論ではまだ予想されていない新しい殻構造の変化を発見できるかもしれません。


 ※以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版